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新人社員の限界社会生活①

2022年。
大学を卒業した僕はとある企業に就職した。詳細は伏せるが、とりあえず営業部に配属された。
初めての一人暮らし、新しい職場。大学時代とは全く違った生活に最初はワクワクした。
けど、そこから先にあったのはコミュ障陰キャ22歳の自分にはとても耐えうることのできない地獄だった……。
今回はそんな地獄の一端を紹介していこうと思う。


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二人きりのドライブ。社長の洗脳


「社員のみんなはさ、限界新人社員くんのことをまだ何も知らないんだよ」

研修の一環で行った巡回(お得意様の家を回って営業する仕事)の帰り道。社長の運転で夜(18時半。定時はとうに過ぎた)の高速道路を駆け抜ける中、社長がふいに、そう切り出してきた。入社して三週間経った日のことだった。
「まあ、そうかもしれませんね……」
社長の発言に僕は首肯した。言いたいことが何となく予想できたからだ。
入社してから三週間が経ち、僕は社員との一対一の会話はできるようになったが、それでもまだ複数人の社員と談笑することができなかったのだ。自分の中でまだ、他社員との親密度が全体的に足りない気がして輪に入っていけなかった。
だからこそ、そんな僕を憂いた社長はこう言いたいのだろう。
「君にはもっと社員のみんなに話しかけて仲良くなってほしいんだ」と。
コミュ障陰キャの僕には難しい課題ではある。けれど、確かに会社の仕事を円滑に回していくためには大事なことだと思った。
なるほど。これは頑張らないと――。
しかし、そう頭の中で結論付けようとする僕に、社長は。

「だからね、君はまだ何者にもなれると思うんだ」

「はい……。……はい?」
今なんて? 
いきなりの発言に訳が分からなくなる。
そんな僕を見て、社長はすまし顔でさらに続けた。
「つまりね、君がもっと明るい人格になったって誰も不思議には思わないんだよ」
そこまで言われて、ようやく気が付いた。
「……あ、こいつは僕が他の社員と仲良くできてないのを憂いているのではなく、単純に今の僕の人格が気に入らないんだな」と。
絶句した。
個性を重んじる昨今の時代で、いまだにこんなことを言ってくる上司がいるという事実に思わず悪寒が走った。
けれど、そんな僕などお構いなしにその後も社長は、
「やっぱり営業はお客様が相手だからね。お客様的にも明るく対応してくれる人間の方がいいんだよ。それにお客様は神様だし。だから君も……わかるよね?」
などと、数十分にも渡って話を続ける。
その時の社長の顔は調教師そのもので、話の内容はさながら洗脳だった。そう、これは営業として社会に迎合させるための洗脳。
言い換えれば22年間、僕の中で構成されてきた考え方や経験則を真っ新にする作業だった。僕は何年もコツコツとやってきたモンストのデータを赤の他人に消されるような不快感を覚えた。
けれど、社長の話を否定できるわけもなく、僕は話を大人しく聞いて、「そうですね! おっしゃる通り!」と表向き賛同し続けた。内心「せめて、他の社員のみんなは同じ考えじゃないでくれ……!」と祈りながら。
けれど、社長の洗脳は社員全員に満遍なく施されていたようで、社員の人はみなそれぞれ「人格を変えろ」「仮面を被れ」「猫を被れ」と、入社して三週間の新人社員に語ってくるのだった。

正直、最近はそう言われすぎて「実は本当に自分が愛想悪くて、可愛げなくて、性格が暗すぎるんじゃないか……?」と、思案するようになってきた。「もしそうなら自分は社会を生きるのに向いていないのかもしれない」と無力感も味わうようになってきた。
けれど、心の奥底では「何で三週間しか付き合いのない人間にこんなボロクソに言われなきゃいけないんだ?」とも思っている。
本当、どっちなんだこれ……。


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