見出し画像

「宮廷妖鬼調査省 鳳凰の行く末」 第二話 悪徳皇太子、夏睿 

■義勇軍医療団
夏睿はひどく汗をかいて寝台に寝ている。
詩響が夏睿の汗を拭く。

詩響(これきっと鳳凰陛下の影響よね。皇族が瑞獣を継承するって本当だったんだ)

詩響は脳内で夏睿が鳳凰を操る美しい姿を思い出しうっとりする。
廉心は頬を紅潮させる詩響にため息を吐いて押しのけ、夏睿の額に手を当て熱を測る。

廉心「意識なし。発熱あり。けいれんあり」
詩響「え?」

詩響驚き廉心を振り返る。

廉心「外傷は軽度の火傷。その他症状は熱中症に該当。昏倒直前に頓服薬と思われる錠剤を服用。突発性発作の疾患持ちである可能性が高い……いや、これは多分……」

廉心は口元に手を当てぶつぶつと言っているが、詩響はきょとんとして廉心を見つめる。

詩響「廉心? あなた、なに言って」
廉心「姉ちゃん。殿下に俺の姉だって知られないようにして」
詩響「え? なんで?」
廉心「なんでも。俺に興味が無いふりをしてて。いや、兄ちゃんと家に帰っててほしい」
詩響「殿下を放ってはいけないわよ。それに子供一人でどうするの」

廉心むっとして詩響を睨む。

廉心「子供じゃな」

夏睿が目を覚まし体を起こす。

夏睿「女の身内は母だけじゃなかったのか? 廉心」
廉心「殿下!」

廉心しまった、という顔。
詩響は慌てて睿の身体を支える。

詩響「いけません。まだ熱がおありです。横になってください」
夏睿「問題ない。鳳凰の副作用だ。それより廉心、どういうことだ」

廉心は唇を噛み俯く。

詩響(あれ? なんで殿下が廉心を知ってるの?)

恋愛シーンのように描く。
夏睿は詩響を見つめ、詩響はどきっとする。
夏睿は好青年で爽やかな雰囲気で描く。後半で本性を現し悪人顔になるため、ギャップが大きくなるように。

夏睿「廉心と似てるな。名は?」
詩響「湊詩響と申します。"詩(ことば)が響く”で『しいしゃん』」
夏睿「詩(ことば)か」

睿、再び詩響をじっと見つめて詩響は焦る。
恋愛シーンのように描く。

詩響(な、なんだろう。すごく見られてる)

睿にこりとほほ笑むと廉心に視線を移す。

夏睿「虚偽の理由は後でじっくり聞こう。それより北だ。様子を見てきたがお前の読み通りだった。俺を呼んだのは良い采配だな」
廉心「光栄でございます」

詩響は勢いよく廉心を振り返る。

詩響(は!? 廉心が殿下を呼んだの!?)

廉心は詩響の視線に気付くが、逃げるように睿と向き合う。

廉心「ご報告申し上げた件ですが」
夏睿「妖鬼に知能があるという話だな。本当か?」
廉心「はい。今回の襲撃で確信しました。連中は作戦行動を取っています」

廉心は机の上に置いてあった地図を取り広げる。
地図は村近辺の物で、一か所に丸印が描かれている。廉心はそこを指差す。

廉心「通常の出没地点がここ。今回はいつもより二十米ほど北寄りでした」(※米=メートル)
夏睿「誤差だな」
廉心「いいえ。連中の出現地点は五米と変わりません。必ずここ」
夏睿「必ずか?」
廉心「必ずです。それに襲撃頻度もこれまでと違います。必ず三十日前後空くので義勇軍主力で三十日ごとに出没地点で警備を展開しますが、今日は前回の襲撃からまだ十日弱」
夏睿「規則性を認識させ、油断したところを襲撃にきたか」
廉心「はい。先遣隊と本陣がいると思われます。先遣隊が通常やって来る中小型の群れで、先遣隊が経路が確立したから大型という本陣がやってきた」
夏睿「通常は中型五匹前後の部隊が道を作りその後を小型に十匹が付いてくる、だったか」
廉心「そうです。これは『中型が先陣を切り小型が後方を守備』という作戦でしょう。妖鬼は小さいほど皮膚が固く、大きいほど攻撃手段が豊富になる。個体の特性により陣形を組んでいるんです。確実に知能があ」
詩響「ちょっと待ってください!」

詩響は語り合う二人の間に割って入り、夏睿に背を向け廉心の両肩を掴む。

詩響「廉心! あなた一体なにしてるの!? なんなのこの話は!」

廉心は詩響から目を逸らし俯く。

廉心「俺は義勇軍の軍師をしてる。調査して当然だ」
詩響「は!? 軍師!? 医療団じゃなかったの!?」
廉心「……ごめん」
詩響「ごめんじゃないわ! どういうことなのよ、朱殷!」

詩響は朱殷を睨みつける。
朱殷は毅然とした態度で詩響を見つめる。

朱殷「廉心は自ら学び未来を選んだ。お前が口を出すことじゃない」
詩響「そんなっ……!」

詩響は言葉に詰まり拳を震わせる。
一瞬静まり返る室内。
夏睿は興味無さそうに肘をつきため息を吐く。

夏睿「話戻していいか」
廉心「はい。失礼いたしました」

詩響は夏睿を睨みつけるが、廉心はそれを遮り詩響を押しのけ夏睿と話しを再開する。
詩響はぎりぎりと拳を握り震えている。

詩響(廉心が勉強したがってることなんて分かってるわ! でも軍師なんて危ないこと絶対に駄目よ。どうしたら……)

はっと詩響は何かに気付いたように顔をあげる。
詩響の脳裏に今朝廉心が言っていた言葉が思い出される。

廉心『けどこの村って書院無いから勉強は自分でやらないとさ』

詩響(そうよ! 勉強なら書院よ! 書院へ入ればいいわ!)

詩響はぐっと拳を握りしめる。

詩響(都心に寮のある書院なら村を出られるわ。でも学費がいる。すぐは無理でも仕事を増やして切り詰めればなんとかなる)

詩響は一人で大きく頷き廉心を見る。
廉心は紙を広げて妖鬼の陣形を図に描きながら夏睿と語り合っている。

詩響(とにかくこれを止めさせなきゃ。でも皇太子殿下の邪魔をして不興を買うのは……)

詩響は困った顔で二人の様子を見守る。
夏睿は一瞬考え込み、ぽつりと漏らす。

夏睿「だが連中言葉は発しない。戦略会議ができるとは思えないがな」
廉心「それはそうなんですが」

廉心は冷や汗をかき言葉に詰まる。
詩響は、はっと気づいて目を大きく見開く。

詩響(言葉!)

詩響は夏睿の横に膝をつき、胸に手を当て食いつくように訴える。

詩響「あの妖鬼は殿下に頼みたいことがあったんだと思います!」
夏睿「は?」
詩響「殿下は北で妖鬼に出くわしたんですよね。きっと殿下を追ってきたんです!」
夏睿「思い込みはいい。妖鬼と話しができるわけじゃあるまいし」
詩響「できます! 私は異種族と会話ができるんです!」
夏睿「なんだと?」
詩響「姉ちゃん!」

夏睿はいぶかし気に眉を顰め、廉心は慌てて詩響の腕を引く。
けれど詩響は夏睿をじっと見つめる。

詩響(とにかく話がそれればいいわ。廉心より私に利用価値を見出させれば一旦は乗り切れるはず)

詩響はポケットから楽譜を取り出し夏睿へ差し出す。

夏睿「なんだこれは」
詩響「犬と鳥の鳴き声の楽譜です。私は聴けばどんな音でも楽譜に起こせます」
夏睿「絶対音感か」
詩響「そんなようなものです。楽譜に行動を当てはめていたら彼等の意図が分かるようになりました」
夏睿「へえ。妖鬼言語も分かるのか?」
詩響「いいえ。でも知能があるなら人間や動物と同じです。固有名詞は同じ音。きょろきょろするのは探し物をするから。逃げないのはここにいたいから。あの妖鬼は殿下に話があったんだと思います」
夏睿「ふうん。にわかには信じがたいが……」

夏睿は横目で廉心を見て、目が合った廉心は悔しそうに唇を噛む。
夏睿はくすっと馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

夏睿「余計な嘘を吐いたな、廉心」
詩響「え?」

詩響の言語解析が本当だからこそ、廉心は詩響を巻き込まないために姉であることを隠そうとしたと察した。
詩響は全く察しておらず、きょとんと首を傾げる。
夏睿はくっくっと面白そうに笑う。

夏睿「いいだろう。その技能試してやる。さっきの妖鬼が出没した地点を探って見せろ」
詩響「承知いたしました。では犬と鳥を呼んでまいります」
夏睿「いいや、お前が来い」
詩響「え?」

夏睿は夏睿の腕を掴んで寝台から立ち上がる。

夏睿「俺が直接調べる。案内しろ」
詩響「直接、ですか?」

廉心と朱殷は慌てて詩響を守るように割って入る。

朱殷「詩響は戦闘技術がございません。調査なら私がお供いたします」
夏睿「ほお。一介の兵が皇太子に指図するか。誰のおかげで義勇軍は存続できたと思ってる」
朱殷「っ……!」

朱殷は気圧され、遮っていた手を引いてしまう。

夏睿「行くぞ、詩響」
詩響「あの、ですが朱殷の言うとおりです。私は足手まといになるでしょう。自然の中なら犬のほうがずっと有能です」

夏睿は呆れ顔でふうとため息を吐く。

夏睿「お前たちは自分の立場が分かってないようだな」

夏睿は詩響の腕をぐいっと強く引き寄せ、耳元でこそりと囁く。

夏睿「これは頼みじゃない。命令だ。従わなければ廉心を妖鬼の餌にするぞ」
詩響「なっ」

夏睿はにやりと妖しい笑みを浮かべる。
これまでと雰囲気を変え、完全に悪人のような顔と雰囲気で描く。

詩響(人質ってわけ!? 脅しじゃない! 皇太子のやることなの!?)

夏睿はにやにやと笑みを浮かべ続け、詩響は夏睿を睨みつける。

夏睿「案内しろ」
詩響「……お任せください」

詩響は夏睿に掴まれた腕を振りほどく。
夏睿はくすくすと笑い部屋を出ていく。

詩響(こんな悪徳皇太子に負けるもんですか。廉心は私が守ってみせる!)

(第二話 終わり)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?