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こどもになったら

車で帰っているところだった。
桜の巨木のある角を曲がると、まもなく我が家だ。狭い道で直角に近いカーブなので、慣れているとはいえ気をつけないとこすってしまう。
ハンドルを切ったとき、後部席のチャイルドシーに座っている三歳の娘が話しかけてきた。
「ママー」
「なに?」
角を曲がることに気を取られながら生返事をする。
「ママがもうすこしこどもになったら、みーちゃんといっしょに保育園にいこうね。」

ははは、そうするよ。
笑って答えながら、私はその言葉に捉えられたかのように、目下の運転のことを忘れた。力のある言葉というのはしばし、こんなふうに一瞬で今いる場所を別次元に変えることがある。それでも角は無事に曲がれた。

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すべて未発表、noteのみのエッセイです。

シェアハウスでゆるく共同生活をしながら、人生のあれこれについて小声でお話しするようなマガジンです。 個人的なこと、「これはシェアしたほうが…

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