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【日記】ハトのキス
異動先の優しいおじちゃん係長が「毎日9時とかまでやってるの?」「今日もこのあと残業いくの?」と、毎日心配してくれる。この4月から職場が異動になったけれど、前の職場がド繁忙期のため、時間外に応援にいっている。それで、身を案じてくれているのだけど、優しすぎて恐縮してしまう。ありがたい。
そんな新年度だけど、今日は奇跡的に早く帰れる日だった。職場を出て駅に向かいかけたが、気が変わって方向転換、通りの反対側へ。喫茶店に向かう。
いつもはお昼にハンバーグ(ときどきカレー)をたべにいく喫茶で、昼はママさんが接客に大忙しだけど、夕方はマスターがひとりで回している。お店の温かい色味の照明も際立って、昼とはちょっと雰囲気が変わる。
コーヒーを1杯飲みながら、藤井基二『頁をめくる音で息をする』を読む(ちなみにアイスコーヒーだとここのが一番好き)。尾道の古本屋・弐拾dBを営む藤井さんによるエッセイ。大事にちびちび読んでいたが、ついに頁をめくりきってしまった。
一度だけ訪れたことのある弐拾dBは、お店の佇まいにも本のラインナップにも店主の存在感にも惹かれてしまう、遠くにありながら特別なお店。そして、今回読んだ文章も随所随所で心の奥で共鳴するというか、読みながら心中あぁ~みたいな声が漏れたり溜息をついたり、とにかくどれも好きだった。人生のバイブルってそうそう出会えるものではないけれど、この本は今後何度もめくることになると思った。
読んでいる間だけは、自分の本来のはやさで息ができる本だと思った。
読み終えた本の表紙や裏表紙を改めて眺めてから、ふと窓の外をみると、2羽のハトが戯れていた。その喫茶は、アーケード街の2階にあって、ちょうど窓の高さにアーケードの梁がみえる。その上で、2羽が戯れていたのだけど、戯れというか体当たりしながらくちばしののつつきあい、というかわりと濃厚なキス、といった感じのをずっと繰り返している。思わず「ハト キス」で検索、どうやら求愛行動らしい。雛に餌を与える原理で、オスがメスに給餌をする求愛給餌だそう。2羽はいったん連れ立ってどこかへ飛んでいったが、気づいたらまた戻ってきて、キスを再開していた。せっかく人目を避けて二羽の時間を楽しんでいただろうに、一部始終をうっかり目撃、というかしっかり観察してしまった。申し訳ない。
そんな感じの、いつもより3時間はやく帰り、400円のコーヒーを頼んだことで、人生の一冊を経験し、ハトのキスシーンに遭遇した日だった。
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