私は神木だ。千日の瑠璃(丸山健二)上・P16 / 0014
私は神木だ。
誰もが知っているのに正式な名称をあまり知られていない神社、そこに亭々として立つ神木だ。神の尊厳を汚し、神の高慢の鼻を挫く不吉な風が吹いてきたと思ったら、案の定、私が最も恐れている人間、正邪の区別を知らない少年、得手勝手に過ぎる世一が、またもや闇の底から現われた。彼は、狛犬や鳥居や大刈り込みや石灯籠に遠慮会釈なく病める肉体をぶつけながら、立ちこめる瑞気のなかを泳ぐようにして近づいてきた。そしていつも通り、私に何か宿っているかを人々に示すための太いしめ縄を力任せにぐ