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小説『消えた小説』全記録

日本文藝界初の「メタ私小説」を書く タイトル『消えた小説』その全取材ノート あらすじ 2023年3月。男は四十六歳。ADHDで双極性躁鬱だ。三年引き籠った九州で男はFX詐欺に遭… もっと読む
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#オザワ

本物の愛はどこか?+18章(第一稿)

922文字・30min+18章 今日は書いていて、カラマーゾフの兄弟のアリョーシャの悲痛な叫びのようなセリフが湧き出した。書いていて真面目なセリフがどんどんとコメディチックになっていくのが、なんだかドストエフスキー作品に通じるような気がして、書いていて笑った。よくもまあ自分を自虐で笑えるものだ。と最近は自分を感心する。 田中未知子は架空の人物だ。 田中未知子のモデルは実在する。筆者にとって生涯に渡って大切な(存在になるかもしれない、非常に不確かな関係の)女性だ。だが、田

消えた小説(16章)、上野まで、上野駅

8995文字+有料(101947文字=400字詰換算、254枚) ■ 一六章(三月二十三日・木)デートの日  朝からくもりだった。  家をでて、直進すれば県道だが、橋本屋の自販機を折れて烏川にでて川沿いを北に登った。それから牛舎がならぶ農道にでて、男の住む町の麦畑が広がる農地と駒形町をへだてる住宅地にでた。高圧電線が高くそびえる鉄塔沿いに北にペダルとこぐと、地元でぽっくり観音堂とよばれる合同霊廟にでた。そこからさらに北へ登っていく。県道沿いの十字路に新しくできたばかりの

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消えた小説、第二章前半(第二稿)

10039文字+有料 ■ 二章 バイト初日(三月一九日・祝)  九時十五分だった。  いまからペダルをゆっくりと踏んでも、出勤時間まで十五分ほどの時間の余裕はあった。  家の、上がり框(かまち)に尻をつけて、男はスニーカーのヒモを結びなおしている。  生前の祖父母の寝室へぬける、南の縁側の三和土のタイルの上に、背の高い観葉植物の鉢がいくつもならんで置いてある。それらの垂れた葉っぱに、隠れるように、小ぶりの木台に、シクラメンの鉢がひとつ載せられ、赤く咲いていた。  

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タイトル決まる「消えた小説」、最後のどんでん返し。

4236文字+有料 ■ あとがき(四月五日・水・晴明節) 南京    この物語の編集に代えて。  私は中国の南京に住んでいる。私はこの物語の筆者である「男」と十八年前に上海の職場で知りあった。五章で男は電話をかけた。その電話の相手は私だ。  あとがきを上梓するに中国の晴明節に間に合った。  晴明節とは人々が墓に参って先祖や死者をまつり若い娘は野山にでかけて春のあそびをする民間の祭日だ。川の多い江蘇省には晴明節のこんな歌がある。  正月灯 二月鷂 三月上墳船上看嬌

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ラストシーン、伏線の回収、いろは歌(GM)

7079文字+有料 「アキトくんの見た真実。それを書くのが作家じゃないの? 」  男はノリの母親の言葉を思いだした。  それは男の無意識がさせた行為だった。取りだしたケータイの録音のスタートボタンをタップし、「喜ちゃん飯店の裏手、乾燥機の前」と吹きこんで、前ポケットのなかにすべりこませた。 「アナタのそういう所がね、アタシは嫌いなんですね。オザワさんね、やっぱり、やっぱりオザワさんも大人だからわかるよねえ? あたしがなにか言ったら、働かせてもらってるんだから、経営者の

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男の過去、同級生の仏前 / エピローグを三章に差しこむ(GM)

6680文字+有料 「おい。ペットボトルを袋かなんかに包んでやれ」  父の母に言う声は落ちついた声音にもどっていた。  ブルルル。  両手でにぎるスマホが、ふるえる。胸をひっかいた爪の隙間が血で赤い、その指でスマホをハンズフリーにして、床に置いた。天井を見上げて息を大きく吸った。大丈夫。だいじょうぶ。天井を見、じぶんに言って聞かせる。呼吸は整ってきた。 「オザワくん? 」  声は、ノリの母だった。ノリは男の高校時代の同級生だった。三一一があった二○一一年に、肺がん

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パニック発作と群馬弁を道具に(GM)

3488文字+有料  婚活アプリでもそれはおなじだった。男にとって正直に自分を語ることは針の筵(むしろ)に正座をして焼けた油を呑む行為に等しかった。九州では特殊詐欺に遭ってクレジットカードは停止され、川舟祭でたまたま知った役場の多尾に勧められて生活保護になって婚活はやめた。アプリは三ヶ月つづけたがそれが限界だった。男は婚活アプリを辞めることにした。  退会期限日の三日前にマッチングしたのがミチだった。男は捨て鉢になって鎌倉で実家暮らしをする五十路未婚年増に書いた文面を、そ

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三章、冒頭スケッチ(GM)20230430sun

3005文字+有料 ■ 三章(三月二十一日・祝) 「いいんだよ。おれは、余計なカネは払わねえんだ! 」  父の声だった。声は階下から聞こえた。男は取手をつかんだまま部屋に入りもどった。音はカチリ。小さく鳴る。だれにも聞こえないはずだ。しかし心臓はふるえる。  バイトに出勤する前だった。男はケータイをだして時刻を確認する。家をでるまでにまだ半時間の余裕はあった。  ラインに母からの未読メッセージがあって、男はひらいた。それは昨晩に送られたメッセージのようだった。 『

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平坦な日常小説にドラマを作る。(GM全記録)フィードバック

62663文字

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店の雰囲気、男の緊張、オクサンのキャラ(GM全記録)

11840文字+有料  ミホと入れ替わりで店内に入るとディシャップではヤマさんが取り皿に黄色い粘土のようなものを練っていた。 「それはなんですか? 」  男はメモ帳を開いて訊(たず)ねる。 「マスタードだよ」とヤマさんは言う。 「和からしですね」男はメモ帳に記した。■十時五十分。和芥子練り。と男は記した。 「これは決まった時刻はないよ。手が空いたときでいいんよ」  ピッチャーの置きかたはヤマさんが教えてくれた。もち手の上部に◉印があるのとないのがある。 「それ

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初日、さまざまなキャラの登場(GH全記録)

10979文字+有料  なぜそれらをメモしたのか。男にもわからなかった。バイトの初出勤で緊張して、目に映るものすべてを覚えようとしたのか。  自分はADHD(注意欠陥・多動性障がい)ではないか? 男は以前からそれを疑っていた。好きな小説やゲームはいくら時間を費やしても集中はできる。だが好きなこと以外に取り組むときや緊張をしたりすると、いろいろなわき見や独自の思考浮遊やとっぴな判断などの衝動が、脳から、とびでる。煙から蚤がぴょんぴょんとはねる。それらは身体にめぐって  数

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男(ADHD)の内観描写。(GH全記録)

2894文字+有料 「コノミチナリニ、ヒャクゴジュウメートルヲチョクシンシマス、モクテキチニツキマス」  男は、おや指の腹で地図アプリのタスクを切った。  遠くで大型トラックが豆粒になって連なっている。あれが県道だ。男はスマホの地図をもういちど確認した。顔を上げる。目をほそめる。額から汗が、メガネのレンズの内側に、たれた。県道の手前に広がる、緑一面の田園のなかに、店の赤色の看板がみえる。男が安堵のため息をつくと、手前に流れる水路の脇に生えた、真っ黄色の連翹(れんぎょう)

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私小説を書いて判明した筆者の疾患。20230411tue299(GM全記録)

1064文字+有料  書いていてちょっと驚いた。私小説といえど、主人公「男」と「筆者」蒼井は別物(別人格)だと思っていた。  男のキャラと物語を書きすすめているうちに、「男」のある症状に辿り着いた。  ガガゴゴガガゴゴ。店の裏手の通路の入り口で二層式の洗濯機が音を立てる。みゃおああ、るろろろ。通路の奥の影から生き物が鳴く声が聞こえる。のどを震わせるようにゴロゴロ。ネコだ。一匹じゃない。十匹ほどは、いる。男は思う。二層式の洗濯機とプレハブと間に、彼らの自宅へと抜けるほそい

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小説『GM』全取材ノートvol.7。20230330thu279_二章プロット

2569文字・5min  二日目 バイト初日(三月一九日・祝) 登場人物 男オクサン リョーマ ミホ タツ ナオキ マスター シゲ ヤマ ■自宅にて(出勤するシーン)。  九時十五分だった。  これからゆっくりとペダルを踏んでも、出勤時間まで十五分ほどの余裕はあった。  男は上がり框(かまち)に尻をつけてスニーカーのヒモを結ぶ。縁側に抜ける西がわに植木鉢があって、それに隠れるようにシクラメンの鉢が赤く咲いていた。毎年男の父が沼田のカンベオートからひ

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