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829文字・無料 ■1章 プロローグ菜の花畑に転倒 ■2章 3/17(金)喜ちゃん飯店のバイト面接 ■3章 3/18(土)☞ LINEのやりとりの章(男、リョーマにバイトの服装や靴などの相談をする、田中未知子とはデートの日程の相談)男とミチはLINEで口喧嘩(助産師の有給の話で)、男はミチと息子(ショウ)の親子喧嘩を電話のこちらで聞いてしまう(母子相姦の伏線)。南京の男と電話=■11章 あとがきへ。 ■4章 3/19(日・祝)バイト初日(男はプレハブのなかで手淫をす
785文字・30min これはある男の妄想日記である。 小説のラストのどんでん返し、男の死(自殺)を思いついた。が、肝心の男が自殺する動機が見当たらなかった。小説を読んだすべての読者が納得する「男が自殺せねばならなかった事件」をずっと頭の中で追っていた。 筆者に、小さな奇跡が起きた。 出会ったその日の夜に男と田中未知子はまぐわった。後日、 「私、肌がキレイになってるのよ。これってすごいね」 と男は田中未知子に言われた。男は無神論者だ。奇跡は信じない。だからそんな女性のセ
10039文字+有料 ■ 二章 バイト初日(三月一九日・祝) 九時十五分だった。 いまからペダルをゆっくりと踏んでも、出勤時間まで十五分ほどの時間の余裕はあった。 家の、上がり框(かまち)に尻をつけて、男はスニーカーのヒモを結びなおしている。 生前の祖父母の寝室へぬける、南の縁側の三和土のタイルの上に、背の高い観葉植物の鉢がいくつもならんで置いてある。それらの垂れた葉っぱに、隠れるように、小ぶりの木台に、シクラメンの鉢がひとつ載せられ、赤く咲いていた。
800文字・30min 目処がついた。 三章と四章を一日にまとめると初稿は脱稿だ。 私小説のいちばんキツかった所に大手出版の編集さんがからイイねを頂いて、これは励みになった。 私小説は自分の腕を切って血を見せるというがそんなもんじゃない。実際に書いて肌身に感じる。自分のケツの穴(恥部)をめくって読者に見せる行為だ。柳美里や田口ランディはいかに神経は図太いか思い知った。西村賢太も尋常じゃない。でもしかし、父が性犯罪者で自分も加虐趣味のある北町貫太。やはり魅力的な主人公
7079文字+有料 「アキトくんの見た真実。それを書くのが作家じゃないの? 」 男はノリの母親の言葉を思いだした。 それは男の無意識がさせた行為だった。取りだしたケータイの録音のスタートボタンをタップし、「喜ちゃん飯店の裏手、乾燥機の前」と吹きこんで、前ポケットのなかにすべりこませた。 「アナタのそういう所がね、アタシは嫌いなんですね。オザワさんね、やっぱり、やっぱりオザワさんも大人だからわかるよねえ? あたしがなにか言ったら、働かせてもらってるんだから、経営者の
6680文字+有料 「おい。ペットボトルを袋かなんかに包んでやれ」 父の母に言う声は落ちついた声音にもどっていた。 ブルルル。 両手でにぎるスマホが、ふるえる。胸をひっかいた爪の隙間が血で赤い、その指でスマホをハンズフリーにして、床に置いた。天井を見上げて息を大きく吸った。大丈夫。だいじょうぶ。天井を見、じぶんに言って聞かせる。呼吸は整ってきた。 「オザワくん? 」 声は、ノリの母だった。ノリは男の高校時代の同級生だった。三一一があった二○一一年に、肺がん
3488文字+有料 婚活アプリでもそれはおなじだった。男にとって正直に自分を語ることは針の筵(むしろ)に正座をして焼けた油を呑む行為に等しかった。九州では特殊詐欺に遭ってクレジットカードは停止され、川舟祭でたまたま知った役場の多尾に勧められて生活保護になって婚活はやめた。アプリは三ヶ月つづけたがそれが限界だった。男は婚活アプリを辞めることにした。 退会期限日の三日前にマッチングしたのがミチだった。男は捨て鉢になって鎌倉で実家暮らしをする五十路未婚年増に書いた文面を、そ
5629文字+有料 「あきれちゃうよ、この子は。ブツブツと呪文みたいにおんなじことばかり聞いてさ」 男は黙った。 「リョーマ。もうさ、オザワさんにさ、洗い場に入ってもらってよ、いろいろと慣れるまで」 「はいよ」 「アンタも、言われる前にパッてみて。洗い場入ってよ。ほかの他人の仕事ばっかりのぞいて見てないでさ」 「はい」 男は洗い場にもどった。 そこから男はまた記憶はない。だれかになにかを言われた気はする。が、この時間帯の記憶は脳からすっぽりと欠落していた
62663文字
11840文字+有料 ミホと入れ替わりで店内に入るとディシャップではヤマさんが取り皿に黄色い粘土のようなものを練っていた。 「それはなんですか? 」 男はメモ帳を開いて訊(たず)ねる。 「マスタードだよ」とヤマさんは言う。 「和からしですね」男はメモ帳に記した。■十時五十分。和芥子練り。と男は記した。 「これは決まった時刻はないよ。手が空いたときでいいんよ」 ピッチャーの置きかたはヤマさんが教えてくれた。もち手の上部に◉印があるのとないのがある。 「それ
3480文字+有料 130万再生を叩きだす人気ユーチューバーの動画(エンタメ)。 無名の私小説作家。 どちらも真実だ。 びっくりした。原稿のスケッチが足りなくてネットサーフィンをしていたら、「男がバイトをした初日の動画」が、まんまアップされていた。 そのYouTube動画のコメント欄もほぼ好意的だった。 解釈は、視聴者(読者)に委ねられる。 作り手はどこを切り取るか。 どこを見るか、どこを読むか。 作家としては「闇」「弱い立場」からしか物語は描けない。
8320文字+有料 そろそろ立ち上げ準備のはずだ。 十時二十五分。男は、メモ帳に記した。 「どうだい? やっぱり良いじゃないか」 勝手口の敷居に仁王立ちをして腕を組んでオクサンは立っていた。 「先ずは、ぼくはなにをやればよろしいですか? 」 「最初は誰だって何もできやしないんだから、見てればいいんだよ」 まわりが一瞬、黙った。男は、パニックになりそうになって、咳きこむ。 「アキさん。マスクね。そこにあるよ」 ヤマさんは言った。 男は氷水のピッチ
1044文字・無料 「ソウジ。だよ」 「ソウジ? 名前かな」 「そう、オキタソウジのソウジ」 男はソウジを見つめる。肌は色白でおもながだ。奥二重。焦点の定まらぬような円な眼はリョーマに似ている。 「新撰組の沖田総司だね。リョーマお父さん? は好きなんだね」 男はいった。 みょあ。ネコはのどを鳴らして、ソウジの足元をすりぬけていった。 「パパじゃないよ。バアがつけたんだ。カッコよくて強いんだ」 男はうなずいた。 「オシゴト。がんばってね」 迷って男はつるつるした直毛
10979文字+有料 なぜそれらをメモしたのか。男にもわからなかった。バイトの初出勤で緊張して、目に映るものすべてを覚えようとしたのか。 自分はADHD(注意欠陥・多動性障がい)ではないか? 男は以前からそれを疑っていた。好きな小説やゲームはいくら時間を費やしても集中はできる。だが好きなこと以外に取り組むときや緊張をしたりすると、いろいろなわき見や独自の思考浮遊やとっぴな判断などの衝動が、脳から、とびでる。煙から蚤がぴょんぴょんとはねる。それらは身体にめぐって 数