「悲しみの行方」創作テキスト

以下に掲載するのは、アルバム「Early Spring Morning」の中の「悲しみの行方」という曲の創作のもとになったテキストです。

最初この曲はピアノソロ曲として制作したのですが、ジャンベ奏者の佐藤夕香さんとコラボレーションするにあたり、イメージを共有するためにこのテキストを作りました。

このテキストは、「本当のこと」から生まれています。何が本当のことなのか、誰にとっての真実なのか、答えるのはとても難しいことがあります。

自分にとって大切なのは、真実というものが愛から生まれるということでした。

そこからこのテキストが生まれました。

曲と合わせて読むと、音楽がとても考えられて構成されている、忘れられないコラボレーションになりました。

改めて様々なご助言を頂いたレコーディング・エンジニアの福田ハジメさんと、音楽に奥行きと深みを与えてくれたジャンベ奏者の佐藤夕香さんに感謝とともに、このテキストを今回投稿させていただきます。

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「いつもの散歩道にある公園を見回した。
天気の良い週末の午後にも関わらず
私以外には見知らぬ老婆が一人でベンチに座っているだけだ。
彼女は消え入りそうな声で喋り続けている。
自分の殻に閉じこもり、幻聴と会話をしているのだろうか。
微笑んだり、少し不機嫌な表情を見せたりしながら絶えず口を動かしている。

ふと我に返る。
自分にだけ聞こえる声の存在を私は知っている。
そこにいる筈の無い、愛する人の声が聞こえることがあるのだ。

今も、些細なことで落ち込んでいた気持ちを立ち直らせようと
その声は軽快なリズムで心をほぐしてくれる。
もしこれがただの妄想や幻聴でしかないと思おうものなら、世界は一瞬で暗転する。


さっきまで穏やかな気持ちでいた筈なのに、
いつの間にか自分に向けられた声は精彩さを失い、
不安な気持ちに同調するように言葉のリズムは規則を失いつつある。
愛する人の声がゆっくり遠のいていく。
私は悲しみに耐えられなくなり、
自分の存在を消してしまおうかと思いつめ目を閉じた。
とうとう声は一つも聞こえなくなり、暗闇の中に身を沈めた。

低い耳鳴りが次第に大きくなり希望を捨てかけたその時、
頭上に気配を感じてゆっくり目を開いた。

視線の向こうで三羽の鳥が羽を大きく動かし、
静寂を断ち切るように美しい声で歌いながら空を舞っていた。


愛する人に会える日が来るのかどうかわからないが、
その声を妄想や幻聴と疑うことは無意味であることを悟った。
悲しみの果てに見た、鳥達が自由に遊ぶ風景は
大切なことを教えてくれた。」








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