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火の音が見つけた「かっこよさ」について

オタクもすなる考察といふものを、我もしてみむとてするなり。

さて今回筆を取ったのは、とある幼児向けアニメのキャラクター性格造形に何度となく唸らされているためである。本格的に追い始め一年が経とうとしているが、未だに制作陣のキャラクター描写に疑問を覚えた試しがない。一貫性のある設定を元にしっかりと制作されていることがよくわかるのだ。
そんなわけで、近日ようやく再放送で見ることのできた回について、少しここで語りたく思ってしまった。

オトッペ
『オトッペ』は、NHK Eテレで2017年4月3日より放送中の1話5分のテレビアニメ。キャッチコピーは「音は、ふしぎの入り口だ。」。(Wikipediaより引用)
放送:Eテレ 毎週月曜~金曜 午前8時40分 (2021/3/29からは午前6時35分)
再放送:Eテレ 毎週月曜~金曜 午後5時55分
    Eテレ 毎週日曜 午前7時40分
NHK公式サイト: https://www.nhk.or.jp/otoppe/
番組公式サイト: https://otoppetown.com/index.php

そもそも彼はどんなキャラクターか

私が今回取り上げるのは、火のオトッペ「フレイミー」についてだ。

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※画像は番組公式サイトより

オトッペとはそもそも音に宿る精霊のようなものなのだが、彼は見ての通り火の音から生まれたオトッペなのである。一人称はオレ。「あつくるしい性格」の文字通り、好きなことや興味を持ったことには全力で取り組み、喜怒哀楽が激しくわかりやすい、また人情に厚い一面もある男だ。火のオトッペから連想される中では順当なキャラクター作りがなされている。

しかしここで意外な点として、彼はボケとツッコミでキャラを分けた場合、かなりツッコミ寄りと分類できる「常識人枠」なのだ。また、彼には全身全霊で応援しているアイドルがいる。作中では友人兼推しのように描かれているが、「ファンクラブ会員番号一番であり会長、CDデビューの暁にはほとんどを買い占める推しっぷり」と記せばその熱の入れっぷりが伝わるのではなかろうか。(これから人気になっていって欲しい反面、人気になればこの良さを独り占めできなくなってしまうというジレンマに号泣する回もある)
熱血キャラでありながらツッコミ役アイドルオタクの側面を持つというのは、ハマった当時から非常に新鮮に感じていた。

さて、放送開始から二年後のとある回で、若かりし頃のフレイミーの姿を見ることができた。私はその回を見ることで、意外性のあった上記の設定がストンと腑に落ちたのだ。あらすじ等も踏まえつつ、設定を裏付ける回想と現在に至るまでの変化、そのきっかけについて考察していく。


あらすじと現在過去の比較

つい最近再放送されたその回というのが、
シリーズ136話「ヤングウエスティ (出会い) 」
シリーズ137話「ヤングウエスティ (旅立ちの日)」
である。

136話のあらすじ……
ウィンディがアカデミーから、通称「かっこいいオトッペ」である旅人のウエスティ(CV:西島秀俊)の卒業アルバムを見つけてきた。写真の中にはかつてのフレイミーの姿もある。フレイミーいわく、ウエスティは同級生の転校生であり、何をしていてもかっこいい彼は当時から人気者であったという。しかしアルバムには、恐ろしい番長姿のウエスティの姿もあり……

137話のあらすじ……
フレイミーいわく、彼がこんな格好をしていたのは自分のせいなのだという。当時、不良にカツアゲされていたフレイミーを偶然見かけたウエスティは、その威圧的な番長姿で不良たちを追い払った。「どうしてオレなんかを……?」と尋ねたフレイミーに対し、「さぁな……そういう風向きだったんじゃないか」とかっこよく答えるウエスティ。それまで人気者の彼を敬遠していたフレイミーも、その時ばかりは「かっこいいじゃねぇか〜!」と声を上げた。

さて、この回で明らかになったかつての彼が、これだ。

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※画像は公式アプリより

なんという典型的な瓶底丸メガネ。
見ての通り、彼はかつて「陽」とはとても言い難いいでたちであった。現在の彼より高い声で演じられているセリフも、
(大人気の転校生を見て)「ちぇっ、オレとは合いそうもないな」
というひねくれっぷり。同回の卒業アルバムにある彼の姿も、全写真共通で後ろの方にポツンと立っているだけで、現在のような暑苦しさは一切感じられない。

かつてのフレイミーがこうした、どこかオタクっぽいとも言える芋々しいキャラクターであったというのを踏まえると、上記の常識人枠アイドルオタクの側面は全く意外ではなくなってくる。むしろ彼が今、ああして暑苦しさを振りまいていることの方が意外に感じるようになるだろう。
ただ実際のところ、公式では彼がなぜ今の陽気な性格へと変化したかは語られていない。しかし、現在出ている情報の中から考察するのであれば、この137話での出来事がきっかけではないかと考えられる。


きっかけの考察 「かっこいい」の正体

上記あらすじでも書いたが、フレイミーはかつて天才的な転校生であるウエスティを敬遠していたと考えられる。
「ちぇっ、オレとは合いそうもないな」というセリフもある上、次々と天才的な成績を残していくウエスティに対し「オレだって……オレだってぇ〜!」と、憎しみとも闘争心とも取れそうなセリフも残しているのだ。極め付けに、カツアゲから助けてもらった際の「どうしてオレなんかを……?」というセリフもある。オレなんか、と言うあたり、斜に構えるだけでは隠しきれない自信のなさが滲み出ている。
これは憶測にはなるが、フレイミーは誰かに誇れるほどの強みを持っていなかったのだろう。現在も

「ごはん屋さんではあるがその実態は火の音ばかりが良いレンチン飯屋
「宙に浮いているが高いところが苦手で飛ぶことはできない
「大口叩く割には結構なビビり
「好きな子に面と向かってデートに誘うことができない恥ずかしがり屋

などなど、威勢の割に実力の伴わない面を見ることができる。かつてはその実力のなさから「堂々としていてはいけない」という刷り込みがあったのではないだろうか。だから写真撮影となれば目立たないところへ行き、人気者とは距離を置き、燃えるような本心を「相応しくない」とひた隠しにしていたのではなかろうか。

余談にはなるが、この心情を裏付ける要素として当時の彼のメインサウンドは火に水をかけた時のようなシュゥウ、という音であったことが挙げられる。アプリでの背景も現在の彼と違って火の粉が舞っているだけなので、「燻っている」という言葉と掛け合わせた心情設定なのではないかとする考察もある
※画像は公式アプリより

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そんな彼は、カツアゲから自分を助けてくれたウエスティに「かっこいいじゃねぇか〜!」と声を上げた。これがごく普通のイケメンかっこいいキャラであったならば、こんなnoteは書いていない。そう、ごく普通のイケメンかっこいいキャラであったならば。


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※画像は番組公式サイトより

「旅人語録という名言(?)を言いがち」
「かっこいいけど、どこかズレてるよ」

公式にそう言わしめるだけあって、ウエスティは常識的に考えればかなりの変人だ。どうにも優しく可愛らしい一面もある青年なのだが、言語の出力が完全にカッコイイ方向へ振り切れてしまっているのだ。
ことあるごとに「〇〇語録、その45……」と至極当たり前のことや突拍子もないことを名言めいた語録として言い始める彼は、しかし語録発言時のカッコイイオーラにより人々を納得させてしまう。上記の回では四種の語録が確認されているので、その一部をここにあげる。

「転校生語録、その1……転校、それは何かの事情で、別の学校に移ることである……!」
「砂遊び語録その41……良い砂遊びができた時ほど、靴の中に……砂が入っているものだ」

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※画像は公式Twitterより

西島秀俊のイイ声で、いかにも名言のように語られる語録の数々。その度映る劇画調のタッチで描かれたやけに等身の高いイラストも相まって、正直めちゃくちゃ面白い。それなのにカッコイイオーラのせいで圧倒的支持を得ている様子は、当時の真面目そうなフレイミーには到底理解できないものだったと考えられる。事実、フレイミーは上記の転校生語録に対し「あ、当たり前のことを言っている!」と一人ツッコミを入れていた。

ウエスティの紹介で長くなってしまったが、要するにフレイミーはウエスティを「変なやつ」と捉えていた可能性がある。しかしながら、その変な部分を凌駕できるほどの圧倒的な才能(とかっこよさ)を持ち合わせているのがウエスティだ。それに対しフレイミーは、「オレだって(実力さえあればあんなに自由気ままにできるのに)!」とヤキモキしていたのかもしれない。
しかしウエスティが、他者と実力を比べるような描写はない。個人の解釈にはなるが、ウエスティはただただ自分のやりたいこと、やるべきことに全力投球しているだけに見える。当時のフレイミーよりはあるがままに、信念のままに生きているのだろう。

かつてはウエスティを変なやつとして見ていたフレイミーも、前述したように彼を「かっこいい」と評するようになった。しかしその「かっこいい」の正体は、オーラでも雰囲気でも行動でもなく、その生き様だったのではないだろうか。

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※画像は公式Twitterより

ウエスティが不良を追い払うべく用いたのは、なんとハッタリだけであった。
映像を実際に見て貰えばわかるのだが、彼の属する風の音の一族は皆とても身体が小さくデザインされている。背丈だけで見てしまえば、フレイミーの半分を越えるか越えないか、という大きさ。フレイミーに絡んだ不良は彼の数倍はある体躯の持ち主であったため、ウエスティの身体的実力では到底敵わなかったと考えられる。
そこでウエスティは、高下駄長ランで自身の姿を大きく見せ、図体の大きな不良を威圧的に追い払ったのだ。そこには彼の機転という実力こそあるが、身体的なパワーは一切伴っていない。もしも相手がマトモに喧嘩を挑んでくる不良であれば、まず間違いなくウエスティは負けていただろう。ウエスティはそうした部分を考慮した上で、しかし自身の信念のため、フレイミーを助けに入ったのだ。

フレイミーにはこの時、初めてウエスティが実力第一ではなく信念第一で生きていることが伝わったのではないだろうか。彼の信念、あるがままを貫く姿勢に対し「カッコイイ」と声を上げたのであれば……現在のフレイミーの姿は、そのあるがままの生き様に憧れた結果、と言える。

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※画像は公式Twitterより

まとめ

一見意外性を狙ったかのような「熱血キャラがアイドルオタク」という属性や「現在熱いキャラがかつては大人しかった」という属性も、きちんと筋が通るように話を作り続けているのがこの「オトッペ」という作品だ。今回取り上げた話以外でも、その設定の一貫性に痺れることが多々ある。
現在も月に四本のペースで新作が作られ続けているので、もしもこの記事でオトッペが気になった方がいれば是非とも見ていただきたい。子供向けと侮るなかれ、結局は大人が丹精込めて作っている作品に変わりないのだ。

……制作陣そこまで考えてないと思うよというツッコミは、重々承知の上なのでご容赦願いたい。

このかっこいいけどどっかズレてるウエスティ(CV:西島秀俊)がメインキャラの一人で登場する映画がこの秋公開されます。多分こっちでもめちゃくちゃかっこいいので是非に。
https://otoppe-movie.com/
参考サイト・画像引用元リンク
https://otoppetown.com/about.php
https://twitter.com/otoppetown/status/1142945432718340097?s=20
https://twitter.com/otoppetown/status/1143307819422224384?s=20
https://twitter.com/otoppetown/status/1143443714926206977?s=20
アプリ-NHKオトッペずかん

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