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レモンの花が咲いたら 6

6 玄


 次の日。俺はいつものように小野さんの病室へ向かった。いつものように、俺は病室の戸を開けて、

「おはよう」

 すると、点字の本を読んでいた美月さんはこちらを向き、

「あ、玄さんだ!おはよう!」

 と、笑顔を浮かべた。こんなに素敵な子なぜ・・・・・・と涙が溢れそうになる。そして、また昨日みたいな感情があふれ出そうになる。

 でも、俺はもう迷わない。

「小野さん」

「なあに?」

 無邪気に聞く彼女に、俺は言った。

「外の世界に、出てみないか?」

「えっ」

 小野さんはとても驚いた顔をしていた。それはそうだろう。いきなりこんなことを知り合って1週間の人間に言われたら。変な風に思われても仕方ない。

 と言うよりも、それでもいいんだ。

「俺とでよければ、だけどね。色々生きたいところとか、やりたいこととか。一緒にやってみようよ」

 きょとんとしていた小野さんだったが、すぐに笑った。

「運!私も、玄さんと楽しいこといっぱいやってみたい!」

 さらりと言った小野さんに、今度は俺が驚く。おかしな話だ。

「本当に?」

「うん!むしろ玄さんとがいい!私ね、やりたいこととか、実はノートに書いてあるんだ!だからこれやってこ!」

 その言葉を聞いたとき、俺は心に嵐が訪れたようだった。

 ずっと、やりたいことを考えていた。きっとそれは、心のどこかで行きたいと思っているからなんだ。しかも、そのやりたいことを、俺と一緒に野郎という。

 俺なんかが、とずっと悩んでいたけれど、小野さんはむしろ俺が良いと言ってくれた。

「玄さん?」

 その声にはっとして気付いた。自分の頬に涙が伝っていた。何で俺が泣くんだろう。

「ああ、い、いや。ごめん」

「変なのっ。これ!ここに書いてあるの!」

 そう言って小野さんは俺に、ボコボコのノートを俺に見せてきた。おそらく点字だろうが、俺は全くその知識がないため読めない。

「えっと、なんて書いてあるの?」

「あ、ごめんね!私が読む!まずはー、外でピクニック!外でお弁当食べてみたいの!サンドウィッチとか!それで、海に行ったり、ショッピングしたり―」

「・・・・・・・・・沢山あるね」

 思わず出てしまった発言に、小野さんはびくりとして、

「あ、ごめんなさい。欲張り・・・・・・かな」

 いや、ずっと入院していたのだから、やりたいことが沢山会って当たり前だ。何を言っているんだ俺は。

「いいや。ごめんね。今まで出来なかったこと、これから全部やろう。今から水原先生に聞いてくるよ」

「本当に?退院していいの?」

「それも聞いてみる」

「やったー!まずは退院しないとね!」

「そうだね」

 正直、全部こなせるのか自信がない。残り少ないこの期間で。どれだけのことがこなせるのだろう。

 でも、全て小野さんのためだ。

 俺が良いと言ってくれた、小野さんのために。


 最期に、彼女に幸せだったと言わせるために。

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