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雪解け
登場人物
悠太(ゆうた):主人公。
要(かなめ):悠太のクラスメイトで悠太の後ろの席に座っている。
淳太(じゅんた):悠太のクラスメイトで友達。
※この話は『きれいなあの子』の続編です。
5月の終わり頃。高校生活初めてのテストまであと1週間となっていた。
「悠太、そういえば最近電車のマドンナとはどうなってんの?」
弁当を食べながら淳太。淳太とは中学からの付き合いだけど1番仲がよくて、最高の友達だ。
電車のマドンナ、とは俺が登校時によく乗る電車に乗っている愛莉さんのことだ。めちゃめちゃ美人でずっと気になっていたけれど、最近やっとLINEを交換できた。
「もうね、毎日LINEしてる。めっちゃLINEもかわいい。最高」
「ははっ。そりゃよかったな」
そう下らない話をしていると、淳太の向こうで1人で弁当を食べている男子が。
俺の席の後ろの要君だ。弁当の時はいつも淳太の方に行って食べてるため、あまり気がつかなかった。
要君は、前髪でほぼ目を隠していて、しかもずっと黙っているから、声を聞いたことがほとんどない。先生に当てられたときに答えたりはするから声が出ないわけではないだろうが、それ外で声を発しているシーンを見かけたことがない。でも頭はすごくいいみたいで、入学したての頃、テストで学年で1番をとっていた。
「悠太?」
「あ、要君がさ、1人で飯食ってるなーって」
「要君?」
「ほら」
淳太の真反対に要君は座っているから、淳太も気づかなかったのだろう。
「うお。本当だ」
「ちょっと誘ってみない?飯みんなで食おうぜって」
「でも大丈夫か?なんか要君に関わるとしゃっくりがとまらなくなるっていう呪いをかけられるって聞いたことあるぞ」
なんだその地味にいやな呪いは。
「そんなわけないだろ」
すると、淳太は笑って、
「わかった。じゃあ、俺誘うわ。おーい、要君!」
突然呼ばれた要君はびくっとしている。そりゃそうだ。いきなりこんな陽キャのかたまりみたいなやつに話しかけられるんだから。
「弁当、一緒にどう?」
俺もそう言うと、
「いっ、えっ、えっと・・・」
要君はそう言うと、おそるおそる立ち上がって、そして教室から出て行った。
俺らはそれを驚いた目で見ていた。「お、おい」と淳太が止めようとしたが、目にもとまらぬ早さで要君は去って行ったのだ。
「な、なんだあいつ・・・?」
淳太がぼそりと言う。俺も首をかしげることしかできなかった。
どういうことなんだ・・・?
昼休みが終わって、要君は教室に戻ってきた。席の後ろに座るけど、なぜか怖くなって話しかけられない。さっきはどうしたのと聞きたいのに。
別にしゃっくりくらいどうってことない。水を飲めば治る。頭ではもちろんわかっているけど、さっきのことが釈然としないし、なにより裏で何を思われてるのかわからない。いきなり話しかけんなくクソが、とか思われてたらなおさら怖い。
5時間目が始まった。数Ⅰ。わからない。訳がわからない。俺は数学が苦手だ。
ぜんぜんわかんないなぁ、と思っていると、
「おい、中本。ここ答えてみろ」
うわ、当てられた。俺は嫌々立ち上がる。しかしどれだけ考えてもわからなくて、「わかりません」と答えようとしたときだった。
「x=5」
ぼそりと低い声が聞こえた。ほかに数字も思い浮かばなかったので、
「え、x=5・・・・・・?」
ダメ元だったが、
「正解だ。何だ、お前もやればできるじゃないか」
え、当たってたの・・・?淳太の方を見ると、「よく当てたなお前」と目配せをしてきた。いや、本当に俺もそう思う。
って待てよ・・・。あのときの声、もしかして・・・。
*
放課後、淳太が日直で先に帰っていてくれと言われたので、先に帰ることにした。1人で下駄箱に行くと、同じように1人で下駄箱にいる要君が。
俺は、あの5時間目のことを聞いてみようとした。怖いけど。
「ね、ねえ」
靴を履こうとしていた要君はまたびくっとして動作を止める。また逃げられる前に、聞かなきゃ。
「さっき、数Ⅰのとき、答えを教えてくれたのって、要君?」
しばらく要君は黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「やっぱり。めっちゃ助かったけど、でもなんで?」
俺がそう聞くと、また要君は黙り込んだ。
言いにくいなら言わなくていいよ、そう言おうとしたときだった。
「ひ、昼休みの時。中本さんとか楚川さん(淳太の名字)がお弁当誘ってくれたとき、僕、嬉しくて。元々僕は遠くから引っ越してきていて、友達がいなくて、でも作り方もわからなくて。だからずっと1人だった」
そうだったのか・・・。確かに、自己紹介の時出身中学を聞かれたときに要君は聞いたことのない学校名を言っていた。遠くから来た、とはそういうことなんだろう。
「そっか・・・」
「だからこそ、お弁当に誘われたとき、嬉しかったけどどうしていいのかわかんなくて。気がついたらトイレにいたんだ。それが申し訳なくて」
そこまで気にすることでもなかったけどな。
「そういえば、なんか要君と話すとしゃっくりが止まらなくなるって噂聞いたんだけど・・・」
「あれはなんか日直かなんかでほかのクラスメートと話したとき、その子がずっとしゃっくりしてたからだと思う」
そんなことで勝手に噂が広まってしまうのか・・・。怖いなそれは。
でも、こうして話してみると、意外と面白いな。
「なあ、要君」
「うん」
「とりま今日一緒に帰る?」
「いや、いいよ」
断られてしまった・・・・・・。
「な、なんで?」
「保育園に年が離れた弟がいるから、その迎えに行かなきゃだし。母さんに頼まれてるんだ。だから、大丈夫」
「そ、そっか」
なんでこんなにフラれた気分になるんだろう。別に好きでもないし告白をしたわけじゃないのに。
俺たちは靴を履いて校舎を出ると、強い風が吹いてきた。彼の長い前髪が風で上がる。すると、王子様みたいな美しい顔が。
「えっ、要君・・・?!」
あまりにもイケメン過ぎて俺は思わず声を上げた。
「わっ、は、恥ずかしい・・・」
前髪をまた元に戻そうとする手をつかみ、
「ない方がいいって、その前髪。要君めっちゃイケメンだから、それ行かした方がいいって」
「で、でもっ・・・」
「少なくとも俺が見てきた男た地より群を抜いてかっこいいよ。目にも悪いし前髪切ったら?」
要君は俺の腕をそっと放すと、
「わ、わかった・・・!」
とだけ行って走って行った。
なんか変な感じになっちゃったな。でも、事実バチバチイケメンだったし、なんかよほどの事情がない限りは絶対前髪ない方がいい。校則にも引っかかるだろうし。
次の日。要君の前髪には変化がなかった。やっぱなんか事情でもあるのか、余計なお世話だったかな、と思っていた。
しかし、昼休み。また俺と淳太で弁当を食べようとしたときだ。
「あっ、あの・・・」
要君が俺らのところに来た。俺らは(特に淳太は)驚き、
「えっ、ど、どうしたの?」
すると、要君は恥ずかしそうに、
「ま、前髪って、どんな感じにしたらいいかな・・・?」
淳太はえ?という顔をしていたが、俺はすぐにわかった。
「ははっ。教えてあげる。そこすわんなよ、弁当ももって来て。3人で食べようぜ」
「え、悠太どういうこと?」
「また話すわ。とりま要君、こっちおいで!」
そう俺が笑って言うと、要君も嬉しそうに頷いた。
「う、うん!」
淳太もつられて笑っている。そして、3人でスマホでかっこいい前髪を検索しながら弁当を食べた。今までの昼休みで1番充実していた。
要君はずっと楽しそうだった。まるで、硬い氷が溶けていくかのような、そんな風な様子だった。
「え、要君イケメン!この前髪いいしょ!」
「淳太へたくそ。お前がやるとベトナムの留学生みたいになるから」
「あははっ」
楽しそうに笑う要君に、俺らもつられて笑顔になる。
これからもっと仲良くなれるよな、俺たち。そう確信が持てて仕方がなかった。
《了》
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