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レモンの花が咲いたら 7

7 美月


 なんと、私は退院が決まりました!しかも今日!

 玄さんが先生に退院して良いかって訊いたら「いいよー」って言ってたんだって!

「やったー!本当に嬉しい!」

 私は洋服を着せてもらいながら言った。玄さんは不思議そうな声で、

「ところで、本当に荷物はそれだけなの?」

 私の荷物は、大きな紙袋一つで収まってしまった。着替え以外は本1冊と、ぬいぐるみが1つだけ。物欲という物があまりなかったし、どうせ見えないし。病室にあってもそんなに励みにもならないと思っていたのだった。

「うん。これだけだよ。お花とかは飾ってたけど。花瓶は病院のだし」

「逆にその本とぬいぐるみはどうしたの?」

「ぬいぐるみは、昔お母さんがくれたの。寂しくないようにって。本は、面白いからって水原先生がくれたの」

「そうなんだ」

 そう言う玄さん。優しい声だ。訊いていて本当に心地が良い。



 私たちは電車に乗り込んだ。2駅西に進むらしい。電車なんて初めてで、心がとても躍った。

 それと同時に、私はある1つの疑問が浮かんだ。

「ねえ、玄さん」

「何?」

「私たち、どこに行くの?」

 すると、玄さんは優しく言った。

「俺んちだよ」

「え、玄さんの家に行くの?」

「だって他に行くと来ないし。実家は遠いしね」

「実家は、ここじゃないよ」

「えっ、遠いね!そんなところから来たんだ!私も行ってみたいなぁ。遠出とかもしてみたい!」

 まあさすがに遠出は先生は許してくれないんだろうなぁ。でもバレなきゃいいか!

 そうヘラヘラしている私だったけど、

「うん・・・。そうだね・・・」

 玄さんの声は今までとは違う、明らかに暗い声になった。こんな声、訊いたことない。何か事情でもあるのかな。

「ごめんなさい、変なこと言っちゃったね」

 そう私が言うと、玄さんはいや、と言って、

「そんなことないさ。とりあえず帰ったらのんびりしよう。移動だけでも疲れちゃうでしょ」

「うん!わかった!」

 玄さんって、やっぱり優しいなぁ。

 それにしても、初めてだ。友達の家に行くだなんて!

 本当に、楽しみ!

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