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脚本 星群家族

 こんばんは。山野莉緒です。

 高校2年生の夏に初めて書いた台本です。
 ここから始まって、また葬式に帰ってきました。
 気づいたら7年も経ってて、ちょっと話長めです。


 わたしの台本は夏で、よく人が死にます。夜が来て、鈴虫が鳴いて、雨が降って、花を渡そうとする。ふたりになってもひとりぼっちで、だからしゃべって、黙って、またしゃべる。近くに猫がいます。

 死ななきゃ始まらないと思ってる節があると思います。誰も死ななかったら、人間って、一生何にも気づけないんじゃないかって思うことがあります。
 死生観がバグってると思われたら嫌ですけど、実際に生きてるか死んでるかは結構どっちでもよくて、だって会いたくても会えないなら死んでしまったのと同じだし、もう二度と会えなくても、なんて言うかわかるから、今も一緒に生きてます。またねって言っても最後になることがあるし、さよならしたつもりでも忘れられないことがあります。

 ガブリエル・マルセルって劇作家が「愛する者が死によって消滅すると思うなら、それはその人との愛に背くことである」「真の愛とは時間の制約を超えて、相手が永遠に生き続けることを希求する」って言ってます。過激ですね。共感できます。
 脱線するけどよっぽど上手に言葉にしてるので書きます。鶴岡賀雄「死後の生 死生学における〈宗教の領分〉」を参考に。マルセルの命題はたぶん「生きるための希望」みたいなことで、この支えになるのは「新しく何かが始まるということの経験」だって。その経験則が自分に生きるように呼びかけるし、新しく始まる何かがもたらす幸いを共感しようとする人々の中にも希望が反響するってそんなこと言ってます。でね、この経験に支えられた希望って、経験則に基づく「回帰(望郷の念)」と、「まったく新しい何か」っていう時間軸的に逆方向の、通常の秩序を超えた結びつきを内包してるよね、希望っていうのは「かつてあったように、ただしかつてあったのとは別に、もっとよく」あることへの憧れだよね、だからこうした希望が有意義である限り、愛する死者との再会の希望は肯定されるべきだよね、つまり死者は死後も存続するよね、って、言ったの。すごいこと言うね。しかもこの存続って社会の構築要件でも生者による追憶でもなく、「死者との新たな再会を希望しうるまでに確かな死者の存続」だって。詭弁かと思うわ。詭弁大好きだけど。
 さらに脱線するけど高校の政経の先生がトガってて、授業でディベートしたとき「相手の意見を否定する場合、嫌だからっていうのは理由にならないからやめてください。それは感情で、感情は否定されるべきでないから相手は意見を飲むしかなくなる。ただしそうやって意見が通った場合に間違ってるのは、議論に感情を持ち出したおまえらだ」って言ってて惚れ惚れした。トガってるのはそう育てられたからで、育ててもらったと思う人を順に挙げると両親、祖父母、学校の先生の次に浮かぶのは宮崎駿です。J・K・ローリング、CLAMP、空知英秋、主にこのへんの人たちのせいだと思います。ありがとう、愛してます。
 話戻します。わたしの死後、あなたには、わたしがあなたを愛したことの確実さに基づく希望があるし、わたしにもある。わたしは愛すること・愛されることによって、肉体の死を超えた存続を希望しうるし、確信しうる。死者の記憶を持った肉体が存在するということは、つまりわたしがあなたを愛しているということは、あなたは死なないということだ。ってマルセルは言いました。うん、言葉にしてくれてありがとう。
 QuizKnockの須貝さんが、科学の目的は人に伝えることにあるって言ってた。おれはここまで考えた、おまえは続きから考えてくれって、自分の発見を人に伝える営みこそ科学だから、おれ自身が真理に辿り着けなくても、最終的に何かがわかればいいって言ってて素晴らしいなと思いました。
 昔は愛する人の死を受け入れるためには何かしらの宗教的価値観が必要だったけど、科学を発展させた人類はこういうところにリソースを割き始めたらしいです。賢くて孤独で暇なんだね。出前でピザ取ってハングオーバーでも見ようよ。これも思想だから信じるとか信じないとかじゃなくて、わたしもそうだったらいいなーってぼんやり思います。


 死ぬってネタバレくらってるからすべての話が死に向かって展開していることがわかっちゃう。今がどんなに幸せでもいつかバッドエンドでしょ?
 そう思いたくないからせめてメリーバッドな死を、最後まで覚えていてくれるように鮮やかなシーンを重ねて。この先がどうとか、他人から見てどうとか、現実じゃどうだっていいもん。
 死んだら主人公も観客も一緒にいなくなるから結末はもっと早くに訪れるはずだと思っています。わたしの人生は今96クール目、感覚的にはシーズン4に突入していてシーズン3はバッドエンドでした。でも幸せなときに、その幸せを手放して潔く終わりにできる気しないから、ずーっとバッドエンドで、それで幸せなんじゃないかなって思います。

 「謝るくらいなら言わなきゃいいのに。」の本番中、帰りの駅のホームでわたしが「謝るくらいなら言わなきゃいいでしょ?」って言ったら蓮見さんは隠しカメラを探していた。キャストインタビューにある「まさか最後全員死ぬとは」ってボケも今わたしの中で回収されて、「いつかこの話が現実になったとき、おれはこの劇のことをどう思うんだろうね」って言葉が本当にならなければいいと思ってます。

 その稽古中、父方の祖父が亡くなりました。浅葱色の旗揚げのときは母方の祖父が亡くなりました。この台本は祖母の、夏のお葬式の景色を元にしています。わかってるんだけどちょっと引っかかってて、稽古場で蓮見さんについ話したら、おれも長編書くって決めたとたんMac壊れたことが2回あるって笑わせてくれました。


 祖父は絵と工作が上手で、いつも一緒に遊んでくれて大好きでした。でも話を聞くと結構めちゃくちゃな人だったみたいです。そういうところも含めておじいちゃんっ子だと思います。
 おばあちゃんが礼服を買い替えるためにコツコツ貯めた何十万ってお金を、ピカピカの工具に変えてきちゃったことがあります。怒られながら机に並べて、にこにこしてたらしい。
 最期に数日入院したとき、点滴を抜いちゃったり病院のごはんを食べなかったりした。お煎餅が好きなのに、硬いものが噛めなくなってからみんなの前じゃ食べなくなって、パパとママがお土産をシュークリームとかチョココロネとか柔らかいものに変えていた。かっこ悪いところを見られるのをめちゃくちゃ嫌がる人だった。嫌がってる姿が逆にかっこ悪くて、めんどくさくて回りくどくて、そこがかわいい。パパのふりしたオレオレ詐欺にがっつり引っかかりそうになったこともある。指示された通り廊下でこっそり話してたけど、心配しすぎて大声出して、伯母さんに見つかって事なきを得た。
 ちなみにまじでそれで弱って死んじゃったわけじゃなくて、おばあちゃんやみんながどんなに言っても食べなかったけど、若くてきれいな女の看護師さんがあーんしたら食べました。

 葬儀場にも火葬場にも灰皿がある。頼むからあってくれよとみんな思うからある。おじいちゃんはキャスターでした。棺桶にいっぱいだった。
 19歳のときに実家を出たから、煙草を始めたときも一人でした。こっそり吸いに行ったけど、うちの男性はもれなく喫煙者なのでおじさんたちに即見つかって、あー吸うの、まあ吸うよなーって。看護師の従姉も妊婦のお嫁さんもいたからそんなことはないです。「パパ知ってるの?」って聞かれて、まだって言ったらみんなで背中に隠してくれた。それから2年くらい会う機会なくて黙ってたらその間にチクられて、最近車に乗せてもらうときなんかは一緒に吸ってます。

 お葬式やお墓参りは、好きです。大切にしてるっていえばいいかな。さよならは愛してたに訳してもいい。別れるときまで一緒にいたはずだから。 ただそんなのどんどん言えなくなるから、久しぶりに家族に会えるし、お寿司食べれるしバヤリース飲めるし好き〜って言いたい。どんなに盛大なお葬式したって結局墓建てて、さよならのあとも会いに行ってしまうんだから。
 お葬式やお墓参りを大切にする人間が好きです。もう会えない人を思い続ける、その記憶があるのに生きている人が好き。騙し騙しでいいから、誰を大切に思っててもいいから、今わたしと一緒に生きてくれてるあなたのこと好きだよ。死なないでね。わたしにお墓参りさせないでね。


 高校演劇の秋大会で上演した演目です。
 映像もらったけど一度も見たことがなかったし、卒業後すぐ実家を出たので台本を読み返すこともありませんでした。
 ネモフィーラの稽古中、エンディングに使う写真を探して当時のグループLINEに入って、アルバムを遡ったら台本がありました。実家のパソコンをスマホで撮って急遽共有したらしく「ゲネは覚えてきてね」ってタイトルでした。こわ。
 台詞はひとつも覚えてなかったのに、みんながどんな顔でどんな声で言ってくれたか、何も忘れてなくて笑っちゃった。

 わたしが演出をやることが学年会議で先に決まっていた。台本会議に書きかけを持ってって見せた。そういう場じゃいつも逆張りしてくる虹雄がわりとすっと賛成してくれた。黒板使ってみんなでタイトルを考えた。
 60分超えたら失格になる中、本番のタイムが58分で全員天才だった。楽屋のモニターでもよかったのにずっと下袖から見守っていた。
 ビールの缶をくり抜いてジュースの缶に被せた。紙粘土の焼き鳥がおいしそうすぎた。ヤカンの音、ヒグラシの音、スズムシの音、みんなの歌、SSに照らされながら幕が閉まる。
 雅人と奏が上袖を華麗にターンしていく姿。大切な喪服を貸してくださったみんなの親御さん。わたしは全然カツラでいいと思ってたのに丸刈りにしてきた虹雄。袈裟の色や形が宗派によってちがうのを調べてきて縫ってくれたいちかちゃん。木魚の音を一音ずつサンプラーから鳴らしてたさやちゃん。

 結果は地区落ちで、終わって外で輪になったらみんな泣いててちょっとびっくりした。負けて終わったのにそのときが一番うれしかったし、まじで申し訳なかった。本番のみんなはちゃんと100点だったからわたしは泣かなかったけど、みんなの前だからそうしてると思われてたみたいで、本当に家族だなと思う。解散して、部長で主演だったサルと、副部長で演出だったわたしと、舞監だったヒナ、幹部3人でラーメンを食べた。そこでは泣いた。Twitterで報告したら多喜先輩が「負けた時はやっぱりラーメンなんだな、お疲れ」って呟いてくれてまた泣いた。
 報われるまでは努力じゃないし、正しい努力をさせるのが演出の役目だから反省は尽きないけど、ネモフィーラをやって少し報われた気がした。エンドロールの先でもこうして生きてる以上、終わりだと思ってた場所も終わりじゃないから、このとき報われなかった努力もこれから生きていく中で、いくつも実を結ぶんだろうって思えるようになった。星群から中止になった初演まで、全部連れて立ってる気がしたからかもしれない。


 稽古場で毎回言ってるけど、演劇って信頼でできている。
 本番中みんなが何をミスっても、出ていって叱ったり庇ったりできないから、ここはこう喋ってね、ここはこう動いてねって、演出はわたしと役者の約束だと思っていて、それは役者同士でもそうだし舞台と裏方でもそう。相手の台詞があるって信じること、相手がここに来てくれるって信じること、照明が変わるって信じること、音響が鳴るって信じること、みんながひとつひとつの約束を覚えていて守ってくれるって信じることで、劇はできてると思う。
 お客さんの期待を裏切らないことも大事だけど、まずわたしたちがお互いを裏切らないことが大前提。つまり当たり前。なんだけど、あのね、顔作って気持ち作って間取って台詞思い出して言って相手の台詞思い出して聞いて動き思い出して動いて相手の動き思い出して見て道具出してハケて暑いとか寒いとか痛いとか涙とかあくびとかくしゃみとか我慢して瞬きもして息もしてるって、すごいことだから、これを当たり前だ、やれ、全部やれ、完璧にやれって命令するわたしは頭がおかしいんじゃないかと時々思う。台詞思い出してから息吸うんじゃ遅いって叱ったことまである。
 稽古中、文化ホールの舞台の上で廉を泣かせたこと引きずってるから、その後の演出はすごく丸くなった。言葉を選ぶようになった、伝わったか確認するようになった、できないことを言ってないか考えるようになった、嫌なところを嫌って言うだけじゃなく、よかったところはよかったって言うようになった。高校の頃はこれが全部がなかったと思うとやばい。もーほんとごめんなさい。
 浅葱色や小雨から知り合った人には、まだまだ怖がられてるんだろうけど、同期には感心される。さやちゃんには笑われた。ただオーキドなんかは、ずっと優しいですよって言ってくれる。わたしが星群見たって言ったら再演する夢を見たらしい。台詞ぐだぐたでしたって。かわいいな。

 あの頃のわたしたちにとっての正解をきちんとやったって確信があるし、何よりめちゃくちゃしんどかったからやり直したいわけじゃないです。もう1回やりたいなと思うだけ。
 ずっとそばに置いておきたいけど、みんなならどこに行っても大丈夫って一番わかってるのもわたしだから、見送ることにしてる。
 不安でも信じることから始めなきゃずるだし、先に諦めただけの人間がえらそうに振ってんじゃねーよと思います。ほんとに丸くなった?
 わたしのこと、みんなのこと、役のこと、自分のこと、好きになれるまで考え続ける、信じ合える日まで孤独を耐え抜く、あなたたちもストイックに優しくて素敵だと思います。


 最後に書いたネモフィーラには消極的な台詞が多いけど、「残りの人生なんて全部、あの日の後日譚なんだよ」って台詞を、同期は好きと言ってくれた。台本読んで、本番じゃなく稽古を思い出してくれる人もいることがうれしい。
 特別なひとや、大切なものを失って、喪失感を抱えて生きるのはすごくつらいけど、この短い人生の途中で、そう思える何かに出会えたことはとても幸せなことだと思います。

 終演後、みんなが装置を撤収する中、わたしだけは演出意図を話すために幕の外に行きました。逆光の中で客席を見たらお客さんがたくさん泣いてくれてました。背中で幕が揺れてて、裏にいるみんなに見せてあげたかった。カーテンコールで見られたかな。
 ネモフィーラで同じ景色を見ました。ありがとうございました。

 当時ぶりに映像も見ました。1回目は恥ずかしすぎて直視できなかったから3回続けて見た。みんな上手だけど、このあともっと上手くなるの知ってるからかわいい。最後に高2のわたしも出てきて「わたしたちはいつでも誰かを突然に失う可能性を持っているから、今を大切にしなきゃいけないけど、何を失ってもわたしたちは生きていく」って今と同じこと言っててかわいかったです。安心して大きくなりな。
 昨日同期がひとり結婚したので、久しぶりにグループLINEを動かしたんですけど、みんな思ったより早く返信くれて、結婚もめちゃくちゃうれしかったし、今も一緒に生きてるってわかってうれしかったです。冠婚葬祭すごいな。最後の履歴がさやちゃんの退会通知だったから開いた瞬間に一度心折れたけど、みんなのスタンプに流されていった。

 星群見てからネモフィーラ見ると、ちゃんと上手になっててなんかよかったです、ちょっとだけど。大事なものはちゃんと大事にできるようになってると思います、ちょっとずつ。お芝居を続けて得た、一番大きなものはそれかなって思います。
 その話はまた後日。


 マルセルの言葉で一番好きなのは「人間が人間に贈りうる最大の贈り物、それはよい思い出」。
 ちがうと思ってもなるべくそのまま、どうしても恥ずかしいところだけ書き直しました。何か思い出していただけたら幸いです。





「星群家族」  山野莉緒

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【登場人物】

久瀬雅人(くぜ まさと) ‥‥ 中学3年生。
久瀬美佳(くぜ みか) ‥‥ 雅人の姉。高校2年生。
久瀬雅彦(くぜ まさひこ) ‥‥ 雅人の父。
久瀬香織(くぜ かおり) ‥‥ 雅人の母。

岸辺詠一(きしべ えいいち) ‥‥ 香織の実父。雅人の祖父。
岸辺菊江(きしべ きくえ) ‥‥ 香織の実母。雅人の祖母。

羽鳥はる(はとり はる) ‥‥ 雅人の叔母。雅彦の妹。
羽鳥奏(はとり かなで) ‥‥ 雅人と同い年のいとこ。はるの娘。
羽鳥なずな(はとり なずな) ‥‥ 雅人のいとこ。奏の妹。

岸辺浩史(きしべ ひろし) ‥‥ 雅人の叔父。香織の弟。
岸辺歩美(きしべ あゆみ) ‥‥ 雅人の叔母。浩史の妻。
岸辺彩乃(きしべ あやの) ‥‥ 雅人のいとこ。浩史と歩美の娘。

竹中祥子(たけなか しょうこ) ‥‥ 香織のいとこ。

明慶(みょうけい) ‥‥ お坊さん。



第一場

 一年前、久瀬家。
 ヤカンのお湯が吹きこぼれる音。

美佳 「お母さーん! ヤカーン!」
香織 「ええっ、ごめんごめんごめん!」
美佳・香織 「はあ‥‥」
雅人 「母さん!」
香織 「ん?」
雅人 「今日、七夕だよ」
美佳 「あっ、だからあんたは」
雅人 「うるせえ! ねえ、ちらし寿司は?」
美佳 「もー、今日は焼き魚。さっき言われたじゃん」
雅人 「魚なら、ちらし寿司でいいじゃん。ねぇ母さん」
香織 「雅人ごめんね。ちらし寿司は、お父さんいる日にしようと思って」
雅人 「えーっ、やだ」
香織 「んー」
美佳 「いいよお母さん、日曜日で」
雅人 「母さん」

 間。

香織 「まあ‥‥当日に食べるからいいんだよね」
美佳 「えっ」
雅人 「ほら! 父さんだってめちゃくちゃ遅いわけじゃないでしょ? 今日!」
美佳 「でも」
香織 「そうねー。じゃあ、作っちゃおうか。ちらし寿司」
雅人 「ほんと!?」
美佳 「お母さんってば、雅人に甘いんだから」
香織 「そう? まだ明るいし、買い物行ってきちゃうね」
美佳 「無理しなくていいのに」
香織 「大丈夫。美佳、手伝ってくれるでしょ?」
美佳 「え‥‥しょうがないなー」
香織 「ありがとう。じゃあ行ってくるね」
雅人 「金平糖!」
香織 「わかってる。帰ったら、ふたりには酢飯扇いでもらうから。団扇、用意して待っててね」
雅人 「うん!」
香織 「じゃあ、いってきます」
雅人・美佳 「いってらっしゃい」

 香織、退場。

雅人 「よっしゃー!」
美佳 「あんたが頼んだんだから、ちゃんと手伝いな」
雅人 「わかってるよ、うるさいなー。姉ちゃんだってうれしいくせに」
美佳 「はあ? ‥‥もう。あはは」



第二場

 千葉県南部。小高い山の麓、田畑に囲まれた町。梅雨明けの強い西日を受けて、草いきれが立ち込めている。人通りはなく、蝉の声が飽和している。
 アスファルトの上に荷物を放って、立ち尽くす三人。雅彦、電話をしている。

雅彦 「あ、そうですか。わかりました。はい。‥‥はい、ありがとうございます。お願いします」
美佳 「なんだって?」
雅彦 「もう来るって」
美佳 「あつーい。喉乾いた」
雅彦 「さっき買ったジュースは?」
美佳 「もう飲んじゃった」
雅彦 「あー」

 雅彦、あたりを見回すが自販機はない。雅人を見る。

雅彦 「雅人」
美佳 「あー、いい! 着くまでがまんする」
雅彦 「そうか」

 間。

美佳 「来た! おじいちゃん、おばあちゃん!」

 美佳が大きく手を振った先に、一組の老夫婦。
 菊江、美佳に気がつき、両手を広げて寄っていく。

菊江 「美佳ちゃん! あらー、またお姉さんぽくなって」
美佳 「お正月に会ったばっかじゃん。そんな変わんないよ」
菊江 「ううん、どんどんきれいになる。そろそろ、いい人とかいるんじゃないの?」
美佳 「それが全然。二年になってから部活忙しすぎて、みんな恋愛どころじゃないんだよね」
菊江 「あら、そう?」
雅彦 「お義父さん、お義母さん。お久しぶりです」

 間。

雅彦 「毎日暑いですけど、お体の方は大丈夫ですか」
菊江 「この通り、元気ですよ。雅人くんは? 元気?」
雅人 「うん」
菊江 「久しぶりね」
雅人 「うん」
雅彦 「雅人。挨拶くらいきちんと、な?」

 間。

美佳 「ほんとグズ」
雅彦 「美佳。やめなさい」
美佳 「だって」
雅彦 「すみません、お義母さん」
菊江 「ええ」
詠一 「おい」
菊江 「なあに?」
詠一 「暑い。帰るぞ」
雅彦 「あ、お邪魔します」
菊江 「そうね。行きましょう」
美佳 「今日ほんと暑いね。おばあちゃん、ジュースある?」
菊江 「たくさんあるわよ。もうみんな揃ってるから、すぐごはんにしようね」
美佳 「やったー」

 美佳と祖父母、退場。

雅彦 「雅人。行こう」

 雅人、顔を上げる。雅彦が立ち止まってこちらを見ている。雅人、再び目をそらす。視界は橙一色、体にまとわりつくような熱気、やかましい蝉しぐれ、父の視線。
 雅人、父を追い抜き、足早に退場。



第三場

 畳の居間に座卓がふたつ、座布団は四枚。
 浩史、居間と台所を行き来している。そこへ彩乃が飛び込んできて、慌てて避ける。彩乃は折り紙の飛行機を持っている。

彩乃 「びゅうーん!」
なずな 「彩乃ちゃん! ちがうってば! 止まってよぅ」

 なずなも走ってくる。ふたりを追いかけてきた奏、浩史と目が合うと気まずそうに頭を下げる。浩史、微笑む。

浩史 「彩乃、走ると危ないぞ〜」
彩乃 「うん! びゅうーん、びゅうーん」
なずな 「ちがうの! 今はヒコーキじゃない! お姉ちゃん、七夕飾り折るんだよね?」
奏 「うん。そうだね」
彩乃 「あっ! ねえ。彩乃ね、金ピカほしい!」
なずな 「だめだよ! なずながお星さま折るんだもん!」
彩乃 「やだあ、なずなちゃんだけ金ピカずるい!」
なずな 「だめ!」
彩乃 「きんぴか! きんぴかぁ」
なずな 「だめったらだめ!」
奏 「もー、あげればいいじゃん」
なずな 「でもお」
彩乃 「やだやだやだ、きんぴかぁ! ‥‥ぶぅーん」
なずな 「だからびゅーんしないでよぉ!」
浩史 「彩乃。ほら、なずなちゃん困ってるよ」
彩乃 「やだ! きんぴかほしぃいい!」
奏 「なずな」
なずな 「じゃあ! じゃあ、一枚だけあげる。でもそしたらなずなの言うこと聞いて! いい?」
彩乃 「うん!」
なずな 「じゃあ、あげる。でも特別だよ!」

 奏、ため息。浩史、笑う。

歩美 「はい失礼しまーす。唐揚げ大盛りでーす!」
祥子 「こちらはサラダ大盛りで〜す」
はる 「お刺身も大盛りでーす」

 両手にお皿を持って、女性たち登場。

浩史 「うわ、豪華」
祥子 「まだまだあるよ~」
はる 「ちょっと作りすぎちゃったね」
歩美 「はるさんとキッチンに立てる、貴重な機会ですから!」
はる 「ふふふ。歩美ちゃんてば」
彩乃 「なずなちゃん、いいなー」
なずな 「えー?」
彩乃 「毎日おばちゃんのごはん食べれるんでしょ」
歩美 「彩乃? ママのごはんだっておいしいでしょ〜?」
彩乃 「ぜんぜん! 食えたもんじゃないよ!」
はる 「まあ」
歩美 「そんなこと言う子には、こうだ! こちょこちょこちょこちょ!」
彩乃 「きゃーっ! あはは、やだやだ!」
浩史 「そんな言葉、どこで覚えたんだ?」
彩乃 「パパが言ってた」
歩美 「え?」
彩乃 「黒いオムライスの日」

 間。

歩美 「浩史?」
浩史 「えっいやだってほらあれなんていうかちょっと、タクシーの味したし」
歩美 「彩乃。これからはパパがごはん作ってくれるって。うわ~」
歩美・彩乃 「助かる〜!」
はる 「なかよしね」
奏 「うちも仲いいじゃん。あんまり家にいないけど」
はる 「ふふふ」
なずな 「なずなね、おっきくなったらパパみたいな人と結婚するよ」
はる 「あら、そうなの」
なずな 「うん!」
奏 「ふーん」
はる 「奏は? どんな人がいいの?」
奏 「えー」
はる 「やっぱり雅人くん?」
奏 「は!?」
はる 「ちっちゃいときから、大好きだもんねぇ。いつも雅人くんにくっついて回って」
奏 「ねぇ待って。私べつに」
はる 「そうだ。座布団足りない分、取ってきて?」
歩美 「一緒に。ほら」

 歩美、浩史に顎で指図。

浩史 「はあい‥‥。奏ちゃん、こっち」
奏 「はい。お母さん、雅人はほんとにそんなんじゃないから!」

 奏、甲高い声で怒鳴り、走り去る。
 祥子、にやけ顔で見送ってから悪意のあるモノマネ。

祥子 「雅人はほんとに、そんなんじゃないから! すっかりねー」
はる 「まあね。立派に年頃の娘って感じ。なずなもマセてきたし」
歩美 「うちもです。こう見えて、心はちゃかり乙女なんですよ。この間も、朝の忙しい時にメイク真似したがって」
祥子 「大変そー」
はる 「女の子なら一度は通る道ね」
歩美 「美佳ちゃんも、元気ですかね」
はる 「ああ‥‥。そうね、また美人になったかも」
祥子 「絶対そう! あの子、似てるしね」
はる 「うん」
歩美 「そうですね」

 間。

はる 「雅人くん、どうかな」
祥子 「どーだろねぇ。でも一年、あっという間だったなー」
歩美 「ですよね」
彩乃 「ママー。雅人くん来るの?」
歩美 「うん。覚えてる?」
彩乃 「雅人くん、やだぁ」

 女性陣、凍りつく。

なずな 「なんで?」
彩乃 「ずっとこわい顔してるもん。全然遊んでくれないし」
なずな 「あのね、雅人くん、お姉ちゃんと同い年だよ。優しいよ?」
彩乃 「かなちゃんは好き。雅人くん、つまんない」
はる 「ははは‥‥。そっかぁ」
歩美 「そんなこと言わないの。雅人くん、今大変なんだから」
彩乃 「ママ死んじゃったから?」
歩美 「こら」
祥子 「そうそう」
彩乃 「でも涙出ないんでしょ?」

 間。

歩美 「彩乃。それ、みんながいる時に言っちゃだめだよ」
彩乃 「なんで?」
歩美 「なんでも」
彩乃 「なんで? ねえ、なんで?」
歩美 「とにかくだめなの!」
彩乃 「なんで!」
祥子 「それ言われると、おばさんたちね、ちょっと困っちゃうのよ」
彩乃 「ふーん。知らない。あっち行こ?」
歩美 「彩乃!」
はる 「まあまあ。行っといで」

 彩乃、なずなとともに、隣の机に移る。
 女性三人、ため息。

歩美 「すみません」
祥子 「歩美ちゃんのせいじゃないって。進展があればいいけどねー」
はる 「うん。兄さんにも、早く楽になってほしい」
祥子 「てかさー、こんなこと言っちゃあれだけど、はるちゃんと雅彦さん、よく呼んでもらえたね」
はる 「ああ」
祥子 「おばちゃん、絶対嫌がると思ってた。まさか泊まりに来るなんて」
はる 「一応、菊江さんの方から話が出たみたいです。色々ばたばたするし、前日からって」
祥子 「へえ」
歩美 「そのくらい当然ですよ。元々は雅彦さんの方でやる予定だったのに」
祥子 「おばちゃんが譲んなかったんでしょ? 聞いた聞いた。ねっ」

 祥子、座布団を運んできた浩史に声をかける。

浩史 「雅彦さんが気を遣ってくれて。大事にならなくてよかったけど」
歩美 「見てるこっちがきついよ」
祥子 「まあねえ」
はる 「それで、私もお願いして来させてもらったんです。菊江さんには申し訳ないけど、やっぱり心配で」
歩美 「はるさん来てくれてよかったです。自分だってしんどいはずなのに、あちこち気遣って、ほんと大変そう。あれからすごい痩せましたよね、雅彦さん」
はる 「そうね。ありがとね」
浩史 「すいません、母が」
はる 「あ、いやいや。菊江さんもつらいだろうし」
祥子 「溺愛だったからねー。学生の頃、よく一緒に遊んでたんだけどさ、門限五分前から鬼電してくんの」
浩史 「懐かしいね」
祥子 「あと五分で着くっつーの」
浩史 「五分前行動だから」
祥子 「まあ、せっかちな人だからさ。雅彦くんのせいって決めつけちゃってるところはあるかもねって」
はる 「ええ」
奏 「お母さん。座布団、全部で何枚?」
はる 「えっと、うちが三人と、歩美ちゃんたち三人、兄さんとこも三人で」
祥子 「はるちゃん、旦那さんは?」
はる 「赴任先から戻るのが難しくて、なんだか」
祥子 「そういや単身赴任だったね。今どこだっけ?」
はる 「おおい」
祥子 「大分か! じゃ変わらずだ」
はる 「はい」
祥子 「遠いねー」
歩美 「年に何回くらい帰ってくるんですか?」
はる 「回数で言ったら、二、三回かな」
歩美 「えー! さびしくないですか?」
はる 「まあ、若い頃はね」
奏 「十二だよね?」
はる 「あ、うん」
祥子 「あんたたちはバカップルだもんねー。一秒だって離れたくないよね〜」
歩美 「やだ、そんなことないです」
浩史 「あのー」
歩美 「うっさいバカ!」
浩史 「なんで!?」
はる 「お若いお二人は、今もアツアツよねって話」
浩史 「は!?」
歩美 「はるさん!」
浩史 「もー、みなさん! 準備準備」
はる 「はーい」
祥子 「よし。箸と取皿〜♪」
歩美 「お義父さんとお義母さん以外、割り箸でいいですかね」
はる 「そうしちゃおうか」

 女性陣、賑やかに退場。奏は再び座布団を取りに行き、残った浩史は子どもたちに声をかける。

浩史 「お嬢さん方。そろそろ折り紙はお片付けしよっか」
彩乃 「見て! これ、編み飾り。すごいでしょ!」
浩史 「へえ。どうなってんのこれ」
彩乃 「わかんない!」
浩史 「すごいね〜」
なずな 「なずなはお姉ちゃんに教わったけど、今はなずなが彩乃ちゃんのお姉ちゃんだから、教えてあげたよ」
浩史 「ありがとね。これすっごくきれいだから、ここに置いとくと、今から来るみんなに取られちゃうかもね?」
彩乃 「えっ!?」
なずな 「あげないよ!」
彩乃 「絶対あげない!」
浩史 「じゃあ、取られないところに隠そう。二階とかいいと思うな〜」
なずな 「彩乃ちゃん、隠しに行こ!」
彩乃 「行く! パパ、みんなにはナイショだよ!」
浩史 「うん」

 久瀬家と祖父母が帰宅。子どもたちと入れ違いに、居間に入って来る。
 雅人だけは廊下で踏みとどまる。

なずな・彩乃 「おかえりー! あっ、こんにちはー!」
浩史 「ああ、おかえり」
菊江 「ただいま。はあ、暑かった」
美佳 「お邪魔します」
浩史 「美佳ちゃん! 久しぶり」
祥子 「えー美佳ちゃん!? ほんとだ久しぶり!」
美佳 「お久しぶりです」
はる 「美佳ちゃん焼けたね。部活?」
美佳 「はい」
祥子 「何それ、超女子高生じゃん」
歩美 「えーまた美人になって」
美佳 「いやいや」
菊江 「歩美さんたちもそう思う? 雅人くんもね、また背が伸びて」
はる 「本当ですね。いくつ?」
雅人 「百七十」
祥子 「浩史、抜かれたんじゃない?」
浩史 「うん、負けた」
歩美 「初めて会ったときはこんなだったのに。ねえ?」
雅人 「あー、はい」
奏 「久しぶり」

 間。

奏 「取り皿も取ってくる」
祥子 「恥ずかしがっちゃって」
はる 「ふふ。菊江さん、割り箸って」
菊江 「ああ、はいはい」

 奏に続いて菊江、はる、祥子、台所へ。

雅彦 「浩史さん。ご無沙汰してます」
浩史 「こちらこそ。また少し痩せました?」
雅彦 「いやあ」
浩史 「体は大事にしないと。姉さんが泣きますよ」
雅彦 「そうですね。すみません」
歩美 「雅彦さん、大丈夫ですか?」
雅彦 「まあ、ぼちぼち。お二人も、お元気そうで」
歩美 「私は年中無休で元気ですよ!」
浩史 「ほんとにね」
歩美 「何よ。今日はるさんと、ごはんたくさん作ったんで。モリモリ食べちゃってください!」
雅彦 「ありがとうございます」
歩美 「雅人くんもね!」
浩史 「雅人くん、久しぶり」
雅人 「はい」
浩史 「元気? 夏バテとかしてない?」
雅人 「まあ」
美佳 「もっとしっかり返事しなよ」

 はる、料理を手に戻ってくる。

はる 「まあまあ。そういう年頃よ。美佳ちゃんだって、中学生の頃はちょっとスカした感じだったじゃない?」
美佳 「いいんです、私の話は!」
歩美 「あはは、懐かしい!」
浩史 「なかなかにトガッてたよね」
はる 「ねえ」
美佳 「‥‥何か手伝いますか?」
はる 「ありがと。台所で聞いてみて」
美佳 「はーい」

 美佳、はると入れ替わり退場。

はる 「雅人くん、久しぶり。兄さんも」
雅彦 「ありがとな、わざわざ」
はる 「ごめんね。弘行さん、やっぱり戻れなくて」
雅彦 「しかたないよ。遠いし、お盆には早いし」
はる 「何でも手伝うから言ってね」
雅彦 「ありがと」
祥子 「そろそろ食べるよー!」
はる 「はーい」

 一同、いよいよ夕飯の支度を整え始める。
 廊下からも大きな返事が飛んできて、なずなと彩乃が部屋に駆け込んでくる。

彩乃 「パパー!」
浩史 「おっ、上手に隠せた?」
なずな 「お布団の中に隠したよ!」
浩史 「ナイス! じゃあごはん食べようか。二人は何が好き? 唐揚げ?」
彩乃 「唐揚げ!」
歩美 「走らなくても唐揚げは逃げないよ!」
祥子 「いや〜、逃げるかもよ〜? 祥子さんのお口の中にね! ぱくぱくぱくぱく!」
彩乃 「きゃー!」
浩史 「なずなちゃん、ありがとね」
なずな 「うん! あのね、なずなは、強くて優しくて何でもできて、歌って踊れるスーパーお姉ちゃんだから!」
はる 「スーパーお姉ちゃん! 野生の奏ちゃんが現れた、出動せよ!」
奏 「えっ」
なずな 「なんだとー! 食卓の平和はなずなが守るぞ! 必殺、お姉ちゃんビーム! びびびびび」
奏 「‥‥あ〜」
なずな 「むー。びびびびび!」

 間。

奏 「やられた〜あ!」
なずな 「やったー!」
彩乃 「わー!」
はる 「すごーい」
菊江 「全員、座れてるわね」
祥子 「じゃあ、せーので!」
全員 「いただきます」

 真っ先に唐揚げに食らいつく子どもたち。取皿に二個も三個も取っていくなずなを見て、奏、ため息。大皿に手を伸ばすと、事前に数を数えていたらしいなずなに「一人三個だよ!」と怒鳴られる。もうひとつ、ため息。

菊江 「夕飯にはちょっと早かったかしら」
祥子 「そう?」
歩美 「いいんじゃないですか? 明日はきっと、ばたばたしますから」
菊江 「そうね。みなさん、早起きよろしくね」
雅彦 「はい」
はる 「はーい」
浩史 「まあ、お坊さんが来るのは昼だから。雅彦さんとこはふたりとも大きいし、そんな焦んなくても大丈夫ですよ」
はる 「あのいつものお坊さんですか?」
浩史 「うん、明慶さん」
はる 「いい方ですよね」
祥子 「わかる。葬式の段取りなんて、私たちわかんないし、ありがたいよね」
はる 「そうですね」
奏 「ねぇ。唐揚げ、お母さんが作った?」
はる 「みんなで作ったけど、味付けはうちの」
奏 「やっぱり」
はる 「おいしい?」
奏 「うん。今度これも教えて」
なずな 「なずなもやる!」
はる 「いいわよ」
菊江 「はるさんがお料理上手で助かったわ」
はる 「菊江さんもお上手じゃないですか。お漬物、おいしいです」
菊江 「あら、ありがとう」
詠一 「香織も料理が好きだったな」

 間。

雅彦 「はい」
浩史 「食べるのも同じくらい好きだったけどね。明日で一年か。もっと長いと思ってた」
はる 「お通夜が昨日のことのようです」
菊江 「本当にそうね。今でも時々、離れて暮らしてるだけなんじゃないかって気がして、話がしたくなるわ」
はる 「私もです」
祥子 「実感湧かないよね。ひょっこり出てきて唐揚げパクついて来そう」
浩史 「目に浮かぶわー」
祥子 「そんなすぐには変われないよ。もっと長い時間、一緒にいたわけだし」
雅彦 「そうですね」

 間。

雅彦 「ふとしたときに、ああ、もういないんだって思うことを繰り返して、少しずつ、受け止めてくしかないんですよね」
はる 「兄さん」
歩美 「雅彦さんが一番つらいでしょ。ゆっくりでいいと思いますよ」
菊江 「一番?」

 一同、菊江を見る。菊江、手の中の湯呑を見つめている。

歩美 「えっ。えっと」
彩乃 「ママ、唐揚げ取ってー」
歩美 「あ、うん」

 間。

はる 「あー、雅人くんさ」

 間。

祥子 「彼女とか、いる!?」
はる 「えっ」
雅人 「いや」
はる 「あ、勉強はどう?」
雅人 「まあ」
はる 「‥‥そっか」

 間。

美佳 「すいません! そっちにシーザードレッシングありますか!」
菊江 「あるわよ、きっと。えー」
浩史 「これ? はい」
美佳 「ありがと」
菊江 「若いんだから、たくさん食べなさいね。雅人くんも、食べてる?」
雅人 「‥‥はい」
美佳 「あー、もう!」

 美佳、ドレッシングを机に叩きつける。

美佳 「なんでそんな感じなの? みんな気遣って話しかけてくれてんでしょ。はっきりしゃべんなよ」
菊江 「美佳ちゃん、いいのよ。ごめんなさいね、遠いのに話しかけちゃって」
はる 「ごめんね、雅人くん」
美佳 「こんなやつ庇わなくていいよ! 何、みんなして」
はる 「美佳ちゃん」
美佳 「だって!」
菊江 「今日は賑やかでいいわねぇ。ふたりだけじゃ、この家広くて」
彩乃 「おばあちゃんち、駆けっこしていいから好きー!」
歩美 「よくない」
彩乃 「んん」
祥子 「いいよいいよ、べつに」
彩乃 「ほら! ねえ、雅人くん、もう泣いた?」
はる・浩史・歩美・祥子 「えっ」
歩美 「あ、彩乃っ」
彩乃 「だって雅人くん泣かないから、みんな怒ってるもん」
はる 「それはちがうよ」
菊江 「ちょっと」
歩美 「彩乃、黙って」
彩乃 「ほらぁ怒ってる。彩乃悪くないもん。ママ死んじゃったのに悲しくない、雅人くんがいけないんでしょ?」
歩美 「彩乃!」

 間。
 彩乃、泣き出す。

歩美 「ご、ごめんなさい」
美佳 「彩乃ちゃんは悪くないし、歩美さんも謝ることない」
はる 「美佳ちゃん、だめ」
美佳 「これ全部あんたのせいなんだよ。何とも思わないの?」
奏 「あの」
美佳 「つらくても一生懸命力合わせて乗り越えようとしてんのに、自分だけ。あんたがそんなんだから、みんなが悲しめないんだよ。心配かけて楽しいの? 黙ってないで何とか言いなよ。じゃなきゃさっさと泣けば?」
雅彦 「美佳、頼む。やめてくれ」
美佳 「お父さん!」
はる 「美佳ちゃん。落ち着きましょう? あなたの言う通り。誰も悪くないよ」

 間。
 みなが雅人ではなく、美佳を見ている。

美佳 「ごちそうさま」

 美佳、部屋を出ていく。
 美佳の剣幕に気圧されていた彩乃が、再び泣き出す。

雅人 「ごちそうさま」

 雅人も席を立つ。

菊江 「雅人くん、もう少し食べたら?」

 間。

雅人 「ごちそうさま」

 雅人、退場。
 残された人々、誰にも取り繕えなくなった空気をただ吸って吐く。

歩美 「彩乃も、ごちそうさましようか」

 間。

歩美 「ごちそうさまは?」

 間。

歩美 「寝よっか。また戻ってくる」
浩史 「うん」
歩美 「みなさん、すみません」

 彩乃の腕を引っ張るようにして、歩美も部屋を出て行く。

なずな 「お母さん。彩乃ちゃんとこ行きたい」
はる 「わかった。一緒に行きましょ」
祥子 「なずなちゃん、おやすみ」
なずな 「おやすみ! ごちそうさま!」

 走っていくなずな。はる、後を追う。

詠一 「おい」
菊江 「なんですか?」
詠一 「明日に備えて、休むぞ」
菊江 「もうですか? あら‥‥」
祥子 「あー、あと私たちやっとくんで」
菊江 「そう? じゃあ、あとは若い人たちで楽しんで。浩史、よろしく」
浩史 「ん、おやすみ」
祥子 「おやすみなさーい」
菊江 「みなさん、おやすみ」
雅彦 「おやすみなさい」

 あっという間に奥へ引っ込んでしまった詠一。菊江が慌てて続く。
 三人の大人と、奏が残った。
 間。

浩史 「ビール、開けます?」
祥子 「おっ、いいねぇ。雅彦くん、お酒は?」
雅彦 「あ、はい」
祥子 「よっしゃ、飲もう! 奏ちゃんは適当に食べてていいから」
奏 「はい」
祥子 「楽しんでって言われちゃったし、お言葉に甘えて〜」
浩史 「しまった。祥子ちゃん、めちゃくちゃ飲むんですよ」
祥子 「そんじょそこらの男には負けないよー。ほら、雅彦くんも飲んで飲んで」
雅彦 「いただきます」

 雅彦、缶ビールをぐっと煽る。

浩史 「豪快にいきましたね」
雅彦 「はは」
浩史 「いいと思いますよ、たまには」
祥子 「うんうん。飲まなきゃやってらんないよね」
浩史 「たまには、ね?」
雅彦 「はい」
浩史 「葬式思い出すなー。美佳ちゃん号泣してる横で、雅人くん今日とおんなじ顔してた」
祥子 「まあ、私も何にも変わってないけど」
浩史 「おれらはね。子どもは毎日ものすごい速度で成長していくよ。でも雅人くんは、今も同じところにいる」

 はると歩美が戻ってくる。

はる 「何が引っかかってるのかな」
祥子 「おっ。お疲れー、飲む?」
はる 「わあ。じゃあいただきます」
祥子 「どーぞ、どーぞ」
歩美 「雅彦さん、すみません。さっきは彩乃が」
浩史 「ほんっと、すいません」
雅彦 「気にしないでください。しかたないですよ」
歩美 「でも」
雅彦 「おれが不甲斐ないせいです。こっちこそすみません」
歩美 「そんなことないです」
雅彦 「いや。情けない話、理由もわかんなくて」
浩史 「涙が出ることがすべてじゃないとは思いますよ。泣きたいのに泣けないなら問題だけど、特に男は、かなりしょうもない理由でがまんすることあるから」
祥子 「確かにねえ」
はる 「でもこのままだと、美佳ちゃんもかわいそう。ずっとあんな感じなんだね」
雅彦 「うん」
歩美 「仲よかったのに、さびしいですね」
はる 「お互いにたった一人の姉弟なんだから、こんなときこそ支え合いたいんじゃないのかな。戻れるといいね。戻れるわけじゃないだろうけど」
雅彦 「うん。早く何とかしたいよ。もしおれもって思うと」
はる 「そうね」
祥子 「ん?」
浩史 「あー」
雅彦 「絶対、そんなことにはならないですけど、絶対はないし。今、おれまで香織みたいに突然死んだら、あいつらどうするんだろうって」
祥子 「ああ」
はる 「いつ何があっても、おかしくないんだって思ったよね」
歩美 「はい。まさか香織さんが」

 間。

雅彦 「事故に遭ったって聞いて、ほんとに頭が真っ白になったんです。どうやって病院まで行ったか覚えてないし、葬儀とか、手続きとか。すぐに仕事も始まって、家事も増えて。どんなに気持ちがついてこなくても、朝になったらやらなきゃいけないことはいくらでもあって。おれ自身、ずっといっぱいいっぱいで、雅人が一度も泣いてないってことに、しばらく気づきもしなかった」
はる 「うん」
雅彦 「あいつを一人にしたのは、おれです。寄り添ってやりたいけど、何も話してくれなくて。歯がゆくて、どうしてって問い詰めたくなる、美佳の気持ちもわかるんだよ。結局どっちにも、何もしてやれない。おれ一人じゃだめなのかな」
はる 「兄さん」
歩美 「そんなことないです! 雅彦さん、すごいですよ。悲しくて当たり前です、この世で一番好きな人をなくしたんだから。でもちゃんと現実を見て、家族のために毎日働いて。立派だと思います」
浩史 「おれも、歩美が突然いなくなったら、たぶん毎日、ただ泣いちゃう。彩乃の面倒なんか、正直見切れないですよ」
はる 「兄さんはしっかりやってる。お父さんとして」
雅彦 「そうかな」
歩美 「そうですよ」
浩史 「あの、母さんのこと、いつもすいません。おれからも言うんだけど、聞く耳持ってくれなくて」
雅彦 「いいんです。おれは、香織を守れなかったから」
浩史 「雅彦さんのせいで起きたことなんて、ひとつもないですよ。姉さんは雅彦さんを選んだし、美佳ちゃんのことも雅人くんのことも大好きでした。みんな知ってます。結婚して、幸せじゃなかったはずがないです。たしかに、この先の幸せなはずの未来を失った。それは不幸だけど、今までの幸せに傷がつくわけじゃないです」
はる 「うん。みんな知ってる。だから一人じゃないよ。思い出がある。子どもたちがいる。私たちもいる」
雅彦 「ありがとうございます。はるも」
浩史 「母さんもわかってると思います。ただあの人こそ、今は悲しむだけで精一杯っていうか」
雅彦 「当然だと思いますよ。歩美さんは大丈夫ですか?」
歩美 「平気です! 私の言い方もよくなかったです。どのくらい悲しいかなんて見た目じゃわからないのに、比べるような言い方して」
はる 「誰が誰よりつらいとか、そんなの、もし目に見えたって、同じものさしじゃ測れないもんね」
雅彦 「うん。つらいのはみんな一緒だよ。だから、雅人もきっと。あの、どうか誤解しないでやってください」
奏 「あの」

 大人たち、奏を見る。

奏 「雅人、おばさんのこと大好きだったと思います。だから、私、わかります。言葉にしなくたって。涙が出なくたって。きっと」
雅彦 「雅人のこと、見てくれてるんだね」
奏 「あの、おやすみなさい!」
はる 「あっ、うん」
雅彦 「奏ちゃん、ありがとう。おやすみ」
奏 「おやすみなさい」
浩史 「おやすみ~」

 奏、廊下の冷たい空気に飛び込み、深呼吸。すっきりした表情で去っていく。

祥子 「青春ねえ」
歩美 「若いっていいなー」
浩史 「歩美ぃ、おまえにはおれがいるだろぉ」
歩美 「‥‥飲みましょっか!」
浩史 「聞いてくれよー」
はる 「浩史くん、できあがっちゃってる」



第四場

 翌朝。人々は家じゅう騒がしく行き交いながら、会場を作ったり喪服に着替えたりしている。
 酔い潰れ、居間で眠っていた祥子と浩史。そこに彩乃がやってくる。

彩乃 「パパ起きて!」
歩美 「こら彩乃、まだ途中!」
彩乃 「ねえ、今日七夕だよ! 七夕!」
浩史 「うーん。そうだね」
彩乃 「笹出さないの?」
浩史 「お坊さん帰ってからね」
菊江 「あんた、こんなんじゃお呼びもできませんよ。いい加減、起きなさい」
彩乃 「パパ、ちらし寿司は?」
浩史 「それも夜ね」
彩乃 「えー、おなかすいたー!」
菊江 「彩乃ちゃん、おいで。アイスあげましょうね」
彩乃 「わーい!」
なずな 「お姉ちゃん、見て見て。なずな、大人っぽい? ねー、大人っぽい?」
奏 「あー、うん。そうだね。大人っぽいよ」
なずな 「ほんと! わーい、大人っぽい、大人っぽい、わっ! うわぁーん」
奏 「お母さーん! なずなが調子乗ってコケたー!」
彩乃 「ママ、アイスもらった! 食べていい?」
歩美 「え? お義母さん、すみません」
菊江 「いいえ」
彩乃 「おじいちゃん、開かない。開けて!」
詠一 「おー」
浩史 「アイアンかぁ。あー、いい当たり」
詠一 「おー。飛んだ飛んだ」
菊江 「じいさん、ゴルフ見るなら服着てからにしてっていつも言ってるでしょ! 浩史も、どうしてそんなとこばっか似たの!」
浩史 「安心してください。履いてますよ」
菊江 「何バカなことやってるの。着替えなさい!」
歩美 「すみません!」
詠一 「おー」
菊江 「おじいさん!」
はる 「もう走っちゃだめよ」
なずな 「うん。お姉ちゃん見て見て、バンソーコー。いいでしょ」
奏 「あー、よかったね」
なずな 「でしょでしょ! わーい! わっ! うわぁ~ん」
はる 「ああ、言ったそばからもー」
なずな 「うわーん、ごめんなさいぃ~」
祥子 「あー、飲みすぎた。頭ガンガンする」
美佳 「祥子さん、お水飲む?」
祥子 「ありがと、お願い。おっ、これまだ残ってる」
美佳 「祥子さん‥‥」

 雅人と奏、机を運ぼうとして手が重なるハプニング。

奏 「わっ! ごめん」
雅人 「いや。そっち持って」
奏 「うん」
祥子 「青春ねえ」
奏 「えっ」
歩美 「若いっていいなー。ほんっとうに」
浩史 「ごめん、もうパンイチでテレビ見ないから!」
歩美 「ネクタイ変だよ?」
浩史 「えっちょっと頼むよ」
歩美 「えー?」
菊江 「みなさん、準備は大丈夫? もうお坊さんいらっしゃるけど」
雅彦 「うちの三人は大丈夫です」
菊江 「そう」
はる 「わたしたちも、準備できてます」
菊江 「ええ、ありがとう」
はる 「兄さん、落ち着いて。ね」
雅彦 「ありがと」
歩美 「すみません! うちも大丈夫です!」
菊江 「じゃあ、そろそろお迎えに行ってきます」
雅彦 「あっ、じゃあ、おれも」
はる 「うん。いってらっしゃい」
浩史 「いってらっしゃい」
奏 「なずな、もう始まるからお姉ちゃんのそばにいな!」
なずな 「はーい。彩乃ちゃん、もう始まるからなずなのそばにいていいよ」
彩乃 「うん!」
奏 「はいはい。‥‥雅人」
美佳 「わかってるよね」

 間。
 奏、雅人に話しかけることなく席に着く。



第五場

 お経と木魚の音。間に漏れ聞こえる、誰かのすすり泣く声。

明慶 「今身より仏身に至るまでよく持ち奉る法華経本門寿量品の三大秘法事の一念三千是好良薬の 南無妙法蓮華経 南無妙法蓮華経 南無妙法蓮華経」

 明慶、一同に正対して礼。

明慶 「えー、皆さんは今日、一周忌だからと集まって来られたわけですが、実はその反対なんですね。みなさんが今生きているからこそ、香織さんの一周忌を迎えることができたわけです。そして、命というのは繋がっていて、人は一人で生きることはできません。香織さんが生きたお陰で、今皆さんが、今を生きているんですね。香織さんが遺していかれたものは、今ここに集まっておられる皆さん一人一人です。香織さんがくださったものを受け取って、死から、また次の生へと繋げていくのです。してあげる、ではなく、ありがとう、というのがご法事なんですね。それでは、今日こうして皆さんが集まることができて、お互いの元気な顔を見られたことに感謝することで、本日のご法事のお勤めとさせていただきましょう」
雅彦 「ありがとうございました」

 一同、頭を下げ、明慶を見送る。雅彦と菊江のみ、あとに続いて退場。
 残った者たち、一斉にため息。

彩乃 「ねー、もうおしまい?」
浩史 「まだもうちょっと」
彩乃 「えー、もう足痛い」
なずな 「なずなも」
祥子 「がまん、がまん。お姉ちゃんなんでしょ」
なずな 「うん。彩乃ちゃん、がまんだよ!」
彩乃 「えー」

 雅彦と菊江が戻ってくる。菊江は元の位置に座り、雅彦はみなの前に立つ。

浩史 「さ、おじさんが話すから」
彩乃 「うん」
雅彦 「えー、みなさん、今日はお忙しい中、香織の一周忌にお集まりくださり、ありがとうございました。香織もよろこんでると思います。今後も、どうぞ変わらず、よろしくお願いします」

 雅彦、礼。一同、礼。
 菊江の押し殺した泣き声が聞こえてくる。
 間。

浩史 「母さん」
彩乃 「パパ、おしまい?」
浩史 「あー。‥‥そうだよ」
彩乃 「やったー! おしまーい!」
はる 「ふたりとも静かだったね」
祥子 「ねー?」
浩史 「雅彦さん、ありがとうございました」
雅彦 「無事に終わってよかったです。ちゃんとできたか自信ないけど」
浩史 「大丈夫でしたよ」
詠一 「雅彦くん。ありがとう。今日の君を見て、香織も少しは安心しただろう」
雅彦 「ありがとうございます」
浩史 「お疲れ様でした」
詠一 「おまえも、もう泣くな」
菊江 「香織はまだ三十五だったのよ。どうしてこんなに早く。親の私たちより。‥‥お嫁にやらなければ」
浩史 「ちがうでしょ、母さん」
菊江 「こんな目に遭うことも、一人で死ぬことも」
浩史 「母さん!」

 間。

雅彦 「お義母さん。お義父さん。‥‥申し訳ありませんでした」
菊江 「今さら何よ。歩美さん」
歩美 「はい」
菊江 「香織をなくして、一番つらいのは雅彦さんですってね」
歩美 「それは」
浩史 「母さん、やめて」
菊江 「一番つらいのは」
浩史 「なあ!」
菊江 「あの子を一番愛してたのは、私よ!」
詠一 「おい。香織の前だぞ。よろこぶとでも思ったか」

 間。

詠一 「片付けなさい」
浩史 「うん」

 詠一、菊江、退場。

浩史 「ごめんなさい」
雅彦 「ああ、いや。大丈夫」
浩史 「わかってやってくれとは言わないんで、気にしないでください」
雅彦 「はい」
浩史 「片付けちゃいましょう」
祥子 「机持ってくるね」
浩史 「ありがとう」

 みなに混ざって、片付けを手伝う雅人。
 大人のいない間に、美佳がつっかかっていく。

美佳 「何考えてんの? 今どんな気持ち?」

 間。

美佳 「楽しい?」
雅人 「そんなわけねーだろ」
美佳 「じゃあどういうつもり? あんたほんとに、何がしたいの?」
雅彦 「おい美佳」
美佳 「お父さんは黙ってて! お父さんが何にも言わないから、雅人が調子に乗るんでしょ。私たちがお母さんに買い物を頼まなければ、お母さんは死ななかったのに」
雅彦 「それはちがう」
美佳 「全部私たちのせいなのに、なんで? お父さんから、おばあちゃんから、みんなからお母さんを奪ったのは、私たちなんだよ。ねえ、なんで、あんたはつらくないの? 何とも思わないの?」
雅人 「うるせえ」
美佳 「何?」
雅人 「うるせえって言ってんだよ!」
奏 「雅人」

 間。

雅人 「泣きたいに決まってんだろ! でも泣いたって、母さんは帰ってこねえだろーが!」
菊江 「ちょっと、雅人くん、落ち着いて」
雅人 「うるせーババア!」
菊江 「ばっ」
雅彦 「おまえ、お義母さんになんてこと」
雅人 「てめーもうるせーんだよ、クソジジイ!」
雅彦 「えっ」
雅人 「てめーこそ、何黙ってんだよ! 母さんのこと好きだったんじゃねーのかよ! 責められた方がずっとよかったよ。おれのせいで‥‥」
雅彦 「雅人、そうじゃない」

 雅人、走ってその場から逃げる。

雅彦 「あっ」
奏 「待って、雅人!」
祥子 「えっ、奏ちゃん!?」

 奏、雅人を追って走り出す。



第六場

 淡い夕焼けが辺りを照らしている。気がつかないくらい少しずつ、でもはっきりと、燃えるような濃い赤になり、やがて淡い青に変わっていく。
 蝉の音が遠ざかり、かすかに鳴いていた鈴虫が主役に交代する。
 雅人が無我夢中で走っていると、背中に、怒鳴り声とともに靴が飛んでくる。

奏 「待って!!!!」
雅人 「いって!」

 雅人、立ち止まり振り返る。奏、勝ち誇った笑みを浮かべて、片足跳びでやってくる。

奏 「へへへ」
雅人 「なんだよ」
奏 「キレてるとこ初めて見た」

 間。

奏 「小二の夏、覚えてる?」
雅人 「は?」
奏 「あー、忘れてんだ」
雅人 「何が」
奏 「うちのお父さん帰ってきて、雅人たち泊まりに来たじゃん」
雅人 「いつの話だよ」
奏 「だから小二」
雅人 「あー」
奏 「その前の日さあ、うちの猫が死んじゃったの」

 間。

奏 「私ほんとショックで。誰とも話せなくて」
雅人 「うん」
奏 「でも雅人、ずっと私といたよね」
雅人 「何それ。覚えてない」
奏 「ふーん。‥‥つまんなそうだった」
雅人 「えっ」
奏 「私が泣いてばっかで遊べないから、つまんなそうだった」
雅人 「ぜってーそんなんしてねえ」
奏 「覚えてないって言ったじゃん!」
雅人 「覚えてねーけど! しねーよ、たぶん!」
奏 「そうだったの! 絶対忘れないよ」
雅人 「だからちげーって」
奏 「つまんなそうだったけど、ずっと一緒にいてくれたの!」

 間。

奏 「雅人、優しいから」
雅人 「‥‥おれのせいなんだ。母さん死んだの」
奏 「ちがうよ」
雅人 「さっき聞いた? 買い物行って事故に遭って」
奏 「うん」
雅人 「おれのわがままだったんだ」
奏 「えっ」

 間。

奏 「そうじゃないよ。私たちがって言ってたよ、美佳さん。そんな風に思ってないよ」
雅人 「でもそうなんだ。頼まなきゃよかった、とか。でもそのうちふらっと帰ってくるんじゃないか、とか。想像すんの」

 間。

雅人 「鈴虫」
奏 「え?」
雅人 「聞こえない?」
奏 「リーンってやつ?」
雅人 「そう」
奏 「そのへんいるね」

 間。

奏 「お葬式からみんな、ちょっとずつおかしいよね。雅人黙ってるし、美佳さん怒ってるし」
雅人 「うん」
奏 「おじさんつらそうだし、お母さんもそれ見てつらそうだし。前はこんなんじゃなかった。もっと楽しかった。おばさんいないだけなのに。こんな大変なんて初めて知った」
雅人 「おれも。お葬式、初めてだったし」
奏 「家族なんだから、こういうとき支え合わなきゃだめじゃん」
雅人 「むりだろ」
奏 「なんで?」
雅人 「だって、何ができんだよ。悲しませて、心配かけてばっかりで」
奏 「‥‥雅人が生きて、笑ってるってだけで、おじさんや美佳さんにとっては、支えなんじゃないの?」
雅人 「え?」
奏 「だって家族だもん。おばさんだって、特別なことしてなかったと思うよ。毎日、一緒にごはん食べて眠るだけ。でもみんな支えられてた。パズルのピースみたいに、そこにあるだけで意味があるんじゃないのかな」

 間。

奏 「あ」
雅人 「何」
奏 「もう星出てる」
雅人 「ほんとだ」
奏 「いっぱい見えるね」
雅人 「そう? 奏、目いいね」
奏 「ううん、コンタクト」
雅人 「へー。あ、星多いの、あれだよ。天の川」
奏 「ああ。晴れたねえ」
雅人 「うん。会えそう」

 間。

奏 「やだな。泣いたって怒ったって、嫌いになったって離れないよ、でも笑ってたいよ。みんな笑っててほしいよ」
雅人 「今は、笑えないよ。ごめん」
奏 「謝んないで。ごめん、そんな顔させたかったわけじゃない。やっぱりこんなのいやだ。おばさんがいた頃みたいに戻れないのかな。雅人とも、昔みたいに戻りたい」

 間。

奏 「田舎は街灯少ないね。帰ろうよ」

 間。

奏 「みんな待ってるよ」
雅人 「ごめん」
奏 「べつに。七夕だしお祈りしとく。帰ろう?」
雅人 「うん」



第七場

 法事を行った和室は、昨夜と同じに片付けられている。ひとつだけちがうのは、大きな笹が飾られたこと。

雅彦 「立派ですね」
浩史 「うちの裏に生えるんですよ。田舎だからなー」
なずな 「お母さん。なずなの折り紙、あれ!」
はる 「うん。きれいだね」
彩乃 「彩乃のは? 彩乃のもある?」
はる 「あのピカピカのやつかな?」
彩乃 「あー! そう!」
なずな 「お母さんのことも、お星さまにお願いしてあげるね」
はる 「ありがとう」
なずな 「お父さんと、お姉ちゃんのことも書こっかな。ねー、お姉ちゃんまだ?」
はる 「うん」
なずな 「遅いねー」

 雅彦、うつむいている。

浩史 「大丈夫ですよ」
菊江 「歩美さん」
歩美 「はい」
菊江 「彩乃ちゃんのクレヨンが」
歩美 「あっ、すみません! 彩乃、紙からはみ出さないで!」
彩乃 「うん。ねえ、見てー」
歩美 「聞いてるの!?」
浩史 「歩美」
祥子 「わー、彩乃ちゃん上手」
はる 「これなぁに?」
彩乃 「あのね、これ、ママ」
歩美 「えっ」
はる 「すごーい。そっくり」
浩史 「パパも書いてほしいなー」
彩乃 「うん!」
はる 「歩美ちゃん、大丈夫?」
歩美 「すみません」

 間。

菊江 「ごはんの支度しちゃいましょうか」
はる 「あっ、はい」
祥子 「行こ。歩美ちゃん」
歩美 「はい」
浩史 「お嬢さん方、ごはんが来ますよ。机の上はどうするんだっけ?」
なずな 「お片付け!」
彩乃 「えー」
浩史 「すごい! 正解!」
なずな 「スーパーお姉ちゃんだもん。あ、それ、なずながやる!」
はる 「え? じゃあお願い」
彩乃 「わーい! ちらし寿司ー!」
なずな 「あっお母さん、見て見て、金平糖!」
はる 「あら、ほんと」
なずな 「お星さまみたーい」
彩乃 「なずなちゃんち、お星さま入ってないの? 彩乃いつもこれだよ」
なずな 「いいなー」
はる 「どうして金平糖が?」
浩史 「母さんがずっと」
菊江 「ちらし寿司はおじいさんの好物なんだけど、小さい頃は香織も浩史も嫌いでね。ちょっとした思いつきよ。七夕の日に、星みたいでしょって。そしたらまあ、お代わりまでしてくれちゃって。それ以来、うちはこうなの」
浩史 「よく釣れたもんだよ」
はる 「いいじゃない。かわいい」
浩史 「実際、味もそんなに悪くないですよ。おれ、毎年歩美に頼んで作ってもらってます」
奏 「ただいま」

 奏と雅人、居間に登場。

なずな・彩乃 「おかえりー!」
はる 「あっ、おかえり」
浩史 「おかえり」
雅彦 「雅人」
雅人 「ただいま」
詠一 「食うぞ」
菊江 「そうですね」

 雅人、笹を見て立ち尽くす。

なずな 「何してるの?」
雅人 「ううん」
奏 「雅人そこ座んなよ」
雅人 「うん。‥‥えっ」

 寿司桶の中を見て、雅人、言葉を失う。あの日、二人が望んだちらし寿司が目の前にある。二度と食べられないはずだった。

祥子 「そろそろいいかな?」
彩乃 「はーい!」
祥子 「はーい。じゃあ皆さん、せーので!」
一同 「いただきます」
詠一 「うん。うまい」
なずな 「あまーい!」
はる 「金平糖、おいしい?」
なずな 「おいしい! ねー、おうちでも入れて?」
彩乃 「おそろいだー!」
菊江 「‥‥雅人くん? 食べないの?」
雅彦 「あっ、すみません」
奏 「雅人。無理しないで」
はる 「雅人くん、大丈夫?」
なずな 「なずなが食べたげよっか?」
彩乃 「えー、ずるい! 彩乃も金平糖ほしい!」
浩史 「ふたりとも、静かに」

 雅人、おもむろに箸を手に取り、一口食べる。
 間。

奏 「雅人」
雅人 「母さん。ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさ‥‥うわああ」
美佳 「‥‥お母さん」
雅人 「ごめんなさい‥‥わがまま言ってごめんなさい、いってらっしゃいって、ちゃんと言わなくてごめんなさい‥‥」

 雅人、泣きじゃくる。

なずな 「なずなの金平糖、一個あげる」
雅人 「‥‥ありがとう。うわぁぁん‥‥」

 間。
 美佳、勢いよく立ち上がり、雅人の隣に座り直すと、ものすごい勢いでちらし寿司をかきこみ始める。

雅彦 「美佳、ちょっと」
はる 「美佳ちゃん?」
美佳 「あんたも」
雅人 「うん」

 ふたり、無言でちらし寿司を頬張る。どちらかの皿が空くと美佳がすかさず山盛りにし、雅人、泣きながら食べ続ける。

美佳 「雅人」
雅人 「うん」
美佳 「お母さんを、買い物に行かせたのは、私たちだよ。あんただけじゃない」
雅人 「ちげえよ」
美佳 「そうだよ! 私止めなかったもん!」

 間。

美佳 「だから、あんたが勝手に一人で抱えてるのが嫌だった。思ってることは言ってほしかった。つらいなら一緒に泣いてほしかった。でも、ごめん。私が怒ってたの、責めてるように見えた?」
雅人 「うん」
美佳 「だよね。ごめん」
雅人 「うん」

 間。

雅人 「父さんにも、嫌われたと思った。母さんを、死なせたから。二人ともおれに怒ってるんだって。当然だって。みんなを悲しませて、おれには、泣く資格なんかないって」
雅彦 「ちがう」
雅人 「わかってる。ありがとう。姉ちゃんも、ありがとう」

 美佳、声をあげて泣く。

はる 「兄さん」

 はるに促され、雅彦は雅人に寄り添う。はる、美佳を抱きしめる。

はる 「美佳ちゃん。あなたもつらかったね」
美佳 「うわぁぁん‥‥」
はる 「うん。うん」

 間。

雅人 「おばあちゃん。おれたちだから。父さんに、怒らないで」
菊江 「えっ‥‥」
雅人 「母さん、真似してたよ。おれ‥‥たちが、母さんに頼んで。母さん、買い物行って。それで」

 間。

雅人 「おれたち、これが、食べたくて」

 雅人、美佳、泣く。

雅彦 「雅人、ごめんな。一人にしてごめん」

 雅人、首を振る。

雅彦 「一緒にいるから。一緒に受け止めよう」
浩史 「うん。みんな姉さんの家族なんだから」
詠一 「よろこびは倍に、悲しみは半分に、どんなときも共にあるのが家族だ。香織もその一員であるからには絶対に、おまえたちを責めない。おまえたちが泣けば泣くし、笑えば笑う。そういう子だろう」
雅彦 「そうですね」
奏 「うん。たくさん泣いたら、また笑顔でいようよ。安心してもらうために」
はる 「そうね」
詠一 「雅人。よくがんばったな」
雅人 「ありがとう」
詠一 「おい」
菊江 「えっ、はい」
詠一 「二人にちらし寿司を届けられて、今頃ほっとしてるさ。おまえも楽になれ」

 間。

菊江 「今までごめんね。雅彦さん」
雅彦 「そんな」
菊江 「私、ちっとも受け入れられてなかった。最期にそばにいられなかったのが悔しくて、雅彦さんに当たって、ごめんなさい」
雅彦 「いえ。申し訳なかったと、思ってます」
菊江 「あなたのせいじゃないわ。それに、あなたたちがいるもの。歩美さんも。あなたも私の娘なのに。ごめんなさい」
歩美 「そんな。気にしないでください。つらいのはみんな一緒ですから」
菊江 「ありがとう」

 美佳、笑う。

雅人 「なんだよ、姉ちゃん。気持ちわりーな」
美佳 「はあ? いいでしょべつに。あんた、久しぶりにしゃべったと思ったら口悪くない?」
雅人 「うるせーな。余計なお世話」
美佳 「何よ、人がせっかく」
雅人 「姉ちゃんはいつも一言多いんだよ!」
美佳 「あんたは言葉が足りないのよ!」
祥子 「あんたたち、ほんと仲いいわねー」
雅人・美佳 「どこが!」
雅彦 「ははは」

 雅人、美佳も笑い出す。

祥子 「一件落着ね。よーし、そうと決まれば今夜はしこたま飲むぞー! 浩史、付き合いな」
浩史 「えっ、今日も!?」
祥子 「飲む理由があるなら飲む! ないなら理由を作って飲む! そういうもんでしょ? 今夜は七夕なんだから!」
浩史 「いやー、勘弁してください」
詠一 「今日はおれも飲むかなあ」
菊江 「ほどほどにしてくださいね。年なんですから」
詠一 「短冊に健康でも祈っておけばいいさ」
祥子 「おじちゃん! それだわ!」
菊江 「まったく」
浩史 「ははは」
なずな 「ねえ、お姉ちゃんも短冊書こうよ」
奏 「わたしは‥‥いいよ。もう叶っちゃったんだ。ね」
雅人 「あー、うん」
なずな 「いいなー! なずなはねえ、スーパーお姉ちゃんになって、お父さんとお母さんとお姉ちゃんを守れますようにって書いた!」
奏 「何それ。ありがと。じゃあ私、ウルトラミラクルお姉ちゃんになって、スーパーお姉ちゃんを守れますようにって書こうかな」
なずな 「えっ、だめだよ! じゃあじゃあ、なずなは、ウルトラ、スペシャル、スーパー‥‥」
彩乃 「ママ、見て!」
歩美 「どれどれ? キュアフローラになれますように。ママは、キュアマーメイドになれますように?」
なずな 「彩乃ちゃんプリキュア? いいな、なずなもプリキュアにしようかな」
彩乃 「キュアお姉ちゃん? かっこいい!」
なずな 「ほんと? あとね、ラブライバーにもなりたい!」
彩乃 「なにそれ?」
なずな 「なんかすごいんだって」
奏 「私はにこにー推しだよ! まあ強いて言うなら3年生推し? でもチュンチュンもかわいいよね!」

 間。

奏 「あ、なんでも」
雅人 「ラブライバー、こえー」
奏 「何!?」
雅人 「なんでも」

 家族の賑やかな声。

雅人 「奏、今楽しい?」
奏 「楽しいよ」
雅人 「そっか。‥‥願い事ってさ、天の川まで届くんだよね」
奏 「そうだね。なんで?」
雅人 「いや」
雅彦 「どうした?」
はる 「ん? 何?」
雅人 「なんでもない」
美佳 「はっきり言いなよ」
雅人 「ついでに、母さんにも届くかなって」
祥子 「やだ雅人くん、ロマンチック~!」
浩史 「えー、でもそれまずいよね?」
歩美 「なんで?」
浩史 「おれ、ちょっと真面目に書いちゃったもん。姉さんに見られんの恥ずかしい」
祥子 「何それ、どこに飾った?」
浩史 「やめて、探さないで!」
祥子 「人に見られて困るようなこと願うなって」
浩史 「そりゃ祥子ちゃんはいいよ、年がら年中酒が飲めますようにーだもん!」
祥子 「あはは! 止められちゃうかな」
雅彦 「どうでしょう。ほどほどにって言いながら、笑って見てるんじゃないですかね」
菊江 「あの子ならきっとそうね」
はる 「香織さんのいるところまで、届くといいね」
奏 「まあ書いてみたら?」
雅彦 「何でも聞いてくれるよ。きっと」
雅人 「うん」
美佳 「ねえお父さん。帰ったら、ちらし寿司お供えしようよ。やっぱり四人で食べたいから」
雅彦 「そうしよう。ありがとう。父さん、酢飯扇ぐよ」
美佳 「ありがと。おばあちゃん、あとで作り方教えて」
菊江 「ええ。いいわよ」

 雅人、書き終えた短冊を見つめている。

奏 「なんて書いたの?」
なずな 「知りたーい!」
はる 「おばさんも聞きたいなあ」
彩乃 「なになに?」
菊江 「こら、みなさん。無理して言わなくていいわよ」
雅彦 「そうだぞ」
雅人 「うん‥‥」
奏 「いーじゃん、ほら貸して!」
雅人 「あ、ちょっと!」
美佳 「奏ちゃん読んで!」
奏 「はい! 母さんへ。十三年間、ありがとう。母さんがいなくてすごくさびしいけど、母さんのことをたくさん覚えてるみんなと、支え合っていくから心配しないでください。家族全員、笑顔でいられますように。母さんが、安らかに眠りますように」
浩史 「おー」
祥子 「いいこと書くねえ」
奏 「届くといいね」
雅彦 「叶うよ。きっと」
雅人 「うん」
なずな 「それも飾ろうよ!」
奏 「そうだね」

 雅人と奏、笹に近寄って見上げる。なずなと彩乃が歌い出す。

なずな・彩乃 「さーさーのーはーさーらさらー」

 大人たちの声が混ざっていく。

はる・歩美 「のーきーばーにーゆーれーるー」
美佳・祥子 「おーほしさーまーきーらきらー」
浩史・菊江 「きーんーぎーんーすーなーごー」

 奏、雅人の隣で誘うように歌い出す。
 雅人も歌い出す。それを見て雅彦も歌い出す。
 詠一、歌声に聞き入りながら酒を煽る。

みんなで 「ごしきのたんざく
      わたしがかいた
      おほしさまきらきら
      そらからみてる」






画像2

久瀬雅人 ‥‥ サル
久瀬美佳 ‥‥ さくら
久瀬雅彦 ‥‥ 源
久瀬香織 ‥‥ ツクシ

岸辺詠一 ‥‥ ジョニー
岸辺菊江 ‥‥ やなせ

羽鳥はる ‥‥ 楓
羽鳥奏 ‥‥ 廉
羽鳥なずな ‥‥ ヒナ

岸辺浩史 ‥‥ オーキド
岸辺歩美 ‥‥ キャノン
岸辺彩乃 ‥‥ いろは

竹中祥子 ‥‥ 茄子

明慶 ‥‥ 虹雄


脚本・演出  あさぎ
舞台監督  ヒナ

音響チーフ  わかば
照明チーフ  藤
衣装チーフ  いちか
舞台美術チーフ  ツクシ


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