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出張続きだった福岡勤務当時のスリリングな思い出話

10年くらい前、50代になった頃、地方銀行の福岡市内の支店にいた時の話です。当時、事業性の貸出資金需要が細る中で一般の住宅ローンの金利競争も激しいため、打開策として小口分散できて、適正金利も取れる投資用ワンルームマンション向けの融資を強化して軌道に乗った頃でした。

日本国内で最も人口が増加し続けている政令指定都市として、2045年までの予測でもダントツの福岡市。中心部の天神や博多駅から福岡空港まで地下鉄で10〜20分とアクセスも良く、元々支店経済都市であり、賃料も比較的安く、飲食コストも低い。都市機能はコンパクトにまとまっており、海も山も近く自然も豊富で、若年人口、特に若い女性の比率が高く、人口比の美容院数は日本一。地下鉄沿線の単身赴任者や独身者向けのワンルームマンションの入居率は当時ほぼ100%で新築すれば完成前に完売する状況でした。購入するのは全国各地の投資家で、将来の年金不安解消目的で若年層のオーナーも多くいました。

投資用マンションを手掛ける多くの不動産業者の中で健全性から選別した優良業者の販売する物件の資金提供をするのがその頃の主要業務でした。軌道に乗るとともに案件が激増し、担当者だけでは間に合わないため役席者を含めて支店人員総出で対応に当たりました。シェアハウス向け不正融資で問題となった某S銀行のような書類改竄は論外で厳密な審査を行い、過剰融資とならないように抑制もしました。特に、融資承認後の契約は相手が全国各地に点在するため当然来店できず、先方の指定する場所に出向いて行うのが殆どでした。不動産業者が立ち会う場合もありますが、業者とは現地で落ち合い、契約後はその場で解散し、癒着などのリスク回避に努めました。

多忙な相手に合わせるため、契約開始時間が22時からとか、今考えるととんでもない労働状況でしたが、当時は案件をこなすのが精一杯で、そのこと自体を負担に感じることはありませんでした。一度に複数物件を購入する投資家も多く、契約時間は1〜2時間に及びます。初対面で殆どの場合二度と会うことはない、遠方でのその場限りの契約なので、間違いがあったら絶対に取り返しがつかないので非常に神経を使いました。ただでさえ忙しい相手にたくさん記入してもらうので、相手によってはイラついたり、こちらが書類の見直しをする間に退出しようとする場合もあります。膨大な量の契約書類は念入りに準備して、初めて行く場所なので相当の時間的余裕を持って向かいますが、急に場所が変更となることもあり、あたふたしたことが何度もあります。

今はコロナで状況が違いますが、福岡空港は超過密ダイヤで滑走路上での渋滞も多く、到着遅延は毎度のこと。悪天候で欠航となる可能性など準備は念には念を入れる必要がありました。契約場所の指定は業者から通知が来ますが、交通手段や宿泊の予約は全て自分たちで行います。限られた選択肢の中でいかに安く上げるか、忙しい中でもベストチョイスの予約が取れると満足感がありました。現地までのルートはスマホアプリ頼みですが、高層ビル内だったりすると位置情報が上手く取得できずに迷ったことも何度もありました。殆どの場合、喫茶店やファミレスが指定場所となります。他のお客さんからなるべく見えないように、コップを倒したりしないように、記入後の書類に抜けがないように、忘れ物がないように…。念には念を入れて。

一度の出張で契約する相手はひとりとは限りません。なるべく効率良くするため、何箇所も回って複数回の契約をする場合もあります。名古屋で深夜に契約して翌日は新潟で契約し、その夜に大阪で契約したこともあります。新潟空港が濃霧で出航が危ぶまれ、飛ばない場合は別のスタッフが福岡から大阪に向かう手筈を整えた上で待機してギリギリ飛んで間に合ったのですが、大阪の投資家が契約時間を大幅に遅らせてきたので最終の新幹線に間に合わず、その夜はどこのホテルも満室(嵐のライブと大規模な学会があった!)のため、やむを得ず重要書類を抱えてネカフェで眠れぬ夜を過ごし始発で戻ったのを覚えています。

別のスタッフのケースですが、那覇の翌日が札幌ということもあり寒暖差の対策も必要でした。都市部ばかりではなく、レンタカーで山の中の農家に向かったり、対馬の漁港で契約したこともあります。地方に行くと交通ダイヤの関係で空白の時間も多くなり、空き時間でプチ観光も楽しめました。契約後に地元のおいしいものを食べるのが、心安らぐ至福の時でした。都市部の契約で翌日が休みの時は契約後にライブ鑑賞できたこともあります。今はコロナで状況が違いますが、自宅の最寄りの北九州空港は海上空港で長時間運用が強みなので、北九州からの始発は早朝5時半出発、羽田からの最終は23時出発と機動性が高く、羽田を起点としたかなり広範囲のエリアで日帰り出張も可能でした。

銀行を退職してもう5年経つので今はどうなっているのか良くわかりませんが、コロナ禍とはいえ金銭消費貸借契約をオンラインや郵送で行うのはリスクもあるけどどうなんだろう?交通ダイヤも間引かれてるし、対面での長時間の契約はやっぱり相当リスクが高いから、あの頃のように出張先での契約も難しいだろうな。コロナのなかった頃の思い出話でした。おわり。

#出張の思い出
#私の仕事


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