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モンテ・クリスト伯感想 28

※ネタバレ含みます。


勝利


場面は変わりダングラールとモンテ・クリスト伯。


何故かこの二人のやり取りはユーモアを感じさせる。モルセール、ヴィルフォールとは異なるダングラールの滑稽さ。


伯爵は巧みにダングラールの自尊心や見栄を煽り、思い通りの行動をとらせる。

そして、この場面の仕草が象徴的だ。

ダングラールが手形を切る間、じっと天井の金細工を眺めて待つ伯爵。


この場面で目に浮かぶのは、ソファーに姿勢良くかけて足を組み、悠々として天井を眺める伯爵。
つまり、顔を上げている伯爵の姿。

圧倒的勝利の姿だ。

一方煽られたダングラールは、自分の力量を示さんが為、必死に鷲ペンを走らせている。

つまり、下を向き敗北を示している。


この構図、漫画化すれば絵になる。


かつて、ダンテスは船長に、その会計係にはダングラールが決定していた。

その本来の主従の姿が、奇しくもこの瞬間に再現されている。

過去のダングラールは嫉妬のあまりダンテスを牢獄へ送った。

しかし、長き時を経てダンテスは、その奪われた地位を取り戻したのだ。

この僅か数行の描写。

ダンテスにとって長らく待ち焦がれた瞬間だ。

そしてこの後に起こる全てを予測した余裕。

ダングラールは精一杯の見栄である、支払い手形を伯爵に渡す。

そして、帰る伯爵と入れ違いに訪問するボヴィル。支払いの請求に来たのだ。

あれほど本心を見せない伯爵が、ボヴィルとすれ違い様に微笑を見せる。


あれほど用心深く、あれほど無表情で、復讐の駒を進めてきた伯爵が、人間らしい感情を見せた。

エデの存在が伯爵を変えて行く。よみがえりつつある伯爵の変化だ。

走り去る馬車。

ダングラール「男爵」の終焉。


絶望と希望


私の心を躍動させるもの。

善人と呼ばれる人間の存在、振舞い、言葉、表情。

私の心を満たすデュマの物語。


「モンテ・クリスト伯」に描かれる、

ファリア司祭の叡智、

モレル氏の清廉潔白、

マクシミリアンの勇気と誠実。

そして、それらの美しい人々を互いに結びつける、
「恩」という感情。

この冷たく残酷な世界で、ただ一つの灯火。

人間を人間足らしめる感情。


愛するヴァランティーヌを失ったマクシミリアン。

伯爵は、彼の自殺を警戒しつつ見守る。

平静を装いながら自宅の部屋へと戻る彼を追って、マクシミリアンの家を訪ねた伯爵。

危険を感じた伯爵は、閉じられた部屋のドアガラスを肘で打ち破る。


案の定テーブルの上にはピストル。
そして、遺書。


この機転。


深い悲しみや絶望にある人を、決して一人にしてはいけない。

平静を装うほど危険だ。

誰にも気づかれず、誰にも邪魔されないように目的を遂行しようとする。

一瞬の油断が取り返しのつかない結末を招く場合もある。

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モンテ・クリスト伯の感想です。 1巻から7巻まで、感想と個人的な思索をまとめました。

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