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モンテ・クリスト伯感想 24

※ネタバレ含みます。

マルセイユの庭

真実を知ったアルベールが父を捨て家を出ることを察した伯爵は、当座の資金を用意する。

しかし、アルベールの性格から受取ることはないだろうと考えた伯爵は、その決断をメルセデスに委ねる。

伯爵からの手紙に綴られた過去。
メルセデスのために用意された婚資が、今もマルセイユの小さな庭に埋められていること。
母を守りたいアルベールと、息子を思う母。
互いを思いやる心に訴え、もしそれを受け取る事を拒むなら狭量だと揶揄する。
アルベールとメルセデスを知り尽くした伯爵ならではの言い回しだ。

メルセデスは、天を仰いで受け取ることをアルベールに告げる。

もし、若きメルセデスがフェルナンを拒み、たった一人の人生を選んでいたとしたら。
おそらく伯爵はメルセデスを選んだだろうと思う。

月日がたち年老いたヒロインを選ぶというのは、物語としてはつまらないかもしれない。

しかし、この流れを読む限り伯爵のメルセデスに対する愛情は本物だった。

現にメルセデスの哀願を聞き入れ、アルベールの銃弾に倒れる事を選んだのだから。
「死」という決意。

もし、メルセデスの告白に納得せず、アルベールが決闘を実行していたら、モンテ・クリスト伯はメルセデスへの愛に死んだ事になる。

このくだりはデュマによって考え抜かれた構成だと思う。
この決闘に関連する出来事が、伯爵の中でメルセデスへの想いに1つの結論を与えた。

愛する人のために伯爵が死を選んだ時、メルセデスはその覚悟と愛を理解できなかった。

メルセデスは息子の命が助かる事に狂喜し、また、自分の告白によって伯爵の命も助かると予測していた。メルセデスは、それで満足してしまった。母として満足し、元恋人として満足したのだ。

走り去る馬車の音。鳴り響く鐘の音。

命懸けの伯爵の愛は、理解されなかったのだ。真に愛されてはいなかった。

この時、伯爵は目覚めた。

メルセデスを愛し続けていた過去のダンテスは死に、エデを愛する現在を生きるモンテ・クリスト伯が生まれたのだ。

明暗。

伯爵の無事を知り、喜びに顔を輝かせるエデ。
静かな胸の高鳴りを感じる伯爵。
見つめ合う二人の元に、モルセール伯爵の到着を告げる声が響く。

平静を装い客間へ通すように答えながら、伯爵は死者から生者として蘇生した幸福を噛みしめる。

復讐の為に、目をそらし続けて来た幸福な人生。

自らに禁じてきた、人を愛するという感情。失ったと思われた幸福は、知らぬ間に隣に寄り添っていたのだ。

緩やかに進む雪解けの時。


その穏やかな空間に、文字通り土足で踏み込むモルセール。

獣が吠えるが如く、伯爵に決闘を挑む。
二人の言葉による応酬。

「本名を名乗れ」との言葉に、伯爵はその素性を明らかにする。


フェルナンは目の前に立つダンテスの存在、そのただ一つの事実に打ちのめされた。
自らの罪に押し潰され、息も絶え絶えに馬車へ駆け戻る。

たどりついた自分の邸では、妻と息子が家を出ようとしている。

姿を隠すフェルナン。

最後に一目見ようと窓へすがり付くも、振り向きもせず出ていく二人を見送る事になる。

ダンテスから奪い取ったものを全て失った。

それは、モンテ・クリスト伯の策略ではない。

全てが自らの恥ずべき行為による報いだった。

ただ事実が明らかになった。それだけの事なのだ。

一発の銃声。

決闘で鳴り響くはずだった銃声が、フェルナンの命を絶った。

残るは、あと二人。

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モンテ・クリスト伯の感想です。 1巻から7巻まで、感想と個人的な思索をまとめました。

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