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【リレー小説】トロッコ問題 2


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1話目はこちらです。


 土曜日の電車は素敵だ。大きな窓から、まだからりとした陽がさしていて、乗っているひとたちもうきうきしているみたい。
 何をする気にもならなくて、ただ車窓を流れる空と雲を眺める。飛行機が遠くで、昼の流れ星みたいに飛んでいる。こんなに素敵な景色なのに、やっぱり頭は別のことを考えてしまう。詩織ちゃん。
 いつもひとりで本を読んでいて、教室ではめったに喋らない。瑠香たち曰く、陰キャでぼっちだから成績が良いんだって。変な理屈だ。瑠香たちには自分たちの取り巻きじゃない人たちには何をしても、何を言ってもいいと思ってる節がある。
 でも、私は知ってる。詩織ちゃんは、喋らせたら結構面白いんだ。意外とハードロックが好きだったり、飛行機とか戦闘機とかに詳しかったりする。大人っぽい雰囲気とのギャップが面白いよね。そうかと思えば、服装にはまったく無頓着で、パジャマみたいなださいセットアップを平気で着て遊びに来たりするから、その時は即刻服屋に引っ張り込んで服を買わせたっけ。私なんかよりよっぽど頭もいいのに、むしろ謙虚すぎてこっちが恐縮するくらい腰が低くて、ありがとうとか、ごめんねとか、ちゃんと目を見て丁寧に言う、そんな人。
 いつもは別々のプラットフォームに上がる前にまた来週って言って別れるのに、今日は何も言わずに帰っちゃったな。
 先週、瑠香に呼び出されて、詩織ちゃんと仲良くするならもう私とは口きかないって言われた。なにそれ。どうして私の友達関係と瑠香が関係あるの?と思ったままを言ったら、瑠香は顔を歪めて立ち去ってしまった。で、その後から、何故か私は瑠香に酷いことを言って泣かせた犯人ということになっていた。
 瑠香の取り巻きからSNSのアカウントをブロックされたり、私についてあることないこと書き込まれたり、見ていると気持ち悪くなったからもうアプリごと削除してしまった。学校でも綺麗に無視された。へええ、どうやら私、木崎彩葉はいじめられているようだ。
 椅子に画鋲まかれたりとか、殴られたり蹴られたり、そういう実害のあることは一切なかった。だから自分では気になっていないつもりだったんだけど。昨日トイレでちょっと泣いていたら詩織ちゃんが入ってきて、全部を説明しなければならなくなった。彼女は一部始終聞くと、顔色を変えて怒った。「どうして言ってくれなかったの!」
 それからぼそりと呟いた、「それ、全部私のせいじゃん」
 そして、ひとりでどこかへ立ち去ってしまった。
 ねえなんで、あなたはなんでも自分のせいにするんだろう。今日だって一日中、私は詩織ちゃんのあとを追い回すみたいにして、あなたのせいじゃないって言おうとしたのに、すごく迷惑そうにするから気が引けてしまった。それから、本当のこと言うとさ、なんかいろいろ、面倒臭くなってしまったんだ。どうして私だけが、子供っぽい意地っ張りたちの為に苦しんで、頑張らないといけないわけ?
 でも今こうして、何も言わずに別れて電車に乗っていると、やっぱり寂しいと思う。また来週、って言いたかったな。
 あと一週間で、学校が終わる。
 電車を降りて、てけてけ歩いて家へ帰る。考えてみれば、詩織ちゃんも瑠香たちに、こんな目に遭わされていたのかな。無視されて、陰口言われて。彼女がよく「耐える」という言葉を使っていたのを思い出す。学校は彼女にとっては、耐えるべき場所だったのだ。ずっと。
 私は祈る。私があなたと一緒にいて楽しいように、あなたも私と一緒にいて楽しかったらいいな。

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