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花壇

   花壇


「最後になりましたが、
一つだけ

言っておきたいことがあります」
「何ですか」

先生は歩き庭を見つめると鐘が鳴る。
「結局私は、

君たちに
何かを

教えられたのだろうかと思います」
「教科書の他に、

私に教えられるものがあるならばと
日々考えていたけれど、

君たちに教わるばっかりで」
「いいえ。僕たちの先生です」

「有り難う」
「先生は、好きな人はいますか」

「はい。います」
「どんな人ですか」

「照れ屋です」
「屋上で告白しましたか」

「魚屋さんの前でした」
「鳥は羽ばたいていましたか」

「陽炎が見えました」
「夏」

「はい。夏の終わりでした」
「一刻も早く、

好きと言いたかったのですか」
「数分の間がありました」

「ちゅうちょですか」
「不安でした」

「どんな所に出掛けるのですか」
「釣りに行ったことがあります」

「湖ですか」
「ぽちゃんぽちゃんと、

湖畔から音がしたので、
少し風があったと思います」

「いつから好きになりますか」
「いつからでしょう」

「どんな時にわかりますか」
「鐘の音。鳥の羽ばたき。陽炎。

夏の終わりかな」
「今朝、花壇を見たかい」

「新しい花が咲いていました」
「湖畔。花」

「昨日の放課後、
そろそろ咲く頃かなと思っていたんだ」

「鐘が鳴る前、
お庭の花を見ていたのですね」

「風」
「いつだって先生はすぐに照れます」

「私は威厳がないですね」
「僕たちの先生だ」

「いいえ
先生は君たちに教えて貰うばっかりで、

何も教えられなかった。
ほらっ電車が行くよ」

みんなは窓の外を見る。その時、
花壇を見ている生徒たちがいました。

「先生、きれいだね」
「うん。とてもきれいだ」

「さあ、もうお別れだ」
「寂しい」

「寂しくなんかない」
「君たちはこれから、

多くのことに触れ、学びに行くんだ」
「いつか先生も、

先生になれたと言えますか」
「もちろん。

それに向かって
これからも進んでいきます」

「僕たちを忘れないで下さい」
「じゃあ時々、顔を見せてくれよ」

「かならず来ます」
「みんな、

そのように言うけれど
来てくれやしないよ」

「いいえ。あの電車に乗ってきます」
「いじわるを言ってごめんね。

いいんだいいんだ焦らないで」
「いつか、美味しいお店に並んだり、

野球場の入り口で並んでいるときに、
今までどんな先生に

出会えたかなあと
思い出してくれたら嬉しい」

「少しは、
並ぶ疲れを忘れられるだろう」。

良い文章を作れるように、 作るために、 大切に使わせて頂きたいと思います。