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舞台「女王虐殺」感想

舞台「女王虐殺」を観劇したので感想です。当方、女王ステシリーズは初観劇で、過去作は完全にミリしらです。


※以下ネタバレ全開。
アーカイブ勢でネタバレ気になる人は注意ね。







<全体を通して>

まずなによりも…

重い…


圧倒的に…


重いっ…!!

「誰も救われない、誰も報われない物語」というキャッチコピーに一切の誇張がなく、何しろ救いがないし基本的に悲惨。
1940年代のドイツがヨーロッパ各地に侵略する時代のお話というのもあってバタバタ人が殺されるし、主要なキャラも9割は死ぬ。しかも死に方がかなり惨い。途中の数少ない日常パートがとても明るくて楽しい分、終盤からクライマックスの悲惨さの落差が本当にしんどい。

でも、暗くて後味悪いだけかというと決してそうではなく、主人公のアンの凄惨な過去の体験と不死だからこその苦しみといった影の部分からのマルゴットたちとの交流の中で人としての心を取り戻していく過程や、学生たちの迫害されていつ死ぬかわからないような辛くて苦しい生活の中でも懸命に明日を夢見て生きる強さ、虐殺部隊のわかりやすいくらい殺りたい放題に悪役をやってるその立場だからこその正義や矜持だったりと、人が生きる意義や、懸命に生きるからこそ見せる輝きや強さが作品を通して凄く伝わってきた。
「人が生きるとは何か」といったところはメインテーマだったのかなとは思ったし、そのあたりは割と自分の人生観というか人生哲学にも近しい部分があったので、全編通してぶっ刺さるところはとても多かった。

それはそれとして別の世界線でみんな幸せになって。まじで。ほんと誰も報われないので。

また、ストーリー構成は割と過不足なくコンパクトにまとまってて、舞台ではあるんだけどどこか映画っぽい感じもあって、映像で思い返せるような印象も受けた、という意味では(ストーリーの重さは別として)結構見やすかった。

演出面は基本的にはシンプルなんだけど、道具の使い方を工夫することで各シーンの場面描写だったり臨場感をわかりやすく見せていたのが印象的。特に4台のカーテン付き台車で色々なシーンを表現する演出はすごく上手いと思った。壁にもなるし、建物にもなるし、寝床にもなるし、列車にもなるし、めちゃくちゃ万能。
そういえば子供の頃に学芸会でちゃっちいながら色んな道具使って色んなシーンを作ってたなと思い出したりして、ああいうのの延長というかワープ進化と考えると案外子供の頃のそういう経験もバカにできないなぁなんて思ったりもした。

最近舞台を見始めた身としては、音響や照明、舞台装置の使い方次第で色々なシーンを表現できるのを観れて学びになったし、 舞台とは総合芸術ということの意味について、少しだけど理解度を増やせた。こういう発見は今後も大事にしていきたい。

<個別に印象に残ったこと>

〇アン

冒頭から殺しまくるし、殺す相手の死に際の言葉を聞きたいとか言うし、切った腕でもぐもぐタイムするし、初見は主人公なのにかなりのヤベーやつという印象。実は半生がだいぶ苦労人で、過去作観てないから詳しくはわからないけど、そこに至るまでの壮絶な過去が回想でわかった。

そしてなにより演者の星守さんの演技の幅がすごい。他作品で何度か舞台を拝見したことはあるし、どちらかというと声優さんの方のイメージが強いんだけど、めちゃくちゃいい意味で印象変わった。アンは色々と業を背負ったキャラでクール一辺倒ってわけじゃないところを、ストーリー展開の中で随所で見せるキャラの奥深さを感じられた。

まず、場面ごとで色んな表情を見せるところに凄く引き込まれた。冒頭は冷酷な殺人マシーンというところから、劇場への襲撃でキティーを殺してからの、マルゴットたちとの交流を経て、人の心を取り戻す過程でちょっとづつ柔らかくなるのが違和感なく進んでいってた。
特に回想シーンのお姫様時代のテンションがちゃんと可憐なお姫様だったので冒頭とノリが540度くらい違うけど、「あの子がこんなんなっちゃったんだね…(真顔)」っていうのはちゃんと見えた。都落ちしての潜伏サバイバルからの悪魔召喚の拷問に不死化の呪いの中で絶望と恨みつらみを持って400年も生きてりゃ心壊れるわ。
それゆえに、終盤次々とゾンビ化する仲間たちを苦悶しながら葬ってからの、クライマックスでマルゴットが身代わりになるシーンの「マルゴットオオオオオ!!!」の叫びは辛いし、最後には運命に裏切られて再度闇堕ちするアンの絶望が伝わってきて、この上げて落とすと展開はもう観ててしんどかった。

また、アクションはキレッキレでめちゃ動き回るから、漆黒の衣装も相まってカッコよかった。銃も使うけど基本ナイフのクロスレンジだから迫力がある。特にゼプツェンとのタイマンやクライマックスの無双シーンはよくあんだけ動けるなと感心しました。
あと、お姫様時代のナイフの下手な振り方が地味にちゃんと下手で、そういうところも上手いなと思いました。わざと下手に演じるのって意外と難しいからね。

〇マルゴット

キャラ的に一番刺さったのがマルゴット。劇中では終始苦労人で、冒頭から劇場で殺されかけるところから始まって、運が悪いんだかいいんだかな感じで状況に振り回される。
戦闘区域内で妹とはぐれて逃げ回るわ、最初は武器を手に取ることすらためらっていたのに、生きるために仲間や妹を守るためにクラスメイトを銃で撃つわ、中盤ゼプツェンに打たれて死にかけた挙句、アンにガッとやってチュッて吸われて人間やめるわで、中々に壮絶。人生の変わり方急すぎてしんどいのよ。

そんな過酷な状況の中でも、本来の真面目で優しい性格は変わることないし、いつ死ぬかわからない状況の中でも明日を生きることに前向きなところは彼女の強さなのかもしれない。だからこそ、生きる苦しみを背負ったアンの凍った心も溶かすことができたという意味では、作中では間違いなくキーになるキャラ。
結局は最後やられるんだけど、不死になっちゃったしアン含めこれからどうなるのか…みたいな妄想は捗るよね。続きあるのかはわからんけど。

また、演者の白石さんの演技がとてもマルゴットの心理描写を表現していてたのが印象に残った。場面ごとにセリフや表情の一つひとつからマルゴットがこう感じてる、こう考えてるんだなというのが伝わってきた。
特に、アンに出会い生きることへの願望を見せるところは、物語のテーマとも重なってて象徴的で、死ねない苦しみや人間をやめることをそれなりに受け入れてるところは、「一瞬でも長く生きたい」というセリフを体現していたと感じた。

〇メリッサ

重いお話だからこそ、メリッサの明るい性格が結構救いになっていて、能天気というか天然なキャラでお笑いシーンも多くて、作中屈指のムードメーカー。マーケットのシーンでは初対面なのにめっちゃアンに絡んで嫌な顔されたりきつめの対応されたりして、ついには逆ギレするところとか年相応な娘っ子で好き。
こういう明るい子だからこそ、終盤ゾンビに噛まれて感染するところの展開が観てて辛かった。もう助からないという絶望しかないんよねあのシーン。

このあたりのメリッサの悲喜こもごもを演者の山﨑さんの表情やセリフからだけでなく、動きや雰囲気含めて全身から伝わってきた。他作品でもそういうところは感じるので、とても舞台映えする役者さんだと思います。

〇エイト

個人的にエイトのキャラが結構好きで、ああいうちょっとタガの外れた癖の強いキャラはいいよね。

マルゴットたちとは違うグループでちょっと不良っぽい感じ。中々いい性格してて、平気で他人を騙すし、必要なら敵だろうが友達だろうが弾除けにするし、引き金を引くこともやむなしで、やる事なす事が全体的に結構あくどい。けど、その割には個人的には憎めないキャラだった。
というのも、いつ殺されるかわからない状況で、彼女なりにどう生き残るかということを徹頭徹尾貫いていた結果があのあくどさで、そこには筋が通ってる。それが彼女なりの生き残る術。途中の日替わりギャグシーンでキツさが中和されるのもあった。

とはいえ、結局は人体実験の被験者に選ばれて最初にゾンビ化するのは因果応報だし、ろくな死に方しないのも必然とも思う。

あと、演者の千歳さんのゾンビ化した時の演技がリアルの化け物で迫力ヤバかった。人が人じゃなくなるあの瞬間の不気味さをすごい感じた。特に最後アンに殺された時ののけぞり方がもの凄かった。あれは人間の動きじゃねえよ…

〇キティー

序盤でいきなり殺されて「マジかよ!?」と思ったし、その後亡霊のようにちょこちょこ出てくるという立ち位置が中々特殊なキャラ。キャラによって認識してる子とそうじゃない子がいたりして、正直最初よくわからなくて後で色々と元ネタ調べたら、アンネのイマジナリーフレンドなんですねこの子。そう考えると色々と合点がいく。

作中、特にアンにとって要所要所で内面に語り掛けることで、アンの持つ葛藤や蓋をしていた感情を触発するという重要な役目を果たすところが立ち回りの見せ方として凄く印象に残った。

キティーのシーンって内面の世界だから、照明の色や声のエコーとかを使った演出もあってどこか非現実的で幻想的なんだけど、どんな場面でもキティーがフレンドリーに語ってくるからシーンによっては逆に不気味でもある。普通に戦闘シーンでも出てくるからね。そこらへんの絶妙な塩梅を演者の大滝さんがいい感じに出してて上手いなと思った。

〇虐殺部隊

すがすがしいくらいのわかりやすい悪役で、三者三様に殺りたい放題殺りまくる。本当に容赦ないしエゲツない。

隊長格のエンゲルの個性豊か殺意マシマシな面々を束ねつつ着実に作戦を遂行していく凛とした姿は、国を背負う軍人として矜持を感じた。
終盤は「ドイツの科学力は世界一イイイイイイイ」世界一を誇る科学力で不死の軍団を作ろうとしたのが完全に裏目って全てが崩壊する中、因果応報と言える最後を迎えるんだけど、最後の最後まで生き残ろうとする執念は凄まじいものがあった。
虐殺部隊のやってること自体は基本的には完全にアウトなんだけど、悪役には悪役の正義があるし、そこを貫いていたのは一つの美学よね。そういう芯の強さはエンゲルから感じて、そこはこのキャラの一つの魅力。

エルフとゼプツェンの関係性も中々趣があって、序盤は互いの詮索はNG、あくまでも仕事上の同僚でしかないと思わせておきながら、実は結構お互いに思うところがあるのはミソ。ゼプツェンはキレやすいエルフをなんだかんだ気にかけてるし、エルフもゼプツェンがやられた時はガチでキレるし。
特に、最後に死に際にもう一度耳を塞ぐシーンは象徴的。中盤でやったときはおふざけな感じもあってゼプツェンは嫌がったのに、最後のシーンは死への不安を和らげるためにゼプツェンから求め、それにエルフが優しく応じるるところに二人の関係性が垣間見えて、個人的にめちゃ好みのやつでした。

<おわりに>

今回の舞台を観に行ったきっかけは、出演者に知ってる人が多く、SNSで情報が流れてくる中でなんとなく面白そうだなと思ったからという些細なものだったんだけど、自分の感性に従った結果、とても内容の濃い作品に出会えた。
舞台というジャンルには今年から本格参戦したんだけど、舞台って生身の人間のお芝居を五感で感じることができるから受け取る情報量が多いし、特に今作は悲劇で死と隣り合わせの人間模様とそこに宿る生の感情がダイレクトに伝わってくるから、受け取る刺激がとても多かった。
内容が内容なので万人向けではないかもしれないけれど、お芝居だけじゃなくそれを通した作品のテーマから感じたものはとても大きかったので、自分にとっては非常にいい経験でした。

女王ステシリーズの次回作も予定されているということなので、今回のこのシリーズに出会えたご縁というのもあるので、なんとか予定合わせて行きたいし、可能なら知り合いのオタク連れ込もうと思います。

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