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激烈悪女!!魔亜我烈疾・雄武・案銃!〜薔薇王の葬列(2)感想

 癒しがリチャードとエドワード・オブ・ウェストミンスターの交流しかない。やだー!甘酸っぱい!!

※薔薇王の葬列なるアニメを見ながら薔薇戦争の復習をしています。

 ヘンリー6世妃、マーガレット・オブ・アンジューが本格参戦する。
「堂々とした精力的な女」といわれ、敵国フランスから嫁いできた身でありながら、失敗続きのヘンリー6世の側にあり続け、誹謗中傷に耐え抜いて息子と夫を守り抜いた王妃はこの作品では——

すげぇなおい

「そうよその顔ぉぉぉっ♡♡」

ヤベェなおい

「さあ! 見なさい! 見るのよヘンリー!!!!」

 えっとなんだっけ脳みそがバグった 魔亜我烈疾・雄武・案銃って感じだ
セシリーvsマーガレットが見たい。ロンドンとかマジで無くなりそう

 今回、ヘンリー6世とマーガレットはそういう特殊なプレイをする夫婦だっていうことがよくわかった。あとヘンリー6世は二十年近く連れ添っているので、妻を興奮させてそういう行為に導く失言の仕方をよくわかっており、「許してくれ」「私は悪くない」「私はマーガレット様の臆病で卑劣で恥知らずな奴隷です」とすけべすぎるグリリバ声で嗚咽するなど全てが反応として完璧だし、かといってヨーク公みたいにマーガレット様を完全に興奮させてしまうことなく上手に手綱を握っているし、何より周囲全員「陛下に何を無礼なことをおっしゃいます!」などとは止めない。もう完全にそういう夫婦の語らい♡であると周囲はわきまえているのだろう。ただ子供のエドワード・オブ・ウェストミンスターには刺激が強かったね
 しかも今回下僕国王が浮気していたのをマーガレット様が察知してしまったようなので、あなたの主人妻が誰かを頭皮に刻みつけておかないと♡ とかなり厳しく調教折檻されている。

 この局面で心配されるのは「いとしのウィリアム」ことサフォーク公爵ウィリアム・ド・ラ・ポールがどんな扱いを受けていたかである。
 マーガレットとヘンリーを結びつけた人物で、二人に爺やか父親代わりのように最も信頼され、物語開始直前に非業の死を遂げた側近サフォーク公爵(※ヘンリーより二十歳くらい年上。マーガレットより三十歳くらい年上。マーガレット様は下僕ヘンリー6世の8歳年下なのである)。
 きっと……
 マーガレット「ウィリアム♡ 陛下をお守りしてね!!(髪を頭皮ごとむしりつつ)」
 サフォーク公爵「ぐあぁぁぁぁあぁぁ! お元気ですな王妃様!! この身に代えましても爺はお二人をお守りしますグホッ、ゲホッ(いくらむしっても大丈夫な毛量を誇る)」
 だったとしか思えない。

 実際には、喝采を浴びせたくなるほどの烈婦だが、確かにリチャード3世視点で見てみれば、兄の妻であるエリザベス・ウッドヴィルと並んで、これほど嫌な女もいなかった。リチャード3世は少年の時から王妃となるアン・ネヴィルに恋していたとされ、かなり愛妻家だったという話があるが、前王の妃達にはことごとく苦労させられている。

 実は薔薇戦争で一二を争うほど好きなカップルなのがヘンリー6世♡マーガレット王妃夫妻(見届けなければいけないという使命感がある)、リチャード3世♡アン王妃夫妻(愛でたいし見守りたい)なのだが、今回の作品はヘンリーとリチャードが手に手を取って爆走しながら愛しい妻たちを置いていっているので見届けられなさそうだし愛でられなさそうである。
 その発想はなかった 薔薇王の葬列、斜め上すぎる

 ヨーク家の恐母、セシリー・ネヴィルも頭皮つかみでは負けてない。

母上、ヘッドスパにしちゃキツイですぜ

 ぐわしっ!
 マーガレットにセシリーも、みんなの頭皮が逝っちまうからやめてくれ!!!! リチャードはまだしも、ヨーク公もヘンリー6世も気にする歳なんですから!!!

 実はマーガレットにもセシリーにも、不倫疑惑がある。それこそマーガレットは「ウィリアム」ことサフォーク公や側近のサマセット公の不倫を疑われて「エドワード・オブ・ウェストミンスターは不義の子である」と中傷され、セシリーは弓の射手との不倫を疑われて「エドワード4世はヨーク公の子ではない」と中傷され、とうとう姦通罪で告発さえされた。どちらもランカスター家の弱体化、エドワード4世の弱体化を狙って流された噂である。
 (エドワードではないが、)リチャードに関する母の姿勢やマーガレットの「ウィリアム」はこういうところからネタを採用しているのだろう。

退かぬ!! 

 時はさほど飛ばず、ウェイクフィールドの戦いになる。

おーっほっほっほほ!!

 マーガレット・オブ・アンジューは16歳で当時24歳だったヘンリー6世に嫁ぐ。フランス王シャルル7世の義理の姪であったが、「ハリボテ上流貴族」と言っていいほど実家は困窮していた。当時百年戦争でフランスとの和平を模索していたヘンリー6世は、フランス王家の関係者を王妃に迎えようと考える。そこで選ばれたのがマーガレット・オブ・アンジューことマルグリット・ダンジューであった。ヘンリーはこの時、貧乏姫であるマーガレットの持参金を免除するどころか、気前よくメーヌとアンジューというフランスに持っていたイングランドの土地をマーガレットの父に割譲する。そのせいでヘンリー6世は随分と周囲から叩かれた。
 マーガレットとしては夫に嫁いだ瞬間に、大きな借りができてしまったことになる。それで一生かけてヨーク派と戦い、最後は夫と息子を同時に殺されてもぬけの殻になる。

 作中のヨーク公に皆が「陛下」といわれているが、それが絶妙に寒い印象を受ける。リチャードにとっては偉大な父だが、周囲に陛下と呼ぶよう強要しているのではないか、という小さな疑念が視聴者である私には生まれている。
 彼はヘンリー6世を幽閉しただけで、戴冠をまだしていない。正式な王として議会に自分を認めさせ、その上でランカスターを追討したほうが良いにもかかわらず、それをやらない(やれない)。前の記事ではできなかった理由をメモしたが、それをも考えあわせるとさらに薄ら寒いものを感じる。

 さて、ヨーク公の王位請求、ヘンリー6世の次期王位継承者とヨーク公が認められたことで一番不満を抱いたのはマーガレット・オブ・アンジューである。いままでの何年にもわたるヨーク公の振る舞いは、マーガレットに「夫と息子に対する脅威」という疑念を抱かせるのに十分なものだったし、今回は、夫の身柄は守られるであろうからまだしも、完全に「息子に対する脅威」であった。
 ヘンリー6世は本作ではリチャードとともに「塔」にとどめ置かれているが、同じようにヨーク公の監視下のもと、実際にはロンドン司教館に身柄が置かれていたようだ。マーガレットにロンドンに戻ってくるよう願うが、彼女は戻ってこなかった。彼女は国王を奪還する計画を立てていたのだから。
 マーガレットはスコットランドと交渉し、エドワード・オブ・ウェストミンスターとスコットランド王女との婚約、幾らかの領土割譲と引き換えに軍事支援を得、イングランド北部に拠点を置く。
 その最中に起きたのがウェイクフィールドの戦いだ。マーガレット王妃は対スコットランド交渉に粉骨砕身していたため、本作のように(というかシェイクスピアの劇のように)ウェイクフィールドの戦いで巧みな指揮を執っていたわけではない。執りたかっただろうが。
 ヨーク公は戦死した。このとき、実は本作に全く出てきていないリチャードのもう一人の兄(エドワードとジョージの間にいた)、エドムンドが殺害されている。シェイクスピアでヨーク公がマーガレットに拷問され、突きつけられた息子の血で染まったハンカチは、リチャードのものではなくエドムンドのものだった。
 彼を殺したのは王妃の側近のクリフォード卿であるが、エドムンドを殺す時、「お前の父は我が父を殺した」、と告げて殺したようだ(このセリフはシェイクスピアが採用しただけでなく実際言ったようである)。ヨーク公はセント・オールバンズの戦いの時、クリフォード卿の父を殺していた。
 さらにクリフォード卿は、本作では王妃マーガレットがしていたように手作りの(紙の)王冠を死んでいるヨーク公の頭にかぶせ、城壁に彼の首を晒した。それだけひどく、父の喪失に苦しみ、ヨーク公を恨んでいたのだ。
 ヨーク公に怨嗟を向けていたのは、クリフォード卿だけではない。もちろん夫を捕縛され、息子の地位をズタボロにされた王妃マーガレットもであったし、国王の若き側近であった24歳のサマセット公爵も父をヨーク公に殺されていた。

 ……そしてそんな彼らに最愛の父を惨殺されたのが、今回のリチャードである。(実際には兄も惨殺されている。)

サロメ〜〜

 とどまることない絶望の連鎖に財政難と、薔薇戦争は混迷を極め始める。

 んですが

赤ちゃんのリチャードに何吹き込んでんですか父上

「この木の下を通る人は、そのとき近くにいた人とキスをしなければいけないのだ」
「ほんとうですか、母上にしても怒られませんか?」
「もちろんだ。ただし12回以上はしないといけない決まりだからな。まずは私にしてくれ」

 赤ん坊のリチャードを抱いて変なことをいう父上。
あの、戦場で今死にそうな時に思い出す回想がそれでいいんですか????? もうちょっとマシなリチャードとの回想はなかったんでしょうか! 父上、父上、しっかりーーーーーーーッ!
12という数字が嫌な予感しかしないよ

 やはり父上にとって本質的なところでリチャードは愛息子ではなく愛娘だったんだろう。賢くおてんばで誇り高い娘。まだ非力で守ってやらねばならない娘。小生意気なことを言うがまだか弱い娘。母から愛されず自分が愛してやらないといけない娘。自分を勇気付けてくれる天使のような娘——、そんな印象を父上のリチャードに対するセリフから感じる。
リチャードがお嫁に行ったら絶対結婚相手を紹介した時点で機嫌悪くしてバージンロードで大泣きするタイプだと見た
 だというのに、リチャードの性別を「男」と決め、リチャードという男性の名前を与えたのは父だとリチャードは語っている。何か薄暗いものを微妙に感じるのだが……

このイケメンは……モブではない!?

 物語はおそらく第二次セント・オールバンズの戦いまで進む。王妃マーガレットはこの戦いでロンドンへ進軍し、捕縛され幽閉中のヘンリー6世の奪還に成功するのだが、その途上で未曾有の略奪と虐殺を敢行する。懐事情が寒かったのと、唯一無二の国王に反逆した民衆への懲罰のためだとされる。実はのちにリチャード3世も苦しめられることになるが、北部イングランドは比較的王に従順なのに対し、ロンドンのある南部イングランドは国王に反骨精神を持っていたようだ。なのでマーガレットはそれが許せなかったらしい。まったく、夫が大好きなんだから♡
 マーガレットの政治の下手くそなところはこういうところで、この大規模な虐殺と略奪により、ランカスター王家はかなりの民衆の支持を失い、国君たるべき資格を失う。

 それはさておき。この謎モブ。

モブにしてはイケメンすぎる……

 リチャードは「初めての殺人」を犯すのだが……。

ジョン・グレイと記されている。

 その相手が、ジョン・グレイ卿。エドワード4世王妃であるエリザベス・ウッドヴィルの最初の夫である。作りが細かい!
 沈みゆくヘンリー6世の王妃であるマーガレットの登場と、飛翔するエドワード4世の王妃エリザベスの存在の示唆。ヘンリー6世はサマセット公やバッキンガム公、サフォーク公など大貴族を自らの側近として彼らの意図に従った政治を行い、伝統的にイングランド王が迎えるフランス王の縁者を王妃に迎えた保守的なタイプだったが、エドワード4世は大貴族を嫌い、下級貴族や地主層(ジェントリ)を重用する革新的なタイプで、エリザベス王妃はその象徴だった(ただ、若い頃はエドワード4世はエリザベス王妃の父であるリヴァース卿を「下賤の輩が!!」と蔑んでいたりした)。
 その二人が同時にこの回に出てきたことは非常に意味があることに感じた。

 だが、本作ではエリザベス(王妃)のつつましくも幸福だっただろう生活はヨーク家の、しかも夫の弟(妹)によりスタボロにされたわけで、もしこの事実をエリザベスが知ったならどうなるのだろう。

まとめ

頭皮が!!!! ヘンリー6世の頭皮が!!!!
・魔亜我烈疾・雄武・案銃
・父上何吹き込んでるんですか……?
・単なるモブのイケメンかと思ったら重要人物だった件

参考文献

トレヴァー・ロイル著、陶山昇平訳『薔薇戦争新史』2014年、彩流社
尾野比左夫著『バラ戦争の研究』1992年、近代文藝社
青山吉信編『世界歴史大系 イギリス史1』1991年、山川出版社
陶山昇平著『薔薇戦争 イングランド絶対王政を生んだ骨肉の内乱』2019年、イースト・プレス
服部良久他編『大学で学ぶ西洋史(古代・中世)』2006年、ミネルヴァ書房

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