20240106 鳥の言葉を解す

佐伯一麦『ノルゲ』を読んでいる。高名な小説だが、やはり大変良い。私自身どちらかといえば病みがちな精神性の持ち主であるから、私小説の語り手の恢復が、自分の気分の恢復をも導いてくれ、極寒のノルウェーを舞台にしていながら暖かに読んでいられる。

しかし、『ノルゲ』がおもしろいのはさておき、その中で、ノルウェーの国民作家であるというヴェーソースの英訳で『The Birds』という小説が登場する。語り手の翻訳を試みながら読み進めるその小説は知的な障害をもつ人物を主人公としており、やがて彼は「鳥の言葉」によって鳥との交流を始める。そこに語り手自身の現実として描かれる日本語とノルウェー語、鳥の鳴き声と言語といった話題が重なり、そこにも考えるに値するおもしろさがあるのだが、しかし、知的な障害と「鳥の言葉」とは、私が既に読んでいた小川洋子『ことり』と、そっくりではないか(ちなみに『ことり』は東北大学で出題されていたことをきっかけに読んだのだが、これも優れた小説である)。

『ノルゲ』は2007年、『ことり』は2012年、ヴェーソースはもっとずっと古いだろうが、では『ことり』の、鳥の言葉を解する「お兄さん」とは、ヴェーソースの影響があるのか、『ノルゲ』の影響があるのか、あるいは、知的障害の現れ方にそのようなものがあるのか、あるいは、普遍的な物語作家の想像力が同じモチーフを見いだしたのか(思えば、正常・定型から外れるもの(白痴、狂気)は、自然・野生と結びつけられるものである)。いずれにせよ興味深い。

#読むこと

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