20231219 冬の短冊

我が校では、クリスマスツリーに願い事を記した短冊を吊るすという慣習が近年に生まれ、今年も引き続きクリスマスツリーが引っ張り出され、受験生の合格祈願を中心にして短冊が飾られている。「◯◯大学合格」と堂々と書く生徒もいるのだが、憚って「北海道で雪だるまを作る」とか、そういう曖昧な書き方をする者もあって、もちろんしょうもない願い事もたくさんあるのだが、彼ら彼女らの彼ら彼女らなりに切実な短冊を眺めていて思い出されるのが、コロナ禍の初めの年にやはり出されたクリスマスツリーに掛かっていた「ひとりで遠くへどこへでもいく」という匿名の短冊だ。ひとりで遠くでどこへでもいく――上手いとも下手ともつかぬか細い文字でそれは書かれていた。十二月の寒々とした校舎、薄暗闇に点滅するほのかな電飾に揺らめくその短冊の願い事の、抜けるような孤独、透き通った悲壮感。吉本隆明の「とおくまでゆくんだ」を想起しつつ、私も冬の校舎で寒さに震えながら独り、その短冊から離れられなくなったある日が、思い出される。

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