お仕事をはじめたら向こう側の人間になったという話。
気づけば師走…。
皆様いかがお過ごしですか?ご無沙汰しております。もう忘れられてしまったかもしれませんが…。
暫くお休みいただいている間にも、記事を購入していただいたり、フォローやいいねをしていただいていて、とても嬉しく思っています。
有難いことに忙しい日々が現在進行形で続いておりまして、かなり牛歩になってしまいますがこれからも綴っていきます。
さて今回はと言いますと
noteであの頃を綴るようになってから、改めてお仕事をしていた彼女(私)は全くの"別人"であったなと感慨深くなったというお話です。
思えば昔から嫌なことがあると妄想して現実逃避をし、理想の海で時間が経つのを待つ癖がありました。
他者に自分の嫌悪感や悲壮感の話をするのが苦手で、大人になってからも長らく自分の話をするのが苦手でした。
仕事柄もありますが、自分が女性として化粧をしたり身だしなみを整えたりする事に酷く抵抗感があり、男性と交合う際は何処か夢見心地で客観的でした。
そんな私ですが、やはり女性への憧れは持ち合わせていたようで、無意識のうちにある一人の人間を心の中で育てているのでした。
その人間が正しく「あおい」でした。
彼女は社交的で愛嬌があり、一生懸命な可愛らしい子でした。自分が端正な顔立ちではない事を自覚しており、その分人間性を磨いていてとても魅力的です。
彼女は風俗嬢として初めてのお客様がいらっしゃるドアの前に立つ私の意識を突然奪い、降臨しました。
まるで多重人格者のように、一瞬にして体と思考を乗っ取られたのです。
その後は驚くほど愛想良く、一生懸命にお仕事に励んでいました。一部の感覚と客観的な意識だけが自分のもので、あとは全て風俗嬢「あおい」のものでした。
ニコニコ笑い、愛想よく喋り、まったり甘え、包み込むように優しくし、激しく身悶え、可愛らしく啼き、ねっとりと奉仕する。
完璧でした。
理想の女の子。それを私が演じていました。
彼女の仕事ぶりのお陰でコンプレックスだった「女性性」にどんどん自信がつき「女性でいていいんだ」という安堵感が堪らなく心地よかったです。
そして何よりの恩恵が、風俗嬢時代を必要以上に傷付くことなく過ごすことが出来たことです。
彼女は買い取られた時間内、全力でその殿方の身も心も愛します。喜んで欲しい!笑って欲しい!の一心で、会話や動作全てをその方に捧げるのです。
が、
お見送りをし、後ろ姿が消えた瞬間完璧に切り替えてお客様の存在を忘れてしまいます。
そんな状況で私はいつも慌ててお客様の情報をメモするのですが、とにかく忘却力が凄いのです。
彼女はいつも目の前にいる殿方に全力で恋をしています。そして引きずる事無く次のお客様の元へ向かいます。それをひたすら繰り返してくれていました。
酷いことを言われたり、強引なことをされたとしても、それでも彼女はその場だけ、その殿方を愛し続けていました。
そのお陰で私は過度に傷付いたり悲しい思いする事がありませんでした。その全てを愛と共に彼女が颯爽と吹き飛ばしてしまうから。
自分自身が仕事をしているはずなのに、何故か私は向こう側にいました。
私ではない誰かの生い立ちや生活、価値観や考え方を話す私と同じ誰かを見つめていました。お客様に話したことの殆どが「私」と対比すると嘘だらけです。でも「彼女」の真実です。
だから言い淀むことなく、時には感情的に「私」は「彼女」の事を殿方に話すのです。
とても不思議な体験でした。
しかし、結局の所それは羞恥心を取り払った「私」でしかないということに、辿り着いて笑ってしまった自分がいました。
皆様のサポートが私の力になっております。 これからも私の昔話でお楽しみ頂ければ幸いです。