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永遠に咲く花#4

「俺はお前を連れて行く気はない」
十六歳になったアクスを戦場へと連れに帰って来ていたはずのライドがアクスに向かってそう言った
ライドの大きな声が家中に響く
二人でテーブルを挟んで会話していたが、別の部屋にいたリゼとセティアにも聞こえたらしい
ドアを開け、ライド達のいる部屋に入って来た
アクスはライドを真剣な表情で見つめていた
ライドはその後、何も言おうとはしなかった
ライドはアクスを戦場へ連れて行きたくない
でも、そんな事は許されない
健康な男性は十六歳になれば、強制的に戦場へ連れて行かれるのだ
権利を得た者は当然のように義務を果たさなければらない
十六歳の誕生日を迎えたアクスは明日、戦場へと旅立つ
その日の家の中は明るい雰囲気だった
セティアはら悲しい気持ちを抑えて笑顔で見送ると決めていた
リゼの心のこもった料理を食べながら、四人で食卓を囲んだ
昔の懐かしい思い出話や、いつもと変わらない何気ない会話で過ごした


目が覚めると真夜中だった
私はベッドから起き上がるとリゼを起こさないように静かに部屋を出た
家の外にはアクスの姿があった
アクスは静かに月の光を浴びていた
窓からそっとアクスを見つめる
目にかかるほど長い前髪と肩にサッとかかるくらい伸びかけたシルバーグレイ色のアクスの後ろ髪が月明かりに照らされ、キラキラと輝いて綺麗だった
アクスは目を閉じて、深呼吸をしていた
ほど良く筋肉のついた腕、ライドと比べるとまだ華奢な肩、幼さの残る横顔、、、まだどこかアンバランス、、、
でも、いつの間にか大人に近づいた
確実に大人に近づいた
ひとつ年上のアクス
生まれた時からずっとずっと一緒に育って来たアクス
明日、アクスは旅立ってしまう
そう考えると胸が潰れそうな位に、苦しくて苦しくて、、、
居ても立っても居られなくなり、私は外に出てアクスに声をかけた
「眠れないの?」
ハッとしたようにアクスは振り返る
アクスの今も昔も変わっていない、吸い込まれそうなほど綺麗で真っ直ぐな深い深い緑色の瞳、その瞳に見つめられてしばらく声が出なくなった
やっと喉の奥から声を絞り出す
「いよいよ明日出発だね」
頑張って笑顔を作った
---イカナイデ、アクス
「頑張って、カッコよく戦って来なよ」
---コノ優シイ少年ニ人ガ殺セルノ?
「.......戦争なんて、無くなればいいのにね」
言ってることがチグハグだ
自分の声がだんだん力無く、弱々しくなっているのがわかる
いつの間にか頬を暖かいものが伝う
---笑顔デ見送ルンダ、、、
それでも、必死に笑顔を繕った
その瞬間
アクスの腕の中にいた
アクスが私を優しく包み込む
そして、耳元で呟く
「いつでも、笑っていてくれよ、セティア」
幼い頃からよく知っている
優しい優しい少年
アクスの体温とアクスの生きている音を感じた


リゼの心のこもった料理はいつも美味いけと、今日は特別に美味い気がした
もう真夜中、みんなベッドの中だ
月明かりがとても綺麗な夜だった
何だか寝付く事が出来ずに家の外で一面に広がる花畑を眺めていた
とても懐かしく感じた
走り回って、かくれんぼして、たくさん一緒に過ごした特別な場所だ
思い出だらけのこの場所、もう暫くは見ることのできないこの風景をとても切ない気持ちで眺めていた
「眠れないの?」
振り返るとそこには見慣れた愛しい少女が、いつも通りの笑顔で佇んでいた
サラサラのコハク色の長い髪、ブルーのパッチリとした瞳、抜けるような白い肌
大好きだった笑顔、、、
全てが愛おしい
セティアが、明るい口調でオレに話しかける
胸が詰まる
だんだんセティアの顔が歪み、ブルーの瞳からは涙がどんどん溢れてくる
それでも、一生懸命笑顔でいようとするセティアの健気な表情を見ていて、今まで抑えつけていた感情がどうしようも無くなって、思わずセティアを抱きしめた
いつの間にか、こんなに小さく感じるようになった
愛しい少女
今にも折れてしまいそうな程、華奢な肩、細い腕
昔からそうだった
泣きたい時、悲しい時、いつも涙をこらえ、一生懸命笑おうとする
だから、守りたかった
愛しいセティア
セティアの笑顔が大好きだった
永遠に守りたかった
出来ることなら、この手で

十六年間育って来た地の
花畑の甘い切ない懐かしい香りがした


「行って来ます」
明るいアクスの声
「行ってらっしゃい」
セティアも笑顔で返す
アクスの手にリゼの手作りのお弁当が渡される
「元気で」
アクスはニッコリ笑ってそれを受け取るとクルリと二人に背を向け歩き出す
「行ってくる...」
ライドも二人に挨拶すると足取り重くアクスに続いて歩き出した
アクスとライドの姿はみるみるうちに小さくなって行った

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