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奇跡ではないけれど


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奇跡ではないけれど

アオちか

2024年6月3日 14:57

私はあまり奇跡という言い方は好きではない

でも、少し不思議な話がひとつある。

それは今から少し前のことだ
私が婦人科系の病気にて、腹をかっさばがなければ
ならない手術を受けた時のこと。

こんな私でも、それはそれはビビり散らかしていた。
と同時に、それが悪性なのか良性なのかは、
取って病理検査をしないと分からないと言われていた。

そんな事を言われて、でも大丈夫!と
言えるほど私は強くない
冬の始まりの水溜まりに出来た
薄氷の如く繊細メンタル

毎日不安をやり過ごし、かろうじて生きていた
ほぼ虫の息!!

幸いな事にそれは良性であった

私は病室で泣いた
それはもう泣いた
おいおいと泣いた

それから程なくして退院

捌かれた腹の痛みを抱えながら
術後を家で安静すぎるほど安静に過ごしていた。
パカッと開いたら怖いので。

そんな時、随分と放ったらかしのパンツのカゴ
が目に付いた。
パンツのカゴとは、その時レギュラーだった
パンツ達をキレイに畳んで詰めておいたカゴだ。

レギュラーと言いながら、ホコリが被るほど
放置され、部屋のタンスの上のしかも角に
置かれていたわけだけど。

ふと、その中にそれこそ埃の塊に目が行った。

なんだこれ?と手に取った。

私は驚いた、二十歳の時亡くなった
父が、私がまだ8才やそこらの時にくれた
お土産のキーホルダーだったから。

パンツのレギュラーカゴはせいぜいここ
2.3年のもの。
そしてそのキーホルダーを失くしたのは
それこそもらった8才かそこらの時

全く謎でしかなかった。

傷ひとつなく、真っ赤な椿の実なのか種なのか
私の名前が彫ってあるもので、私と姉に当時
どこかのお土産でくれたものだった。

父が亡くなった時、私はなんの思い出の品もなく
そのキーホルダーを思い出し、だいぶ探したものだった。もちろん見つかることはなかった。

父と母は私が7歳の時に離婚している。
私と姉は父と父方の祖父母と暮らしていた。
そんな小さな姉妹を寂しがらせないようにと
思ったのか、たまたま見かけて買ったのかは
分からないが、そんな時にもらったものだった。

そんな父も私が二十歳の時、様々な事があり
アルコール依存症から入院
その後そこから出てきて再就職したものの
上手くは行かず、ある日突然姿を消し
その4日後くらいには亡くなっていたのだ。

しかし、それを私が警察から知らされたのは
行方不明から翌年の4月。

父はもう既に火葬もされていた。

私は、アルコール依存症の父の事を
ひどく責めた。なんで!なんで!と。
高校生であったとしても、許されないほどに。

それから程なくして父は居なくなった。

そんな父との思い出のキーホルダーが
全く予期せぬ場所から出土した。
(土偶かよ)

私は、驚きで意味が分からなかった。
厳密には今も分からない。

でも、なんだか父に少し許されたような
気がした。

たまたま会う予定のあった友人にその話をし
キーホルダーを見せたところその友人は

まるで時を止めていたかのように綺麗だね

と言った。

本当にもらったあの時のまま
1つの傷もなく、綺麗だったのだ。

どこで時を止め、そして何故その時を
動かしただろう。

人生において、奇跡と呼べる事など
ほとんどない。
必ずなんらかの理由があるし
なければほとんど偶然だ。

それでも、私はこれを奇跡とは呼べないけれど

まるで奇跡

のような出来事だと思っている。


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