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小説【kiseki】 第3章 だって私達はTEAMだから

この前初対面の方に、
「お仕事って何されてるんですか?」と聞かれ、思わず「コーチです」と答えそうになるぐらいには、コーチでいる自分が当たり前になってきている。

メンバーも増えてきた。チームの方向性も決まってきた。
自分の技術力と指導力を上げるために社会人チームに入り、コーチの研修も受けた。
無いものを数えても進めない。
今、自分にあるものをきちんと見つめ、足らないものを受け止めて、それを補う方法を考えよう。
とにかく立ち止まっている時間も悩んでいる時間も、今の私には全く無い!!

落ち込む暇があるなら、反省して次に活かすアクションを考える!!
今はとにかくみんなと進むんだ!!!

○月✕日

最近彼らの指導に悩むと、自分の過去のチアノートをよく見返すようになった。
過去の自分の心の叫び、上手くなりたいのになれないもどかしさと葛藤。
その中でもがきながら、上手になった。出来ない事が出来るようになった喜び。
断片的だけどそんなことが書いてある。

記憶も自信も無い私は、メモを残す事で未来の自分に残そうとしていたんじゃないか?そんな事さえ思うほどに、チアノートには何度も何度も助けてもらった。

「あっ、良いこと思いついた。明日の練習が楽しみだな~。」

私はコーチノートに浮かんだアイディアを書き留めた

翌日

「みんな集まって、ちょっと話したい事があるの」

みんなが集まってくる。

「私は現役時代、チアノートをつけていました。これね」

私は過去の自分の4冊のチアノートを彼らにトランプのように広げて見せた。

「練習内容とか参加メンバー、その日の練習で上手くいった事、上手くいかなかった事、練習の感想。あとは、次の練習までに何をやるかってことを書いてた。」

全員の顔を見回す。

「自分が悩んだ時、スランプに陥って不安になった時、そして今でも、過去の自分のチアノートに、上達のヒントやたくさんの勇気を貰ってきました。いつかみんなにとっても宝物になったらと思ったので、今日はノートをプレゼントします!」

1人1人の名前を呼びながらノートを手渡していく。
みんなが受け取る度に、満面の笑みでありがとうと言ってくれる。

「このノートは、何を書いても自由です。練習の記録でも、今の想いでも、メンバーへの想いとか、これからどんな構成をつくりたいとかほんとになんでも。1つだけ、不定期で集めて私も読みます」

彼らは真剣な目で私を見つめ話を聞いている。
予想していた「えー」の声が聞こえない事に、むしろ私が1番驚いている。

「直接、面と向かっては言いづらい悩みとか、私に報告したい事とか、チアに関係ない今後の進路とかなんでも。提出してくれたものは全部読んで返事を書きます!今日は以上です。」

帰り道、今日ノートを渡した時の事を思い出す。
思った以上に喜んでくれていたみんなの顔。
提出する事に反対の声があれば集める事に強制はしないつもりだったんだけど·····
誰からも反発なかったな·····

いつかこのノートが、みんなが悩んだり苦しんだ時、助けてくれる。心を救ってくれる。そんな魔法のノートになったらいいなと心から思う。
みんな、本当に書いてくれるのかな?と少しだけ不安になりながら集める日を楽しみにしようと思う。
今日の振り返りをして、次回の練習メニュー作るぞ!!

〇月✕日

「コーチ。今日、練習終わり5分だけ話したい事あるので時間もらえますか?」

「了解。」

もう、ゆうじの当日の無茶ぶりには、そろそろ慣れてきて、むしろ楽しみ始めている自分がいる。
だいたい前日にLINEでやり取りしているのに、何故当日の無茶ぶりになるのかは、考えても答えが出なかったので、深く考えずに、それもゆうじの特性だと受け止める事にした。

いつものように練習の指導が終わる。
よし、予定通り5分前·····

「ゆうじ。じゃあ、あとよろしく」
「はい!分かりました」

ふと、部屋が暗くなった。停電かな?館内アナウンスが無いって事はこの部屋だけ?とりあえず動かないようにみんなに言わないと·····
色々考えていると

パンパンパンパンパパーン·····
けたたましい破裂音が、断続的に耳を貫き、慌てて
耳を押さえる。

正直、ありえないはずなのに、銃声か爆竹を想像してしまうぐらいの音だった。

みんなは大丈夫だろうか?慣れてきた目でみんなの位置を確認しようとすると、突然電気が点いた。

「あおコーチ!お誕生日おめでとうございます!!」
ゆうじの声がした。
そして他のメンバーからも次々とおめでとうの声が聞こえた。

みんなの手元を見るとクラッカーを持っている。
音の正体はこれか·····

「ありがとう。私、誕生日なんて話してたっけ?」

「はい!俺の誕生日の話してた時に、コーチの誕生日いつですか?って聞いて、答えてくれてました。」

「よく覚えてたね?」

「俺、大事な事は忘れないんです。コーチ、プレゼントもあるんで受け取ってください」

ようやく状況を理解して喜ぶ私を見て、
してやったりな嬉しそうな顔が並んでいる。

「コーチ、写真撮りましょう!今日は全員で撮るために三脚持ってきたんです」

STARSのマネージャーになり、メンバーの活き活きした姿を残したいと、最近一眼レフに目覚めたというマネージャーの鏡の様なchikaが、三脚に一眼のデジカメをセットする。

「コーチ、乗ってください」
直ぐにきょうへいとけんしがベースになってくれる。

「ありがとう。」
私はスタンツに乗る。

「やっぱコーチ安定感が半端ない!!」
めちゃめちゃ初歩のスタンツなのだが、褒められるのはやっぱり嬉しい。

数日前はこの「スタンツ」の存在さえ知らなかった2人が、すっと、組んでくれた。 安定感の違いも感じられるようになっていた。
成長に思わず胸が熱くなる。

「5秒でセットしました。」
chikaがデジカメのリモコンを操作してくれる。
みんなでカウントダウンする。

カシャ!!
そこにはみんなのとびきりの笑顔が写っていた。

帰りの電車の中、改めてゆうじにお礼を伝えた。


「サプライズ、無事に成功して、喜んでもらえてめちゃめちゃ嬉しかったです!本当にいつもありがとうございます!僕らのコーチになってくれてありがとうございます!!これからもよろしくお願いします!!」


ゆうじの熱すぎる返信に感動して泣いてしまった。
改めて、コーチを引き受けた時の自分との約束を噛み締める。

「こんな素敵なプレゼントもらったら、返さない訳にいかないじゃん!!ちゃんと練習で返す!
よーし、明後日の練習も頑張るぞー!!」


深夜の公園に、私の決意が響き渡った!!

〇月✕日
ゆうじは自分に性格が似ている。
出逢ってから今日まで何度も思っていたが、やっぱり似ていると思う·····

良い意味でも、別の意味でも·····
きっと思いついたら、感情が先走って思考がおいてけぼりになる。
気づけば行動してる、言ってしまうタイプ。
自分でもわかる。「先に一言言ってよ」はこのtypeには無理なのだ。

そんなゆうじの行動で、他チームと合同で、イベント出演が決まった。
しかもなかなかに準備期間が無い·····
引き続きの新入生歓迎期間で、メンバーを集めながら構成を入れていく。


構成やダンスを作った経験などチア初心者のメンバーにあるはずもなく·····
当然、構成を作るのは私だ。
無謀過ぎる挑戦。えっ?これ間に合うのか?
いや、間に合わせるしかない!!!
頑張れあお!あなたなら出来る!!!

〇月✕日

チームにトラブルはつきもの。
しかもメンバーが固定化されない初期は、そのトラブルを乗り越える事で初めてチームになって行く。
メンバー更に増えて、イベント出演も決まり、そろそろ構成を作り始めようと準備を始めていた。
1週間ぐらい前から正直、気にはなっていた。
彼らは大学生、自分達で気づかせる事も大切なんじゃないかと、あえて何も言わずに少し様子を見ていた。

この頃、
当日にならないと参加メンバーがわからない。
当日、何も連絡無く休むメンバーが増えてきた。
バイトや勉強を優先するメンバーは当然いるし、人数が増えてきたからこそ、チーム内のメンバーの温度差もかなり出てきている。

“これだけ人数いるから、俺が休んでも代わりはいるでしょ?“


そういう空気が、チーム全体に充満していた。
マネージャーが曲をかけてくれる事や、写真や動画を撮ってくれる事、そう言う事に、前より感謝が無くなっているのも、如実に態度に出てきている。

チアは絶対に1人では出来ない!
小柄な人も、体格の良い人も、背の高い人も、
それぞれが自分の特性を活かし、協力する事で初めて成り立つ。
それがチアの最大の魅力でもあり、ある意味弱点とも呼べる。

メンバーを固定化してしまうと、誰か休んだ時に、他のメンバーの練習が出来ないのだ。
もちろん代わりに入ってもらって、技術を練習する事は出来る。
ただ、そのメンバーで呼吸を合わせて作り上げるには、やはりそのメンバーで練習をするしかない。

人の上に人が乗るのだから、そして乗っているのも人なんだから、当然誰にでもクセがある。
今まで経験してきているスポーツの利き手、利き腕や利き足、過去の怪我等·····
練習しても本人ではカバーしきれない、僅かなクセ。
それを何度も同じメンバーで繰り返す事で、そのメンバーだけの最適なタイミングを見つける。
相性ももちろんあって、意外とメンタルがダイレクトに反映されるスポーツだと、個人的には思う。

STARSの位置づけはサークルだ。
活動日数も部活に比べたら半分以下。
それでも、STARSには目標があって、熱い想いで集まってきた仲間だし、全員が気持ちを1つにして協力し合わないと絶対に成り立たない、チアリーディングのチームだ!

このままみんなの気持ちがバラバラになれば
大きな怪我にも繋がってしまう·····

「みんな集合!!」
練習を途中で中断させた私のところに、みんなが不思議そうな顔で集まってくる。
今日、久しぶりに全員が揃った。
本当なら練習をしたかった。
だからこそ、今日言うことに決めた。

「ねえ、気づいてる?最近、練習の雰囲気が最悪過ぎる!
見てて本当に暗い。しんどい。
チアってさ、そんな苦しんでやるものだったっけ?」

私が何を言おうとしているのか、聞き逃すまいとみんな真剣にこちらを見ている。


「ねえ、みんなはなんでチアをやってるの?
チアをやらなくても、学生生活は送れるでしょ?
勉強だけしてても、友達と遊んでても、バイトしてても4年間は過ぎる。
でもさ、みんなはチアをやりたい!STARSに入りたいって思ったから、今ここにいるんだよね?」

1人1人の顔を見る。
みんなが、私の問いに思案顔になる。


「チアってさ、誰か1人欠けても、絶対完成しないんだよ?
ねえ、思い出して。自分達が目指してるのがどんなチームなのか?そのために、本当に今のままで良いのか?
もう1回、ここにいる全員で話し合って、自分たちなりの答えを出して!!その答えが出るまで、練習は中止!」

怒鳴りつける訳でもなく、叱る訳でもなく
あえて、彼らに投げかけた。
彼等なら、きっと自分達で答えが出せると思ったから·····

久しぶりに全員集まった今日、きっと練習したい想いでいっぱいだろう。だから、あえてこの日を選んだ。
みんなで作るという事がどういう事なのか?
TEAMとはなんなのか?
私が全員と言った真意に、気づいて欲しかった。


練習に来ていなかったメンバーも、来ないメンバーに不信感と憤りを感じながら練習に来続けていたメンバーにも、もちろんマネージャーにも
全員で考えて欲しかった·····
全部吐き出して前に進んで欲しかった。
ここでバラバラになるなら、どの道崩壊する·····

私は彼らを残し、マネージャーに何かあったら連絡するようにだけ伝え、更衣室に1人引きこもった。

「コーチ。私達なりに答えを出しました!来ていただけますか?」
マネージャーからLINEが届いた。
ほとんど終わりの時間、練習はもう出来ないだろうな

練習場所へ降りていくと
真剣な顔つきをしたメンバーが横一列に並んでいた。

「コーチ!すみませんでした!!!」
ゆうじの声を合図にみんなが謝りながら私に頭を下げる

すると、いつもは聞き役に回っているあるとが、次の言葉を繋ぐ。

「僕達、ちゃんと、みんなで気持ちぶつけ合いました!!STARSはサークルだけど、チアリーディングのチームで、俺たちにはゆうじの夢を叶えたいっていう目標と、それぞれにもチアをやって叶えたい目標がある。だから思ってる事はきちんと、例えば喧嘩しても良いから言いあって、みんなで前に進んで、ちゃんと絆を作っていけるチームになりたいです!!」

続けて、きょうへいが喋り出す。


「俺たちが心を1つにしないと。
お互いへの思いやりが無いと、チアリーディングは本当の意味では完成しない。誰か1人欠けても、それはチームじゃない。 コーチはいつもそう言っている。

その意味を改めて考えました。
その誰かは、演技をする俺らだけじゃない。いつも自分達の時間を俺たちに注いでくれるコーチや、マネージャー。俺らがSTARSの活動をすることを許してくれる家族や応援してくれる恋人や友人も含めて、みんなの事。
身近な人に思いやりを持てないチームは、絶対に成長しない!俺達は周りの人達に、常に思いやりが持てるチームになります!!」

そしてけんしが、本音を私に見せつつ、口を開く。


「正直、せっかく全員揃ったのに、なんでコーチは練習を中止したんだろうって最初は不満に思いました·····
でも、話し合って、みんなの言葉を聞いて、今チームがバラバラになりかけていたんだってわかりました。俺は、自分が上手くなる事に夢中で、周りが見えていなかった!!
チームは全員で作り上げていく!!
コーチやゆうじに頼りきるんじゃなくて、ちゃんと全員1人1人が周りを見て、思いや考えを言い合える!そういうチームになります!!」

普段はこういう時、ゆうじだけが私に思いを伝えてみんなは遠慮してしまう。
人数が増えて行くにつれ、いつの間にかそれが当たり前になってしまった。
初期メンバー全員が自分の想いを伝えた。
これも彼らなりに私の問いを受け止めて、考えた結果なのだろう

「わかった!みんなの想い、確かに受け止めました!!じゃあ、円陣組もう。もちろん、マネージャーも」

チームメンバーが、マネージャーを呼びに行く。
全員で円陣を組んだ。
全員いるのを確認し、1人1人を見回しながら想いを紡いで行く。

「1人じゃ乗り越えられないことも、TEAMでなら乗り越えられる!苦手な事を補いあって、得意な事を高めあえる。ただの仲良し集団じゃない、切磋琢磨していけるのがTEAMだと私は思う。」

メンバーの空気がとても熱く、良い緊張感に満ちている。みんなの目が、一斉に私を向いている。

「私達はTEAM、自分達はどんなTEAMになりたいのか?メンバーの心がバラバラになりそうになったり迷ったら、必ずここに戻ってこよう!!」

「「はい!!」」

誰かの合図があった訳じゃないのに全員の声が力強く帰ってきた。

私がメンバーの肩に置いていた手を下ろす。
それを合図に全員が同じ様に手を下ろし、みんながメンバーの顔を見ながら、前に進んでいく。

手を伸ばして重なる距離まで近づいていく。
私は前に手を伸ばす。全員の手が放射線状に伸びて中心だけが重なっている。

全員の手が重なったのを確認し、私はゆうじを見る。
全員がゆうじを見る。
ゆうじは力強く私にうなづく。

「俺たちはまたここから始めよう!俺達なら良いTEAMになれる!みんな、STARSに来てくれてありがとう!!」

ゆうじが大きく息を吸い込む音が響く
そしてTEAMの掛け声を叫ぶ

「321 GO ! STARS!!」

全員の声が重なり、その手は決意をもって上に突き上げられている。


これからイベントもある。私からのサプライズも、チーム初の夏合宿もある。
このタイミングで話し合うべきなのか、
それがコーチとして最善の決断なのか、実は結構迷った·····

でもみんなの笑顔が教えてくれる、今ここで話合った時間は、決して無駄ではないはずだと·····

これからもまだまだたくさん色んな事が待っているよ。でもその度にこうやって話あって乗り越えて行こう!きっと私達なら大丈夫!!

だって、私達はTEAMなんだから·····

END

#メモ魔
#過去のメモから生まれた小説
#前田裕二









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