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悪魔より怖いブラック・スワン


心温まる愛のお話し

――― セブンは生まれて間もなく、寒空の下に捨てられた。
しかし、セブンはラッキーだった。餓死寸前、凍死寸前で、心優しいアンドリューおじさんに拾われたからだ。

アンドリュ―は無類の子供好きだったのだ。
セブンはアンドリューの愛に包まれて、その後スクスクと育った。
食事はもちろんのこと、暖かな部屋まで与えられて、セブンは幸福感に浸った。のちに先輩のアンディから自身の出自を聞かされた時、セブンは涙を流してアンドリューに感謝した。

「なんていい人なんだ!」
同時にこうも思った。

「俺はラッキーだ。餓死寸前のところをアンドリューおじさんに拾われて助かったんだからな。もう何も怖いことはない。おじさんに寄り添っていれば、運命の女神は永遠に俺のものだ……」

ところが、翌年のクリスマスの朝、突然アンドリューが怖い顔をしてセブンの部屋へ入ってきた。そして「さぁ、くるんだ」と言ってセブンの首根っこをギュッと捉まえた。セブンは叫んだ。

「ア、アンドリューさん、何をするんですか?何かボクが悪いことでもしたんですか?」
 
するとアンドリューは鼻で笑いながら言った。

「何も……、要するにその時が来たってことさ!」

その夜、セブンは羽をむしられ、丸焼きにされて、アンドリュー家の食卓に乗っったのだった―――!

不運はいつも季節外れにやって来る!


もうお分かりだと思いますが、セブンは七面鳥です。七面鳥は、クリスマスには食べられる運命にあります。
そう、アンドリューがセブンを大切に育てたのは、肉付きをよくしてクリスマスに食べるためであって、決して慈悲心からではなかったのです。

もっともセブンはそんなことは知る由もありませんから、能天気に花提灯で暮らしていました。そして運命の日=クリスマスがやってきたのです。

この物語はイギリスの哲学者バートランド・ラッセルの話を、私なりに咀嚼して再構成したものですが、要するにラッセルは「不幸は予兆もなくやってくる!」ということを言いたかったのでしょう。

同じ目線で『ブラック・スワン』(ダイヤモンド社)という本を著したのが、マサチューセッツ大学アマースト校で学長専任教授として不確実性科学の研究をしていたナシーム・N・タレブ博士でした(肩書は2009年当時)。

タレブ博士によれば、ブラック・スワン(黒い白鳥)とは「ありえない事象」のことで、次の3つの特徴を備えているといいます。

①   まったく予測できない
②   やってきた時には非常に強い衝撃がある
③   いったん起こると、いかにもそれらしい理由がでっち上げられる……。

 
ちなみに、冒頭の説話に登場した「セブン」は私たち人間を差し、クリスマスはブラック・スワンを差します。

タレブ博士も述べているように、2001年にニューヨークで起きた同時多発テロ事件をいったい誰が予測できたでしょうか?また、2011年に発生した東日本大震災を誰が予測できたでしょうか。「能登地震にしてもそうです。まさにブラックスワンの到来としか言いようがありません。

このように、ブラック・スワンは背後から忍び足でやってきて、私たちに突然襲いかかるのです。その破壊力は凄まじく、計り知れないほどの衝撃と被害を私たちにもたらします。
 
私たち人間の悪いクセで、平穏な日々が続くと、つい、

「この世は愛と平和に満ちている……」

と考えがちですが、とんでもない誤解だと言わざるを得ません。
漠然とした不安は常に抱えてはいるものの、それでも、

「自分だけは大丈夫だろう……」、「最悪はやってこないだろう……」などと勝手い思い込むのが人間の常です。

特に平和ボケした私たち日本人はそれが顕著です。
しかし、クリスマスが確実にやってくるように、Xデーもいつか必ずやってきます。人間の経験や観察、知識が(科学でさえも)いかに脆弱で頼りないものであるかを私たちはもっと認識すべきです。


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