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あなたの肉筆

私たちはいつの間にか、
手紙を「手書き」をする機会をほとんど無くしている。
年賀状もスマホが普及する前から、
ワープロの普及とともにプリンターたよりとなり、
ついには年賀状そのものが次第に減少して来ている。

ましてやお正月の風物である「書き初め」など、
書道を嗜む一部の人々の儀式となり、
日本人としていささか寂しさを禁じ得ない。

着物を着て正座をして、
気持ちを引き締めて、太い毛筆を取り、
心を清らかにして、たった一言を半紙に書き初める。

そこにはきっと今年に向かう意気込みと覚悟が感じられ、
日本人の儀式であったはず。

だけどどんなに電子機器が発達し普及しようとも、
私たちには文字がある。

毛筆も半紙もなくても、
ペンと紙さえあれば、何か書くことができる。
ペンも紙もなかったとしても、
心に何かを刻むこともできる。

実は大学時代付き合っていた女性と、
その後ずっと賀状だけは交換し続けていて、
それ以上の連絡は一切していないのだけども、
賀状に書かれた彼女の肉筆の私の名前と、
一言だけ書かれた言葉の筆跡を見ると、
遠い昔の記憶と情熱が呼び起こされてしまう。

肉筆はそんな力を持っている。


あなたが、
お正月が開けてもなかなか大好きな人に会えないなら、
せめて左の掌を広げてそこに右の指先で、
想う人の名前を書いてみるといい。

掌の大きさは一文字書くのにちょうど良い大きさで、
想う人の名前を一文字ずつ書いてゆき、
そのあとで、例えば、
「会いたい」でも「大好き」でもいいから、
一文字ずつ書いてゆけばいい。

それは想う人に対する意気込みと覚悟が確かめられる、
立派な書き初め。

そして今年初めて会えて、交わることができた時、
愛しい人の大きな肉筆で、
あなたの素肌に存分に想いを書いてもらいなさい。

その肉筆はすぐに消えてしまうだろけど、
あなたの心にしっかりと刻まれるだろう。

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