【TXT】Quarter Life 歌詞の和訳と詩の解釈
前アルバムの「물수제비(Skipping Stones)」のショートバージョンが公開された時から、ハンリムズのユニットでまた曲を歌って欲しいなぁとひそかに願っていましたが、まさか今アルバム「Quarter Life」で実現するなんて。
そして「ACT: PROMISE」で初披露されたステージでの、ボムギュ、テヒョン、ヒュニンカイのあの青春感‼️ 心の叫びをそのまま体現したような彼らのパワフルだけど切ないヴォーカルとパフォーマンスに打ち震え、涙腺崩壊しそうになりながら観てました。
繰り返し「Quarter Life」を聴きながら、ハンリムズの歌声がこんなに好きな理由ってなんだろうと考えていたんですが、3人がそれぞれ語りかけてくれているような、励ましてくれてるような温かさも感じるからじゃないかと。
そんなクォーターライフの歌詞の世界へいざ! 例によって意訳をしている箇所がありますのでご了承ください。
※”ライ麦畑”からの深読み にて、肝心なことを書き忘れていたので追記しました(5/24)。
※記事の一部を修正・補足しました(5/22)。
Quarter Life
Produce: Krupa, Steve Manovski
Songwriting: Jordan Shaw, Sacha Fox, Steve Manovski, "hitman" bang, Chester Krupa Carbone, 황유빈, TAEHYUN, Danke, Ellie Suh(153/Joombas), SOOBIN, 나정아(153/Joombas)
MINOSODE:3 TOMORROW 収録(2024.4)
青春時代
僕の年頃について人は言う
四分の一ほど歩いた長いトンネル
先の見えない暗闇が続くのに
楽しい時期だと
輝く青春はあっという間だって
苦しいばかりで いいことなんて全然ない
ちっともハッピーなんかじゃない
この暗いトンネルに終わりなんてあるのかな
叫んでみてもこだまが響くだけ
どこに向かえばいいのか
戸惑う 助言に板挟み
心細くてひとり 残されたまま
前にも後ろに進めない quarter life crisis
出口もなく放りこまれた人生
終わりの見えないこの道で
毎日が 不安でいっぱいなんだ
前にも後ろに進めない quarter life crisis
Quarter life crisis
Quarter life crisis
言いたくないよ
辛くたって、まっぴらさ
人生詰んだとか、終わったとか
「オレは負け犬」なんて言う気はない
今が一番苦しい時期なのかもしれない
だけど、立ち止まらるのはもう終わりにしよう
どこに向かえばいいのか
わからないけど歩くんだ
今は少しばかり暗くったって
迷いながらも 持ちこたえるよ quarter life crisis
振り返らない、もう戻れないから
大人になるって本当はさ
決まった正解があるわけじゃないんでしょ
迷いながらも 見つけてみせるさ quarter life crisis
Quarter life crisis
Quarter life crisis
Quarter life crisis
迷いながらも 踏み越えてくよ quarter life crisis
どこに向かえばいいのか
わからないけど歩くんだ
今は少しばかり暗くったって
迷いながらも 切り開いていくよ quarter life crisis
Quarter Life とは
歌詞冒頭の a quarter life (青春時代)以外は訳しませんでしたが、↓レコーディング・ビハインドでヒュニンカイやテヒョンが話していたように、quarter life (クォーターライフ)とは、人生を約100年とし、その4分の1ほどを生きた20代半ばから30代半ばにかけての頃を言うそう。そして quarter life crisis (クォーターライフ・クライシス)とは、ちょうどその 頃に訪れる人生の低迷期のこと。
※Quarter Life のレコーディング・ビハインドからクリップしています。
このクォーターライフが西洋式の呼び方なら、東洋にも同じような考えで、人生を四季に例える五行思想というものがあります。こちらは20~40歳までを青春(15~29歳までを青春とする説もあります)とし、それまでの年齢を玄冬と呼ぶのが面白いですね。青春期の後には、朱夏(中年期)、白秋(老年期)が続きます。
青春の「青」は再生や芽吹きを示す青緑で、玄冬の玄は、原初の混沌の色「玄」=赤や黄みを含んだ深みのある黒色を指すのだとか。アルバム「THE CHAOS CHAPTER: FREEZE」(混沌の章)は、アルバムロゴの背景色が黒でしたが、もしからしたらそれが理由だったのかもしれませんね。
そういえば、今アルバムのロゴカラーは「朱夏」の燃えるような赤へ近づきつつあるオレンジ。TOMORROWの考察記事で、アルバム「Star」に収録された 「Blue Orangeade」 の意味がブルーとオレンジの救い的なものではないかとで書きましたが、ひょっとしたら、悩み多き青の時代から大人へ向かうオレンジの時代のはざまを示していたのかも。
どこに向かえばいいのか
─まるで出口の見えない長いトンネルに投げ出されたよう。先行きは不透明で、答えも見つけられなくて、どこに向かえばいいのかわからない─
人生で誰もが一度は通る道、こんな風に思い悩む時期があると思います。
そんな時、往々にして大人たちのアドバイスは、自分の気持ちや夢を真っ向から否定するものだったり。あるいは、心の翼をもがれるような辛い出来事に直面して落ち込んでいる時に、まわりからは前を見て進むように促されて戸惑うことだってあるかもしれません。
「어디로 가야하는 건데/답이 없는 참견 사이에(直訳:どこ(か)に行くべき だけど/答えがない干渉の はざまに)」は、そんな心情を思い浮かべながらここでは「どこに向かえばいいのか/戸惑う助言に板挟み」と訳しました。
ところで、답이 없는(原形:답이 없다)の「(直訳)答えがない」の意味には、①返事が返ってこない、②(解決しようがなくて)答えがない、不可能だのふたつの意味があります。
前後の文脈からは、曲の主人公が自分の迷いを払拭する方法がわからない(自分の答えが自分自身に返ってこない)、周囲の助言が自分の思いと対立するのでどうしたらいいのかわからない。そのどちらの意味も含めて、逡巡しているように思えます。
それでも前に進む勇気
明日を見つめて
曲の後半では、吹っ切れたように「もう立ち止まるのはやめよう」と前に進むことを決意しています。前半の苦悩からそこに至るまでに何があったのかは語られていませんが、おそらく苦悩と決意の間に、「I'll See You There Tomorrow」や「Miracle」のストーリーがあったのではないでしょうか。
そこでは、心の痛みや現実逃避にとらわれて先に進むことのできなかった主人公が、君との再会の約束=たいせつなことを思い出し、悲しみはもう要らない、君と一緒に明日という奇跡へ進むのが待ち遠しいよと、希望を見出していきます。
このストーリーはどこか、映画『明日への地図を探して』(原題:The Map of Tiny Perfect Things)も彷彿とさせます。物語は、同じ1日を何度も繰り返してしまい、タイムループから抜け出せない青年マークが、やはり同じようにタイムループに囚われてしまったマーガレットと出会い、そこから、ふたりで小さな奇跡のかけらを集めて脱出方法を探すうちに、お互いに惹かれ合っていくというもの。
今アルバムのコンセプト「Ethereal」をはじめ、アルバムジャケット、コンサートの衣装、また7月にリリースされる「誓い」にも、キーアイテムとして翼のモチーフがたくさん使われていますが、映画の中では、この翼のモチーフが、マーガレットの心情を読み解くカギとしても描かれていたように思いました。
君を見捨てない
さて。今アルバムには他にも盛りだくさんのストーリーが背景のモチーフとして織りこまれているのですが、なかでも忘れてならないのが、J.D.サリンジャーの小説『ライ麦畑でつかまえて』です。
物語では16歳の主人公ホールデンが、インチキでいっぱいの世の中に反発し、放浪を重ねるうちにいっそう孤独を深め、妹との対話のなかで、子どもたちがライ麦畑の崖から落ちそうになったら(人生から転落しそうになったら)つかまえてあげられる人になりたいと話しています。
まさに、「I'll See You There Tomorrow 」の歌詞や、「Deja Vu」のMV最後でヨンジュンの手をつかむボムギュの姿にも重なっていきますよね。
アルバムのコンセプト「Light」や楽曲「I'll See You There Tomorrow」の歌詞に(星の王子さまの)麦畑が引用されたこと、ロミオとジュリエット(※)もイメージさせるコンセプト「Romantic」も、「ライ麦畑~」を仄めかしていたように思いますし、トゥバたちも Weverse などでそれとなく沢山、ネタバレしてくれていたように感じました。
さらに。アルバム2番目の曲「Tomorrow」がモールス信号のみだったことや「Deja Vu」に「廃墟の中の morse code(モールス信号)」の歌詞があることも、小説には”モーリス”という人物も出てくることから、morse に隠された秘密のひとつが「ライ麦畑~」だと暗示していたのではないかと。
とは言え、「ライ麦畑~」の暗示はすでに、アルバム「ETERNITY」のコンセプト「PORT」で、ボムギュの画像に並ぶ二桁の数字の暗号に隠されていたので、MVを見て気づいた方も多かったのではないでしょうか。
◇
さて。ここでもうひとつ気になるのが、昨夏ジョナス・ブラザーズとコラボした楽曲「Do It Like That 」にあった「You're the cover of a magazine/Got me feelin' like, "Damn", hey(君はまるで雑誌モデルみたいだ/僕を感嘆させる)」の歌詞です。
"Damn" は、どちらかと言えば「ちくしょう」などのネガティブな意味で使われることが多いですし、このフレーズは、映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』で、サリンジャーが自分の顔を表紙に使われて怒っていた場面を仄めかしていたんじゃないかと思いました。
これらのヒントからは、どうも「ライ麦畑~」とつながる他のモチーフにももっと気がついて!と促されていたような気がするのです。
”ライ麦畑”からの深読み
と言っても、ここから書くことはただの深読みしすぎで、大いなる勘違いの可能性もあり…なので、こんな解釈をする人もいるのね、ぐらいの気持ちで読んでいただければと思います。
小説「ライ麦畑~」からの、伝記映画「~ひとりぼっちのサリンジャー」への繋がり。そこから数珠つなぎに連想を広げてみると─ 。映画「~ひとりぼっちのサリンジャー」の中で描かれた、サリンジャーの他の作品といえば、短編小説『バナナフィッシュにうってつけの日』です。
さらに。バナナフィッシュと言えば、吉田秋生によるコミック・アニメ作品『BANANA FISH』も欠かせません。ここでの「バナナ・フィッシュ」も、サリンジャーのそれが元ネタであるように、ストーリーを追うごとに自我を崩壊させる薬物だったことが明らかにされてゆきます。
そしてここからが核心なのですが、BANANA FISH の主人公アッシュ・リンクスは、キアヌ・リーブスやジョニー・デップとも親交の深かった俳優、リヴァー・フェニックスがモデルになっています。
少年たちの冒険を描いた青春映画『スタンド・バイ・ミー』で仲間たちのリーダー、クリスを演じたのが、まだ10代だった頃のリヴァー・フェニックス。その後、23歳という若さで命を落としてしまった美しき青年の波乱万丈な人生から触発されたストーリー(フィクション)が、 BANANA FISH だったのですね。
おそらく、トゥバの物語も、アリスをベースにしつつ、リヴァー・フェニックスからインスパイアされたストーリーでもあるのではないでしょうか。
そうかもしれないと最初に気づいたヒントが『Dark Blood』です。これはリヴァー・フェニックスが最後に出演した映画の作品名で、トゥバの後輩グループ ENHYPEN のアルバム名のひとつでもあります。そういえば GBGB のパフォーマンスでヨンジュンが魅せた不気味な笑顔は、弟ホアキン・フェニックスが演じた『ジョーカー』のそれをも彷彿とさせるものでした。
また Quarter Life の歌詞にある「今が一番苦しい時期」は、英語のbottom (底) ⇒リヴァー・フェニックスの旧姓ボトムを思わせますし、これまで、MVや楽曲などで80~90年代を中心に古き時代へのオマージュが示唆されたことも、彼の育ってきた年代を暗示していたのではと…点と線が色々つながってゆくような。
そして、遺作となったその映画「Dark Blood」の中で彼は、「ボーイ」と呼ばれる名もなき少年を演じていたのです。
「Name Chapter」と「TOMORROW」のアルバム背表紙をすべて合わせると浮き掘りになるフレーズ「memores mei nominis(私の名前を思い出して)」は”リヴァー・フェニックスを思い出して” の意味もあったのではないかと。
というのも、コンサート「ACT: PROMISE」 のステージで彼らが来ていたスカジャンの背中には翼が描かれていて、地色のブルーがリヴァー(川)、翼は不死鳥フェニックスの翼も表していたかのように思えましたし、セットリストもどこか、あまりにも数奇な運命を辿ったリヴァー・フェニックスへのリスペクトが込められているようにも感じたのは、気のせいでしょうか。
復活祭イースターのさなかに今アルバムがリリースされた理由のひとつが、BigHit はこの物語を通じて、伝説の英才が不死鳥として蘇ったかのように、この世界に美しく羽ばたくことを願って、トゥバたちを世に送り出してくれたんじゃないかなぁと。
誰よりもカッコよくて美しくて、楽曲はどれもクオリティーが高くて何より歌もパフォーマンスも本当に素晴らしい実力派だと思うし、ファンに惜しみない愛情をいつもたくさん注いでくれる愛すべきトゥバちゃんたち。
世界でもっともっと羽ばたいていって欲しいと切に願う今日この頃です。
リヴァー・フェニックスとトゥバの物語に関しては他にも書きたいことがたくさんあったのですが、すでにここ迄でかなりの長文になってしまったため、断念して最後に、先日公開されたボムギュのキュートなカバー『好きだから』を添えて記事を終わりにしたいと思います。
最後まで読んでくださり、どうもありがとうございました。