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『ヘレの海底都市計画』7/10点 操作・ゲームシステムに課題も魅力的なキャラクター・世界観

こんにちは。青井アオです。
本日は、2023/10/6にGameProjectNandT様から発売された「ヘレの海底都市計画 ~箱庭に空気を植えるSLG~」をレビューさせていただきます。

総合評価は7/10点。
点数の基準は以下の通りです。

基準としては「知り合いが買おうとしていた際に止めはしないが勧めもしない」程度のゲームを5/10点とし、より勧められると思えば点を増やし、止めようと思うほど減点していきます。
おそらく一般的なレビューよりは辛めな数字になってしまうかと思いますし、思いっきり主観しかない採点法ですが、ご容赦ください。

青井アオのゲームレビュー「ごあいさつ」https://note.com/aoao_gamereview/n/ne806d4bf3961

基本的には配慮して執筆していますが、性質上多少のネタバレが含まれる場合があります。こちらもご了承下さい。

以下、常体で進めていきます。



ゲーム概要

『ひとりぼっちの少女』ヘレと海底都市の再建を目指す『ヘレの海底都市計画 ~箱庭に空気を植えるSLG~』空気で土地を育てて拡げる!新感覚の海底街づくりシミュレーションゲーム!

steamストアページ(https://store.steampowered.com/app/2502940/_SLG/)より引用

まずはゲームの大まかな説明から。

「ヘレの海底都市計画」は謎の少女「鯨津見ヘレ」と共に、エアー(空気)・資金・小麦などの資源を管理しつつ海底都市「ガーデン」の街作りを行っていくゲームだ。

プレイヤーは冒頭で謎の人物から、かつて自分が管理していた海底都市「ガーデン」復興のため鯨津見ヘレという少女を手助けして欲しいと頼まれる。
ガーデンは150年に一度行われる「遷宮」のため住民が居なくなってしまったが、その復興を「灰の世代」と呼ばれる存在によって妨害されているそうだ。

主人公が都市で活動するために謎の人物から与えられたヒツジのぬいぐるみ。かわいい。


依頼を快諾した主人公は都市に向かい、銀髪青眼でセーラー服を着た少女、鯨津見ヘレと出会う。

ゲーム好きのヘレちゃん。かわいすぎる。

ガーデンは以前、プレイヤーこと「ヒツジ」を送り込んだ「先輩」久治良ヨナによって管理されていた。先輩が居なくなってからはヘレが管理して復興しようとしていたが、一人では上手くいかず悩んでいたところにヒツジが送り込まれ、二人で復興を開始することになる。

ゲーム開始時のガーデン。ヘレの住む天文台と一軒の雑貨屋、一つのミラの花しか存在しない。

復興で大事なものは各種資源の管理、特に大事なのは「エアー」と呼ばれる資源だ。ガーデンは海底都市であるためどんな活動をする時にも空気が必要であり、エアーは「ミラの花」によって生産されるため、街の各地がエアーで満たされていくように花を植えていかなければならない。
二人はエアーの管理に気を配りながら、住民を呼ぶ「住居」、資源を集める「生産施設」、資源を利用して資金を得る「加工施設」、住民が買い物をすることで資金を得る「商業施設」の4種類の施設を建設していき、街を発展させていく。

必要なのは街の管理だけではない。二人(と、後に現れるもう一人の少女)は時に、新しい建築物のレシピやまだ見ぬオーパーツを求め、海底の「探索」に出かけることになる。

探検中は外敵とも遭遇する。

探索には大量のエアーと資金が必要になる。このエアーと資金は街を開発させていくことによって得られるが、探索によって新たな建築物のレシピを開発することでストーリーが進行していくため、ゲームシステム的には街の開発は探索のために行うものと言ってもいいだろう。

その後、「ベントス底生工業」の若き社長「汐見ナギサ」と出会ったり――

探索を進めて新たなエリアを開放したりしながら――

次第に街を発展させ、最終的にはガーデンの復興を妨害しようとする「灰の世代」と対峙することになる。

ゲームクリアまでは4~5時間ほど。
実績には一つかなり長時間のプレイが必要となるものがあるため全実績達成は長くなりそうだが、それ以外の実績は+1~2時間ほどで達成できるのではないだろうか。

それでは以下、早速レビューに移ろうと思う。

評価点

魅力的なキャラクター・世界観

本ゲーム最大の魅力は物語上の実質的な主人公である少女「鯨津見ヘレ」のかわいらしさだろう。

ゲーム開始時、ヘレは一人での街の復興に行き詰まってサボっている。

ヘレは秀逸なキャラクターデザインや立ち絵、ドット絵のかわいらしさもさることながら、その人間性と成長過程も魅力的だ。
開始時には都市復興に行き詰まり、自信も失っていた彼女だが、プレイヤーの助けを得て復興を進めていくうちに徐々に独り立ちしていく。一方でその裏には先輩ことヨナを失った傷が残っており、終盤では大きな挫折を経験し、それを乗り越える過程が描かれる。
この過程で提示されるヘレの人間的成長と少女の魅力は、本ゲームをプレイする上で間違いなく大きな動機となるだろう。

また魅力的なのはキャラクターだけではない。
各種グラフィックやサウンドは「海底都市」という本作のテーマに非常にマッチしており、特に各種建造物のデザインは独創的ながらもハイクオリティで、それだけでもプレイする価値があると言える。

色鮮やかな建物やミラの花は、何も考えずに並べるだけでも絵になる美しさ。
探索ポイントのフレーバーテキストは想像力を掻き立てる。


都市開発そのものの心地よさ

「都市開発」というジャンル自体は昔から非常に人気があり、愛好家も多い。自分はそこまで特別に好きというわけではないが、「Cities: Skylines」や「Tropico」などはプレイしたことがあり、「Frostpunk」には一時期かなりハマっていたこともある。

もちろんこれら都市開発ゲームの名作たちには様々な特徴や独自性のあるシステム、長所があり、一括りにまとめるのは難しい。しかし共通する魅力として初め寂しかった都市が次第に活気を持っていく過程自体の持つ純粋な楽しさというものがあるだろう。

本ゲームもまた過去の同ジャンル作品の例に漏れず、都市開発ゲームの持つこの魅力を十分に備えていると言える。
初めは2つの建造物と1つのミラの花しかなく、住人もヘレとプレイヤーの二人のみだったガーデン。それが次第に発展していき、街中が建造物と道路で埋まっていく過程には根源的な楽しみがあり、一度プレイを開始してしまえばそのままクリアまで駆け抜けてしまう誘引力を持っている。

クリア時には人口もこんなに増えた。


気になる点

絶妙に悪い操作性

一つ目の気になる点は操作性の課題だ。

本作はクオータービューのグリッド制を採用しているため、建造物の建築、撤去、レベルアップ、情報の確認など様々な場面でグリッドを選択する必要がある。しかし残念ながら本作において、この「グリッドを選択する」という行為の操作性があまり良くないと言わざるを得ない。
というのもグリッドを選択する際、「マウスカーソルで直接グリッドを選択する」のではなく、「既に存在している選択範囲をマウスで動かす」という操作を要求されており(画面上を指で操作してプレイヤーを直接動かすタイプのスマホゲームを想像してもらえれば良い)全く直感的でない

そしてこの操作は序盤から終盤まで常に必要であるため、ゲームプレイを通して常にこの操作性によるストレスが付きまとってしまうことになる。

また本作の操作はマウスクリックで全て行うことができるのだが、一部動作にはキーボード操作のできるショートカットが設定されている。それ自体は便利なのだが、ここに設定されているキーが微妙に一般的でないことも操作性という面でマイナスに働いている。

痒い所に手の届かないシステム

次に気になるのはシステム上の問題点だ。
本作のシステムは様々な所で「あと一歩足りない」という点を感じることが非常に多い。

例を一つ挙げよう。
先に述べた通り、本作はエアー・資金・小麦・木材・鉱石の5種類の資源を管理しながら都市を開発していくゲームだ。
とはいえ、資源管理自体は今作において大きな問題とはならない。序盤こそ多少各種資源の収支を意識して建設を行っていく必要があるが、一定以上開発が進めばエアーと資金に関してはまずマイナスになることはないし、他の資源についてもあまり考えずに大雑把に建設していって問題は生じない(というより、後述の要素のため必然的に大雑把になる)。

そんな本作において唯一開発の制限になるのが「住民数」だ。
というのも、住民を増やすことのできる建造物「住居」にはエリア数ごとに建造数制限があり(ミラの花にも制限があるが、こちらは序盤以降上限まで必要となることはない)一定以上は住民を増やせないようになっている。

各種建造物は住民が運用することで生産物を発生させることができるため、いくら建造物を建てても運用することができない。
すなわち住居の数と他の建造物の数とのバランスを考えて建設を進めていかなければいけないのだが、本作においてはプレイ中、各建造物の数を一括で確認することは一切できない。すなわち建造物の数を数える場合、目視で一つ一つ確認する必要がある。序盤なら可能だが終盤ではとても現実的でなく、結果としてプレイはかなり大雑把にならざるを得ないだろう(大雑把でも特に問題なくクリアできてしまうバランスではあるのだが)。

もう一つの例は建造物のレベルアップ周りのシステムだ。

今作の多くの建造物には「レベル」が設定されており、資材を用いてレベルアップを行い資源の生産量を増加させることができる。
エアーを産生するミラの花や、建造できる場所に限りのある資材を直接産生する生産施設に関しては、生産量の都合上このレベルアップは必須となっている。

しかし、本作の建造物のレベルアップは直接建造物を選択し、レベルアップさせることでしかできず、またレベルアップしても建物の外見は変化しないためレベルを確認するには毎回建造物をクリックして情報を見なければならない。さらに初めに建造するときにレベルを選択することができないということもあり、レベルアップ周りの操作はかなり面倒と言わざるを得ない。

他にも「住民の行動範囲が表示されない」「建物の回転が2方向にしかできない」など、細かな所で痒い所に手の届かないシステムが多い。一つ一つはそこまで気にならず、(難易度もあり)ゲームの進行に影響が出るわけではないのだが、累積してくるとどうしても気になってしまうのは否めない。

探索パートの冗長さ

先に述べた通り、本作は都市開発のほか、都市開発で得たエアーと資金を投入して行う「探索」パートがある。しかしこの探索パートに関しては、都市開発と比較して魅力に劣る面が隠せない。

探索パートでは、まずエアーと資金を利用して準備をする。その後、各ステージに応じて決められた回数三択の道を選択、その結果に応じて敵と戦闘したり、アイテムを獲得したり、アクシデントに遭遇したりすることになり、全ての回数をこなした後で体力とエアーが残っていればクリアとなる。

だがこの「アイテムの獲得」というのが曲者だ。獲得できるアイテムには「建造物のレシピ」と「特に効果のない収集要素」があるのだが、このうち前者に関してはストーリーの進行条件になっていたり、そもそも必須級(ミラの花のバリエーションなど)だったりとしっかりと集める必要がある。
しかしこのアイテムの獲得、しっかりと検証できているわけではないが完全にランダムなため、目当てのアイテムを手に入れるために何度も同じステージをプレイする必要がある(場合が多い)。

そもそもアイテムを入手できるかどうかもランダム(準備を行うことで確率を上げることはできるが)な上、アイテムを入手してもその種類がランダムなため、一つの海域でのアイテムの種類がそれほど多くはないとはいえ、総合的には毎回地味にかなりの回数が必要になってしまう。

そして、正直なところ探索パートはこの回数をこなすのに耐えうる娯楽性を持っているとは言い難い。
せっかく各ステージにフレーバーテキストがあるのに、各ステージで背景が同じで、発生するアクシデントも全く同じ。違いは登場する敵とアイテムだけで、戦闘にもバリエーションがあるわけではないため、プレイ体験としては全く変わらない
収集要素のみのアイテムにしても特にフレーバーテキスト等はなく、ただ集めることだけが目的となっているため、積極的に集めようという気には残念ながらならない。

メイン要素ではないため仕方ないのだが、全体的に見て都市計画パートに比べて作り込みが甘いと言わざるを得ないだろう。

ゲームプレイと結びつかないシナリオ

本作には都市開発ゲームにしては珍しく、しっかりとしたシナリオがある。これは評価点の時にも述べたようにキャラクターの魅力に繋がっており、本作の評価点でもあるのだが、一方で問題点も同時に孕んでいる。それはシナリオの展開がゲームの展開と全く一致していないという点だ。

ゲーム開始時、プレイヤーは前述したような展開でヘレと出会う。そしてシナリオパートが終わると、そのまま何の説明もなく下の画面に放り出されてしまう

概要でも提示した画像の再掲。誇張なく、何の説明もなくこの画面になる。

チュートリアルの動画自体はタイトル画面の目立つ所から見ることができたため、おそらく本編にチュートリアルは含まれないのだろうな、と予め視聴こそしておいたものの、シナリオで話されていた内容とは全く関係のない右上の目標提示以外になんの説明もなくこの画面に取り残されてしまったためかなり面食らってしまった。

その後のシナリオ展開に関しても、前述の遠り探索で特定の建築物のレシピを手に入れ、これを研究することで解放されていくのだが、この建築物とシナリオの進行には全く関連がない
ネタバレになるため深くは言及しないが、シナリオ後半で街はある危機に襲われる。しかし、この危機も都市開発パートには全く反映されないため、自分の行っている操作とシナリオが結びつかず、いまいち入り込むことができなかった。

また、これに関しては賛否両論となるであろうために評価点としても気になる点としても挙げなかったが、本作のシナリオからは「ブルーアーカイブ」の影響を多分に受けているであろうことが強く伺える。
物語の導入、プレイヤーキャラクターの喋り方、敵キャラクターの造形、終盤の物語の締め方に至るまで影響が感じられてしまうため、正直なところそれが気になってしまい集中できなかったという面もある。
もっとも、ブルーアーカイブをプレイしたことがなければ問題なく楽しめると思うので、なんとも言えないのだが……。

総評

以上で本作の評価点、気になる点を列挙した。

本作は「世界観の魅力」や「体験しているときの感覚」など、「プレイヤー自身の主観的体験」自体に魅力がある一方で、気になる点としては具体的に記述できてしまう現実的なゲームシステム面に課題を抱えているため、それぞれを記述しようとするとどうしても具体的に描写できる後者に記述が偏ってしまった。
そのため、一見このレビューを読むだけでは、あまり評価できない作品なのだろうか? という印象を受けてしまうかもしれない。しかし、それは断じて違うと主張しておきたい。

本作をプレイしている時には確実に楽しんでプレイをできていたし、4~5時間程度とはいえ最初から最後までまとまった時間を集中できていたことは、本作のゲーム体験の魅力を十分に表していると言える。なにより、鯨津見ヘレというキャラクターの魅力は本作の抱える問題点を補って余りあると言えるだろう。

そもそも本作は大手開発ではなく、値段を考えても大手開発のゲームと比較してシステム面での詰めの甘さがあるのはある程度仕方がないという側面はある。

総じて、ストアページを見た際の世界観、サウンド、グラフィック、そしてなにより鯨津見ヘレというキャラクターに魅力を感じた人であれば購入して間違いはない良作と評価して本レビューを締めさせて頂きたい。


次回は「Astrea: Six-Sided Oracles」をレビューさせて頂きます。

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