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美しい光景を見た


20才のときに、
16才~18才の高校生12人を引率して、3週間ほどメキシコへ行った。
国際的な組織の日本代表として参加する大規模なセッションだった。

引率者がいないために派遣が中止になると聞いて、
いてもたってもいられず志願した。
わたしも高校生のときに、同じ組織の派遣で、
イギリスに2週間ほど行かせてもらったことがあった。
だから、若者(わたしも十分に若かったけれど 笑)の希望を、
引率者がいないという大人の都合で、潰してしまうのは
もったいないし、あってはならないと思った。

こういうときのわたしは、どこからそんなエネルギーが湧いてくるのか、
自分でもまったくわからない。
ただただ、何かに突き動かされる、としか言いようがない。
いつもあとから考えて、
「よくそんなことしたな…」「本当にわたしがしたのかな」と驚く。

そして、その派遣を送った組織は、当然ながら20才そこそこのわたしに
12人の少女の命を預けることは憚られ、
わたしとその12人の少女たちの「母」としての存在となる、
素晴らしい女性をサポート役につけてくれた。
その女性が、のちに、わたしにとって実の母よりも母のような存在となる。
当時、その母は、いまのわたしの年齢。
高校生たちからは「はは~」と親しみを込めて呼ばれていた。
いまのわたしが思うと、母もこんなに若かったんだ…と、なんだか不思議な気分。

メキシコシティに数泊、そこからバスで南へ移動して、
モレロス州クエルナバカというところに滞在した。
滞在先は、きちんと囲われた敷地内で、設備もとても整っていて、
何不自由なく国際交流を楽しんだ。
毎日が新しい発見や学びに溢れていて、
スタッフはみんな親切で明るくて喜びや愛に満ち溢れていた。

ときには、小旅行に行ったり、
敷地から外へ散歩したりすることもあった。
そんなある夕暮れ時。
高い生垣の横をてくてくのんびり歩いていると、
ふわり…ふわり…とぼんやりとした小さくて明るいものが舞っていた。
ずっと続く生垣のまわりを、ふわり…ふわり…
よーくよーく見てみると、
それは、ほたるだった。
たくさんの光が、ゆらりゆらりと舞っていた。

きっと生垣の向こうに清らかな水源があったのだろう。
暮れゆく空と、濃い緑の生垣と、ぼんやり光って大きく舞うほたるに、
わたしは息が止まるほどに感動していた。
生まれて初めて出会うほたるだった。

あれから20年以上経ったいまも、メキシコの思い出としてよみがえるのは、
あの幻想的なほたるの舞い。

たくさんの素晴らしい思い出があったけれど、
どきどきもわくわくもたくさんあったけれども、
何かに突き動かされてメキシコまで行った20才のわたしが見た、
あの静かで、幻想的なほたるの光景は、
いまでも記憶の奥底に色褪せないで残っている。



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