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美しいものを見た。

外での仕事を終えて帰宅した夕方。
もうすぐ娘の帰ってくる時間。
ごはんの支度やあれやこれや気持ちは焦るものの、
優先順位がつけられない。

そうだ、お蚕さん、葉っぱまだあるかな?
と思い、そばに寄って見てみると、
食べ尽くして、残っているのは乾燥した葉脈ばかり。

みんな元気かな〜と、なんとなく全体を見てみる。

すると、見慣れない様子が目に飛び込んできた。
ひとりのコ。

普通ならば、葉っぱをいっぱい食べて体の外見こそ白いけれども、
うっすら感じる中身は濃い緑を通り越して、黒っぽい。

それなのに、そのコは、
なんだか透けている!
光を帯びて、黄色っぽい透明な色をしている。

なんだ??なんだこれは??

よく、よーく見ても、やっぱり光を帯びたように透けている。

ふと視界を広げて見たら、あっちの端とこっちの端で、
繭を作り始める準備をしているコたち。


あ!!!!
いよいよなんだ!!!

そのコたちもよくみると、カラダが黄透明な色をしている。
なんと美しい色なんだろう。
こんなの見たことがない。
カラダが絹のもとで満たされている、そんな輝き。
その神秘に、心がふるえた。
その時が来たことをただ受け入れ、変化し、次へと進む。


その夜は、繭が気になり過ぎて、よく眠れなかった。


翌朝、真っ先に繭の様子を見た。
3頭が繭作りを始めていた。
すでに2頭は薄い繭に包まれている。
あとからの1頭はようやく場所が定まって、
自分の覆いを作り始めているところだった。

お蚕さんは、繭を纏うとき、自分の口から、
レムニスカートを描きながら繭をはく、と以前聞いた。

レムニスカートとは、
8の字、無限大(∞)のかたち。

そのはなしを聞いたとき、とてもとても驚いた。
そして今、実際、目の前に繭を作っているお蚕さんたちがいる。
じーっと見つめてみる。

それは本当に、本当に、そうだった。


あまりにも尊いものを見た。
魂がふるえる。
涙が込み上げてくる。
纏いはじめた繭の中、
ひとりで、
∞を紡いでいく姿。
永遠を紡いでいく姿。

自分の身を絹とする。
自分の身を守る覆いを作る。
誰が教えてくれたわけでもないだろう。
でも、知っている、その生きる道を、
ひとりで、ひたすらに目の前だけを見て。

そのカラダは黄色い輝きが凝縮されたように、
あまりにも神々しい。
神秘としか言えない。

魂がふるえた。

天の使い、という形容詞以上に、
今目の前に在る姿以外には、
その存在を表すものはない、
そう感じた。





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