小説【むき出し】著者:兼近大樹さん

人生は誰と出会うかだと思う。
関わる人や環境で考え方や興味、人格が変わり、この先の人生に影響するのではないだろうか。

この小説に出てくる石山という人物は、ガキ大将でありいたずらっ子であり、犯罪者になっていく。表部分だけを見れば悪者だ。
けれど、ただ悪者という扱いでいいのだろうか。

悪と評される人に対してなぜそうなってしまったのか、どんな人生を歩んでいたのかを知り、社会として改善していくべきなのではないだろうか。

例えば、石山は決して裕福とは言えない家庭で育った。そんな家庭環境を引き合いに出して、存在価値の上下を決めつけるような言葉を大人から浴びた。
学校で揉めごとが起きると、自分はやっていないのに先生から犯人扱いされた。
あるときは友達も共犯だったはずなのに、自分だけが責められた。

「なんでわかってくれないんだ」「くそ」そんなイラだちと哀しみが混じった感情と、自分ではどうしようもない環境が苦しく思った。

小学生のころ、普段帰れない姉と下校できるとなり、友達と帰るのを断ったことがある。
帰宅後、断った友達の母親から子どもが泣いて帰ってきたという電話がかかってきた。母親からは注意を受け、家まで謝りに行った。
ただ姉と2人で帰りたい純粋な気持ちだったのに、味方になってくれる大人はいない。なんで私が責められるんだという哀しさと悔しさ、そして抗えないことにモヤモヤした記憶が、石山の幼少期と重なった。

また、石山は『母は全くご飯を作ってくれていないといつも思っていて、いつからか本当にそう錯覚してたけど(中略)仕事で忙しい中でも、お金がなくてご飯が買えない時も、母は、しっかり母をやっていた』ことに気づく。

私が、母が母であったことに気づいたのは成人してからだ。
母はどんなときも、仕事と子育てをこなしていてくれたことを理解した。ちゃんと私の親であろうと頑張ってくれていたのだ。それなのに、いつからかうまくいかないことは親のせいにして八つ当たりしていた。
もしかしたら、自分の居場所をつくるためにもがいていたのかもしれない。


パリピ漫才という芸風でありながら、実は真面目というギャップが好印象だった。

兼近大樹さんは、お笑い芸人EXITのメンバーで第7世代のお笑い芸人として人気を博していた。

そんなときに飛び込んできた逮捕歴のニュース。

驚いたのは私だけではなかっただろう。けれど私は、なぜ逮捕されなければいけなかったのか知りたいと思った。この小説を手に取ったのも、兼近大樹という人物の過去に何があったのか、そして心の内を知れるのではないかと思ったからだ。ただしあくまで小説であり、どこまでが事実かはわからないし、兼近大樹という人間を全て理解したとは思わない。

過去の私だって、人を傷つけ傷つけられながら理不尽な環境と戦っていた。けれど道を誤らなかったのは、悲しませてはダメだと思える大切な人が周りにいたからであり、そういう環境にいなかったからだと思う。

石山という男が生きてきた中で、「こっちおいでよ」「そっちじゃないよ」と手を差し伸べる大人や仲間がいれば、違う人生を送れていたかもしれない。
小説の中だけでなく現実世界にも、悪の道へ踏み外す落とし穴はいくつもある。だから悪の道へ落ちる前に周りが教え、手を差し伸べる。批判する前に一度立ち止まって、できることを考えてみる。そうして救われる人が1人でも増えてほしいと強く願わずにはいられなかった。

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