見出し画像

電球問答

 入浴しながら漫画を読んでいたら、突如浴室の電気が落ちてびっくりした。停電か!?と思ったけれど、浴室の外から灯りが漏れてきていたことに気がついた。五秒くらい考えて、ああ電球切れか、と気づいた。ここに入居してから数年経つが、そういえば電球を替えたことがあるのは洗面台のみで、他は替えたことがなかった。
 電球を替えるのはとても億劫だ。洗面台のときは、電球を替えるまで二週間ほどのスパンが開いた。一つの工程につきいちいち重たい腰を上げなければならないのだ。
 まず電球カバーを外すまでに一週間ほど要する。そこで初めてどの電球を買うべきか調べ、Amazonで注文し、発送を待つ。どんなに遅くとも三日もすれば届いてしまう。届いてすぐは開封せず、ひとまず玄関に放置しておく。
 Amazonの茶色の封筒もしくはダンボール箱が玄関に馴染んだ頃、諦めて開封する。電球も箱に包まれているが、これにはすぐに手をつける。そこからは早い。レジェンドサーファーよろしく簡単そうに波に乗り、電球カバーを開け、電球の説明通りに装着する。箱を開封し、電球を装着するまでは五分とかからない。
 電球切れの二週間は、他の電気をつけてやり過ごした。キッチンの灯りをつければ洗面台にまで何とか光が届いたし、案外それで事足りるものだ。
 
 今回もそうなる予定だ。ここ数日は、脱衣所の電気をつけることで入浴時間をやり過ごしている。浴室にうっすら光が漏れてくるから、それほど怖くはない。ずっとこれでもいいんじゃないか、と思えるほどだ。けれどそうしていると次は脱衣所の電球が切れるだろう。そうなると今度はキッチンの電気で代用することになるだろうが、それでは脱衣所に光が届いても、浴室にまでは届かない。
 何だか面倒になり、浴室で使える防水のランタンを、三十分ほどかけて検索した。「いやいや、普通に浴室の電球を買ったら済む話じゃん」と声が聞こえた。私はちょうどそのとき、お湯に浮かべるLED式のキャンドルライトに心を奪われていたところだった。薔薇の形でお洒落で、とても良かった。けれどそのキャンドルライトには致命的な欠陥があった。何と、『お風呂で使った後は十分に水気を拭き、乾かしてください』とのこと。

「お風呂に置きっぱなしにしておきたいんだけどなあ」
「いやいや、普通に電球を買ったら済む話じゃん」
「そうなんだけど、このキャンドルライトは可愛いし、癒されそうだよ。日々の疲れが取れるかも。これでお風呂にちゃんと浸かる習慣がつくかもしれない」
「何だかんだ言って、電球カバーを外すのが面倒なだけなんじゃないの?」
「よく分かったね。あの電球カバーを外すには、椅子を持ってこないといけない。寝室のサイドテーブル代わりにしている椅子を使うことになるだろう。あそこには加湿器とリップクリームとハンドクリームと耳栓と懐中電灯が置いてある。まずはそれをどかさないといけないし……あ、懐中電灯を持ちながらお風呂に入るというのはどうかな?」
「うるさい! つべこべ言ってないで早く電球を替えろ!」

 今月中に浴室の電球を替えること。
 これが当面の目標となりそうだ。目標があるのは良い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?