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無臭が好き

 職場で『蒸気でホットアイマスク』の話題が出た。同僚は、購入したアイマスクの香りが合わなかったらしい。苦手な香りの話で一頻り盛り上がった後、やっぱり無香料が最高、という結論に落ち着いた。
 車の消臭剤も、いくつか試したけれど、微香タイプを選んでみても、香りがきついと感じることが多い。そのため現在は、消臭剤というより脱臭剤のようなものを使っている。あまり効果は実感できていない。
 車は総じて変な匂いがする。座席そのものの匂いやドライバーの体臭、食べ物、芳香剤なんかが入り混じることで、閉塞感に磨きがかかる。だから匂いは無であればあるほど良い。

 子どもの頃、家族で魚屋さんに行った。他の皆は平気そうだったけれど、私は魚の生臭い匂いがどうにも苦手で、早くその場を離れたかった。お店を出るとすぐに外の空気を目一杯吸った。けれど私の中に染み込んだ魚の匂いはなかなか離れなかった。
 その日の帰り道、初めて車酔いを体験した。とても暑い日だった。ドアポケットに置いた腕がじとりと汗ばみ、目がチカチカし、胃がムカムカした。今にも吐いてしまいそうだった。しかし当時の私はそれを上手く言語化できず、ただ押し黙って硬直することしかできなかった。
 その後どうなったのかは全く覚えていない。車が自宅に向かったのか、それとも祖父母宅に向かったのか、私は結局嘔吐してしまったのか。綺麗に忘れてしまった。
 ただ、車酔いの感覚だけは克明に覚えている。未だに乗り物に酔いやすいため、一時間以上の移動の際は必ず酔い止めを服用するようにしている。それでも酔ってしまうこともある。例えば新幹線で隣の席の人の香水が強いときなんかは、もう絶望的だ。
 この世には匂いが溢れかえっている。本当は、シャンプーもコンディショナーもボディソープも、洗剤も、なるだけ無香料のものを使いたい。しかし全てを無香料で統一することはできず、「この匂い、ちょっときついなあ」と思いながら、トリートメントなどを使っている。

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