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運命

 たまに、雑誌の星座占いコーナーを読むことがある。基本的に占いは信じていないが、何か素敵なことが書かれているかもしれないから、目についたら読む。わざわざ目次を辿って読みはしない。あくまでも、目についたら、だ。
 仕事が上手くいくでしょう、とか金運絶好調、といった文言が書かれていたなら素直に喜ぶ。今月はいまいちです、大人しくしておきましょう、と書かれていたならそっと雑誌を閉じ、見なかったことにする。
 そもそも同じ星座の人が全員同じ運命を辿るわけがないのだ。だから占いは、良いことだけを鵜呑みにしておくに限る。
 とはいえ、自分と同じ生年月日の人に出会うと、どうしても運命めいたものを感じずにはいられない。星座占いは信憑性が低い気がするが、生年月日占いならば、ちょっと信じても良いかもしれないと思うくらいには、同じ生年月日の人間に親近感を覚える。
 これまでに出会った同級生のうち、同じ生年月日の人が二人いた。二人とも血液型まで同じだったし、内一人に至っては生まれた病院までもが一致していた。私が無意識的に共通点を見つけ出そうとしていたのかは自分でも分からないけれど、二人と私には、それぞれに似通った部分があった。
 一人は中学時代の同級生の女の子で、クラスのリーダー的存在だった。誰とでも早く打ち解け、大人っぽく、自己主張のはっきりした人だった。それが故の威圧感もあり、彼女を前にすると萎縮してしまう子もいたくらいだった。とにかく自分の意思を曲げない、竹を割ったような性格の人だった。そんな我の強さに私は自分との類似性を見た。
 もう一人は高校時代の同級生の男の子で、アニメオタクだった。絵を描くのが好きで、手品が上手かった。端正な顔立ちをしており、声優の小林裕介さんに少し似ていた。小林裕介さんの目線の動かし方とか笑い方を見る度に、彼のことを連想する程度には似ていた。
 当時、オタクの地位は現在ほど高くはなかったのだが、彼がギャルゲーのヒロインの絵を堂々と描いていても、周囲には常に人だかりができていた。そもそも入学当初の自己紹介の時点で既にクラスメイトにウケていた。本当に漫画みたいな人だった。
 そんな人にこんな感情を抱くのはおこがましいが、それでもやっぱり、私もアニメオタクで絵を描くのが好きだった、という点で、親近感を覚えた。
 有名人でいうとてんちむさんが同じ生年月日なのだが、やっぱりどこかに共通項があるような気がしてならない。高校生の頃はてんちむさんが出演していた番組を見ていたし、ほとんど同時期に銀魂にハマったし、身長も同じだ。てんちむさんに関しては、ミーハー由来のこじつけに過ぎないので、この辺りで終わらせておく。

 運命というワードで必ず連想するのが、映画『NANA』。私が小学生の頃に公開された映画で、当時予告CMがよく流れていた。「あたしは運命とか信じちゃうタチだから」という台詞と中島美嘉さんの主題歌がとても印象的で、本当は映画も観に行きたかったんだけど、結局行けなかった。未だに観られていない。原作も読めていない。それでも運命といえば『NANA』で、中島美嘉さんと宮崎あおいさんが脳裏に過ぎる。
 小学生の頃に欲しかったもの、見たかったもの、やりたかったもの、行きたかった場所に、今なら手が届くはずなのに、全然回収できていないな、と思う。
 誰にも言えなかったけれど本当は、ディズニーランドに行けるクラスメイトが羨ましかった。DSで遊ぶクラスメイトが羨ましかった。メゾピアノの服を身に纏うクラスメイトが羨ましかった。『オシャレ魔女♡ラブandベリー』で遊ぶクラスメイトが羨ましかった。ピアノを習っているクラスメイトが羨ましかった。私立中学を受験するクラスメイトが羨ましかった。
 ディズニーランドとディズニーシーには、高校生の頃に一度ずつ行ったきりだ。隣の県にあるのだから、日帰りでいつでも行けるのに、全然行けていない。行きたい気持ちはある。ただ、アトラクションに乗る気はもうない。ホーンテッドマンションの頂上で心臓が浮遊した感覚を、未だに忘れられずにいるのだ。単純に乗り物酔いもする。だから遊びに行くとしたら、食べ歩きをして、散歩をして、写真を撮って、多分終わりだ。昔よりマシになったとはいえ、着ぐるみ恐怖症もある。
 着ぐるみの中は完全なるブラックボックスだというのに、楽しげに抱きついたりできる人は、すごい。過去に因縁のある人物が中に入っていたりしたら、どうするんだろう。普通に怖い。
 でも、どうだろう。着ぐるみの中に自分と同じ生年月日の人が入っていたとしたら。着ぐるみの分厚い生地を越えて、何かこう、運命めいたものが漂ってきたりするのだろうか。

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