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スーパーのレジ打ちを待つ間、一体どこを見たらいいんだ

 週に一度、スーパーに食材を調達しに行く。
 かつては買い物かごに商品を入れる際、合計千五百円以内に収めるべく頭の中で計算していたのだが、複合的な理由で数年前に辞めた。主たる理由は食費を月一万円以内で暮らすことに喜びを感じなくなったのと、物価の高騰、だったような気がする。が、それは後付けで、単純に面倒になっただけかもしれない。
 一応、野菜を沢山摂ろうと心がけはするのだが、野菜売り場を前にすると、どうしようかなあと少し呆然としてしまう。何を食べたら良いのか分からないのだ。
 結局、買い物かごにはいつも大体同じものが入る。手で千切れるレタスや小松菜、ほうれん草、舞茸、しめじ、それからそのまま食べられるもやし、トマト。にんじん、じゃがいも、ピーマン、茄子、豆苗なんかも二週に一度くらいは買う。包丁やピーラーを用いるのがとにかく面倒で、レシピを検索したり考えたりするのも面倒。なのでいつも炒めて調味料を塗りつけるか、味噌汁に入れるかしてお茶を濁す。
 そうなると惣菜を買うのがベターのように感じるが、味が好みじゃないものもあるため、慎重に吟味しなければならない。惣菜は、色々試した結果、ポテトサラダやたまごサラダ、鯖の味噌煮、和え物辺りに落ち着いた。
 これでも一人暮らしを始めたての頃は、レシピの本に倣い、様々な料理に挑戦していた。それも途中で飽き、全ての食事をコンビニ弁当で済ませていた時期もある。野菜を買うようになっただけでもいくらか進歩したと言えるだろう。
 少しでも買い物時間を短縮するため、身動きを取りやすくするため、カートは使わないというポリシーがある。時には買いすぎて腕が千切れそうになることもあるけれど、これは自分で決めたルールなので致し方ない。
「お願いします」
 かごを台に載せ、店員さんに委ねる。近頃は「アプリはお持ちですか」といった質問を高頻度で受けるようになった。私は「いえ……」とぼそぼそ答える。店員さんによっては「スマートフォンはお持ちですか? すぐに登録できますよ」と案内が続く。その間もバーコードは小気味良い音を立てて読み取られ、商品はかごの中に規則正しく積まれていく。「いえ、持ってません……」
 会話の間も店員さんの手は一瞬も止まることがない。茄子やきゅうりの本数をタッチパネルに入力し、肉やパンなど潰れやすそうな物は端に寄せる。その手腕に惚れ惚れするが、じろじろ見すぎても良くないなと思い、視線を逸らす。
 リアルタイムに金額が加算されていくパネルに目を向けた後、ここも見つめすぎていては威圧感やプレッシャーを与えてしまうかもしれないなと思う。また視線を逸らす。特に見るべきものもないのに明後日の方向に目を向け、遠くの商品やATMやプリンターのコーナーをぼんやり眺める。そうしているうちに終わる。ほっとする。

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