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ちょうど良い

「これから修学旅行生の団体様がいらっしゃいますので、混雑が予想されます。お早めの搭乗手続きをお願い致します」
 空港内に流れたアナウンスの通り、待合室には五十人ほどの修学旅行生が列を成していた。カーペットとはいえ地面に直接座り込んでいる生徒たちを前に、物懐かしさを感じずにはいられなかった。
 学校行事では何故か、私も地面に三角座りをした。不衛生極まりないが、学生の頃はそれが当たり前で、制服のスカートが汚れることも厭わなかった。場所は駅前や観光スポット前など様々だったが、前に立つ先生はほとんどのシーンで怒っていたような気がする。それはどこかの班が集合時間を過ぎても戻ってこなかったり、誰かがあまりに煩かったり、誰かが非常識な行動をしでかしたりしたことで、度々勃発した。

 今回遭遇した修学旅行生も、やっぱり先生に注意を受けていた。
「なあ、ここな、通路やねん。あれ見てみ、優先席って書いてあるやろ。ここ塞ぐなや」
 輪になってトランプで遊んでいた生徒たちは椅子を振り返ったが、振り返っただけで、立ち上がろうとはしなかった。私は先生に対して思わず突っ込みたくなった。そもそも通路に座るよう指示したのは先生じゃないのか。というか通路じゃない場所なんて、ここにはないんじゃないだろうか。椅子はガラ空きなのだから、地面ではなく椅子に座らせてあげても良いのではないか。地面に座る必要があるのなら、制服でなくジャージの方が合理的なのではないか。

 座るといえば、私は高校時代、数え切れないほど正座をした。先生は何かにつけ皆を集めて正座をさせた。それにより校内の風紀が改善されるかといったら、決してそんなことはなかった。マナーを守らない人はそのままだったし、煙草を吸う人は吸い続けたし、いじめはなくならなかった。先生は一学年全員を呼び出し、時には全学年全員を呼び出した。こんな不毛な時間は何か別の時間に充てるべきだと当時は思ったが、今考えると世の理不尽さを学ぶ良い機会だったのかもしれないとも思う。

 今回の旅では実に様々な乗り物に乗った。自家用車に電車にタクシー、バス、飛行機。だからユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行ってもアトラクションに乗る気にはなれなかった。しかし何にも乗らなくとも十分楽しむことができた。
 ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは、異国感はあれど異世界感は薄い。少し目線を上げれば敷地外を走る車が見え、常に現実的だった。確かに現実であるのに、アメリカンな街並みやあちこちから漂う美味しい匂い、飛び交う様々な言語、そういうところに非日常さを感じ、とても面白かった。海外旅行に行く勇気がない私にとってはある種ちょうど良い場所だった。

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