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机が欲しい

 また机から物が落ちた。壊れた三色ボールペンとA5のリングノート、手帳。
 ボールペンは仕事で使っているうちにクリップの部分がもげてしまったのだが、筆記機能には何ら問題ないので、自宅で使い続けている。リングノートは小説を書くときに、手帳はスケジュールと支出管理、週ごとの目標を書くときに使っている。
 二〇一八年に購入したこの折りたたみ机はとても小さく、ノートパソコンとマグカップを置いたらそれだけでいっぱいになってしまう。そこにリングノートや手帳、メモ帳、電子辞書、本、筆箱、スタンプ、マニキュアを置いているため、隙間が一切ない。だから少し手が触れただけで簡単に物が落下する。それならば物を置かなければいい。それは分かっている。
 なのに一人暮らしを始めてからというもの、テーブルも机も、整然とした状態を保てた例しがない。現在我が家にはこの極小折りたたみ机の他に、センターテーブルが一つある。ソファーに座った状態で食事ができるようにと、ローテーブルよりは高く、けれどダイニングテーブルよりは低めのテーブル。ここにもやっぱり物が所狭しと置かれている。リモコンに薬箱、本、ノート、メモ帳、栞、鏡、ブラシ、シュシュ、鼻をかんだティッシュ。中央のみスペースが空いているのはそこで食事をとるからだ。食事といっても自炊能力が低い上にそこにかける気力もないため、テーブルに並ぶのはせいぜいご飯とお味噌汁、納豆、サラダ、トップバリュのお惣菜とか、まあ、そんな感じの適当なメニュー。物が邪魔で食器やタッパーが置けなければ、肘で物をどかす。そういう風に生活している。
 センターテーブルはさておき、問題は折りたたみ机だ。今まさに対面しているこの机から、もういい加減に卒業したい。そう思い、楽天市場のアプリを開いた。机を探す旅に出る。闇雲に探しても日が暮れるだけなので、条件を絞り込んでみる。

・金額:一万五千円以下
・レビューの星:四以上
・理想のサイズ:高さ七〇センチ、幅七〇~八〇センチ、奥行き四〇~五〇センチ程度

 組み立ての有無も重要で、できることなら完成品が良い。組み立てる必要があるのなら、簡単なものが良い。
 私は工場で働いていた時代にネジ締めの作業が上手くできず、大量の不良品を出したことがあるので、ネジ締めにはちょっとした苦手意識がある。けれど自分の手先を不器用だと思ったことは一度もない。小学校時代、図工の時間にノコギリで指を切ってしまったことがあるけれど、高校生まで靴紐が上手く結べず縦結びのまま出かけていたけれど、玉結びも玉留めも不格好に膨らんでしまうけれど、幽霊だったとはいえ中学時代は美術部だったし、父方の祖父は大工だった。
 それでも、机の組み立ては回避したい。そうなると自ずと折りたたみ机に目が吸い寄せられる。そういう商品は何故か「九九九九円」などという値段がつけられており、つい、嘘っぽいなと思ってしまう。九九九〇円でも一万円でもなく、九九九九円。うーん、嘘っぽい。
 まあ嘘だとしても希望条件にはぴったり当てはまるし、レビューも悪くないし、いいか、と思い、買い物かごに入れた。入れただけで、購入には踏み切れていない。というのも、今使っている机を捨てるのが億劫だからだ。天板と脚を上手いこと解体すれば普通ゴミとして処理できるのかもしれないが、それにはネジを緩めなければならず、前述の通りそんなことはしていられないので、結局のところ粗大ゴミか不用品回収に出すしかないのだ。いずれにせよしかるべき会社に電話をかけなければならない。電話。これが本当にいつまで経っても苦手で仕方ない。スマートフォンから電話機能を排除してほしいと本気で考えるくらい苦手だ。何せ親との電話さえ緊張して声が上擦るのだから。仕事柄電話を受けたりかけたりすることは多いけれど、通話中は一秒でも早く受話器を置いてしまいたいといつも願っている。
 電話といえば、先日Xのアプリを開いたら、「音声通話とビデオ通話が利用できます」といった通知が表示され、反射的に拒否してしまった。よく考えたら私のアカウントは非公開のROM垢なのでそんなに過敏になる必要はないのだった。
 机について書き始めたのに電話の話になってしまった。ああ、机が欲しい。

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