見出し画像

二時間前行動を心掛ける

 ここ二、三年ほど、公共交通機関に乗る日は、少なくとも二時間前には目的地に着くようにしている。
 例えば美容室やまつげサロンには電車に乗っていくのだが、その店舗の最寄り駅に二時間前に着くようにしている。そういう話だ。予約を入れた以上、その約束を決して破ってはならない。
 電車が遅延したらどうしよう、朝起きて体調が優れなかったらどうしよう……不安ならいくらでも湧き起こり、胃に重圧をかけてくる。だから二時間前行動は、店舗側への忠義心というより、自分を安心させるためのもの、という側面が大きい。
 電車の遅延の要因は天候のみにあらず、人身事故や線路上の障害物、乗務員の急病なんかもあり、予測不能だ。都会のように電車が続々と入ってくるわけではないから、時刻表はある程度頭に入れておかなければならない。
 無事に二時間前に着けば、お気に入りのカフェで読書をしたり、文章を書いたりできる。もしも電車が一時間遅延したとしても、予約時間に遅刻することはない。自分の行動を肯定できる上、カフェで過ごす時間も残っている。遅延が一時間半以上に伸びたなら、きっと落ち着かない気持ちになるだろう。幸運なことに、まだそんな機会は訪れていない。今後も訪れないことを願うばかりだ。

 鈍行電車の場合は二時間前行動で良いかもしれないが、これが新幹線や特急、飛行機になってくると、また話が変わってくる。鈍行と違い、乗車券の予約が必要だからだ。新幹線や特急に乗る際は乗り換え時間を一時間以上は見積もっておく。飛行機に乗る際は、最低でも三時間前に空港に着き、二時間前に保安検査場を潜り抜け、搭乗口前の椅子に座っておきたい。
 先日、沖縄に行った。正直、行きはしくじっても良かった。一人旅だから、チケットが無駄になっても諦めがつく。飛行機の座席やホテルの部屋に空席を作ってしまっても、料金は全額支払われるのだし、さして不満には思われないはずだ。私個人が落胆しながらUターンすれば良いだけのこと。そういう意味では気楽だった。気楽に一時間半前に搭乗口前の待合室に行くと、誰一人としていなかった。私が一番乗りだった。それにちょっと驚きながら、読書をしたり居眠りしたりして過ごしていると、航空機の到着が三十分遅れるというアナウンスが流れた。私はホテルに電話をした。
「こういうわけで、チェックイン時刻が一時間ほど遅れてしまうかもしれません。二時間……は遅れないと思うんですが」
 ホテルのスタッフさんは「大丈夫です。お気をつけてお越しください」と仰ってくれた。

 帰りの空港には出発の四時間前に到着し、お土産を見て回ったのち、二時間前に搭乗口前で待機した。翌日は仕事だったし、変更できそうな便もなかったため、何としてでもその飛行機に乗らなければならず、不安が大きかった。
 搭乗口前の椅子で過ごしていると、空港のスタッフが近づいてきて、「搭乗口が変更になりました」と案内された。出発時刻も十五分ほど遅れた。内心不安だったが、それでもきちんと飛行機は飛び立ち、無事帰宅できた。
 飛行機という乗り物は、というか乗り物全般に言えることかもしれないが、なかなか上手く事が運ばないものだなと学んだ。
 あの日は他の便も大幅に遅延したりフライトが中止になったりしていて、掲示板を眺めているだけで具合が悪くなりそうだった。こういう人間は、やはり余裕を持った行動を心掛けると同時に、他の選択肢を十分に考慮しておく必要があるのだろう。公共交通機関と自分の性質の二点について、大いに勉強になった旅だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?