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バンドの思い出と、やらかした話

 真面目さ故、基本的に約束を破ったりしないので、同級生の中では武勇伝が少ない方だと思う。それでも高校在学中のやらかしエピソードとしてよく覚えていることがある。


 中学2年の終わりから高校を卒業するまで、友人4人でバンドを組み、私はベースを担当していた。(ギターほど目立つのが嫌だったのと、陰からバンドの音を支えるのがなんとなくかっこいいという安直な理由で楽器を選んだ)

 高校最後の文化祭、私たちのバンドはそれまで欠かさず出演してきた中夜祭のライブには出ない予定だった。確かボーカルの受験が被っていたのと、忙しくて練習する時間が取れず、出るのをやめたんだったと思う。

 中夜祭が始まった。おとなしく他のバンドを見て帰るつもりだったけれど、演奏を見ているうちに、熱にあてられたのか、やっぱり出たいな…という思いが強くなってしまった。
その旨をメンバーに伝えると、(ボーカルには申し訳なかったが)同じこと思ってた、頼むだけ頼んでみる…?やっちゃう…⁈とニヤニヤ。嬉しかった。

 時間が押していたら潔くあきらめようということで、ダメ元で実行委員の下級生に話を持ち掛けると、時間あるのでいいですよ!シークレットアクトってことで出てください!!とのこと。ありがたく演奏順の最後に入れてもらうことができた。

 ひとつ課題は、代理のボーカルをどうするか。気軽に頼めるようなひとはおらず、悩んだ結果、MCが苦手なメンバーに代わり、天の声としてバンドを支えてくれていた友人を三人がかりで口説き落とし、その日限りでやってもらうことになった。(はじめは嫌そうだったが本番前には結構その気になっていたと思う)それが出番の30分くらい前のこと。
そこから急いで楽器を取りに行き、歌詞を印刷して代理のボーカルに渡し、はやる気持ちを抑えて講堂の外で出番まで練習した。

 いよいよ出番になった。司会進行の下級生のおかげか、急遽1バンド増えたことで講堂内は想像以上の盛り上がりをみせており、気分が一気に高揚する。
確か演奏したのは一曲だけ。バンドの十八番とも言える曲で、付け焼刃の練習とボーカルにしては上出来だった。見てくれている人たちの顔が輝いていて、なによりとても楽しかったのを覚えている。

 長くなってしまったけれど、問題だったのはここから。


私たちの演奏が突然加わったことで、ライブが終わったのは寮の帰宅時(門限)3分前。寮生にとって帰宅時を守ることは絶対であり、しかも都合の悪いことに当時の寮長は私だったため、自ら寮生の帰りを遅らせることなんてできなかった。


「帰宅時まであと3分です!!!寮生は急いで帰ってくださああい!!!」


 最後にマイクを借りてひと叫びすると、民族大移動か?というものすごい勢いで寮生は講堂から寮に向かって走り出してくれた。
私も片づけを終え走って寮に向かう。たどりついた玄関でぜえぜえしていると、現れたのは以前寮長をしていたクラスメイトだった。

「ねえ、寮長が帰宅時遅らせるとか何やってるの。ありえないんだけど。」

おそらく走っても間に合わなかった人がいたのだろう、正確には覚えていないが確かこんなことを言われた。

あぁ、終わったな・・・寮長自らが時間に遅れる原因を作ってどうするんだ。返す言葉もないな、やってしまった・・・先ほどまでの高揚感は急降下、強烈な憤りをむき出しにした友人を前にして、私は血の気の引いた顔で謝ることしかできなかった。

 久しぶりにかけられた厳しい言葉と表情、声色が忘れられなくて、その日はベッドにこもって泣いた。何人かの友人の励ましでようやく腰を上げ、ぐちゃぐちゃの顔で夕食をかきこんだのを覚えている。

 彼女の厳しい言葉も表情も、元寮長としての責任感からしたら当然のものだし、もし立場が逆転していたら、私も同じことをしたかもしれない。

幸いなことに彼女はそれで私を見限るなんてことはしなかった。今でも良い友人関係を保っている。


・・・これがやらかしエピソードの全容。なんだそんなことかよ、と思う人もいるかもしれないけれど、当時の私にとっては死活問題だった。

立場と責任は難しい。会社勤めはしていないからまだわからないけれど、学校にせよ家庭にせよSNSにせよ、求められている姿があって、評価する人が多いほどいろいろな意見がある。迷惑をかけない範囲で楽しいことをするのは良いけれど、人の目に触れるほど身動きがとりづらいな、と感じる。


 それにしても、バンドをやってよかった。あの日に限らず、ライブの熱狂の中にいられたことが幸せだったし、バンドを組んでいなかったら味わうことのできなかった感覚を何度も全身で感じることができた。

あの日自分がしたことが正しかったとは思っていないけれど、あの場でライブができてよかったなあと今では思う。


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