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Roma /Rainy night

上海で乗り継いだ飛行機はローマの夕方へ到着した。全部で14時間ほど乗っていただろうか。機内で血の気が引くほどの腹痛に襲われ、お客様の中にお医者様はいないのかと、聞くこともできずただ考えていた。

一年と少しぶりのローマは全く変わっていなかった。ただあの夏とは違って、激しいスコールにより足場が悪くなっていた。長い旅行のために、靴はラバーのレインブーツを履いてきていた。しかし頼りない折り畳み傘しか持っておらず、空しくも靴下までが浸水してしまった。初日は眠るだけなので、テルミニ駅から徒歩3分、一泊1,400円のドミトリーを予約していた。宿に着きシャワーを浴びているとき、思い出したかのように生理が来た。

旅行には服を4着のみ持って行った。地元の古着屋で300円、500円のニットとパンツを買っておいたのだ。そこに捨てる予定だった服を合わせて4着。到着した夜に、このうちの一枚を生理によって捨てる羽目となった。

部屋には2段ベッドが二つ並んでいた。そして既に先客がいた。彼女は私が部屋に入った時、オンラインで何かの打ち合わせをしているようだった。年齢は50代くらい。職業は"Scientist"(科学者)と言っていた。出身はヨーロッパだが、家を香港に構えており、講演会をするために世界中を飛び回っているようだった。先週はアメリカにいた。ここには3日間居たけれど、明日にはイタリアを出る。そんな調子だった。

消灯までの時間、私と彼女は少し話をした。私はホステルならではの、この交流が楽しみの一つでもあった。昨日までは赤の他人、明日からも会うことはないであろう者同士の会話が。

私は、仕事とは別で勉強することが好きであること。例えば心理学、哲学、地学、語学、民族学、宗教学について、まだ探求したい気持ちがあることを明かした。それに対して彼女は、「あなたはやりたいことをもっとやるべき。今ではオンラインでどこにいても独学は可能だから、その気持ちを失くさないで、持ち続けてね。素敵なことだから」と話してくれた。

翌朝、小さな気配で目を覚ましたのは5時くらいだっただろうか。「起こしちゃった?ゴメンね。カーテンと窓開けていい?昨日はすごい雨だったけど、今日はお日様が出てるし風を入れましょう」起き抜けに母親くらいの年齢の女性と話すのはとても新鮮だった。

「大丈夫。時差ぼけしてるし、眠くない。昨日の雨のせいで、私の靴下はもう履けなくなったの。見て」そう談笑した5分後には、彼女は空港へ向かうためにその部屋を去った。

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この人のこと、忘れてはいけない。名前はわからなくとも。もう会うことはなくても。

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