いまさら「HUNTER×HUNTER」を読んだ

この記事は2021年6月10日に公開した記事を再投稿したものです。

みんなも変に逆張ってしまった結果、かえってなかなか手を出す機会がなくなってしまった作品というものはないだろうか。ボクはある。結構ある。なぜなら逆張りオタクなので。


正直こんな話をするのは少し恥ずかしいのだけど、ボクにとってそんな作品のひとつだったのが「HUNTER×HUNTER」でした。多くの知り合いは読んでいて、面白いのだろうという漠然な確信を持ちつつも、今となっては手を出す機会がないまま時間だけが経過してしまった。

実は一切知らないというわけではなくて、昔やっていたアニメを少しだけかじったことがある(ハンター試験編くらいの頃)、ヒソカというキャラがいる、幻影旅団というネトゲのクランでよく見る単語の語源、あとはまぁ話の前後は知らないけどゴンさんくらいはかじってる程度。

そんな曖昧だった認識の作品について、今回は偶然にも機会があって暗黒大陸編の途中くらいまで読んでみました。結論からいうと普通に面白かったです。人気なのも当然頷けるねって感じでした。


そんなわけで今回は令和になって初めて「HUNTER×HUNTER」に触ってみたオタクの感想みたいなものをいくつかの観点からつらつらと書き綴っていこうと思います。

でもいまさらこんなこと語るのかなり恥ずかしいし、もうそれファンの間では何年も前に語られてきたことだよって思われるかもしれない。でも時にはこういった作品との出会いも必要なので、今回は恥ずかしい気持ちをぐっと心に押し込めて書き出していきたいと思います。

当然、ネタバレがあるので作品をまだ見てないよって方は注意してね。



・念という能力

ボクが観たことがあったのはハンター試験編までだったので、能力バトルものであるということはぼんやりと知りつつも実際にどんな感じなのかはまったく知らないまま作品を読み始めた。

しかし試験中はもちろん念という概念さえ出てこなかったので、ただのバトルものみたいな感じだった。ヒソカがただの快楽殺人者みたいな時期だった。いや間違っていないけど。

個人的に面白いと思ったのは、連載時期を考慮するとあの時代の能力ものとしてはかなり細かく設定があった部分で、作者の中できちんとルールがあるからこその魅力となったと思う。


一言で能力ものと片付けるには、身体能力(特に気配遮断や、気配探知の面)にかなり影響を及ぼし、そもそも念を習得しているかどうかで戦力に雲泥の差ができる上、そこへそれぞれが獲得した能力が乗っかってくるというのは、今では珍しくもなかったのかもしれないけど、当時はだいぶ時代を先取りしていたのだと思う。

逆に言えばまわりがこの作品から影響を受けたのかもしれないし、間違いなく能力バトルものというジャンルで時代を築いてきた作品なんだなと感じた。

呪術廻戦は特にハンターハンターとよく比較されたり、作者も影響を受けていると明言されていたりするが、読んでみるとなるほどたしかに。という点が非常に多かった。

ただ個人的に気になったのは、念という能力が作品の良さを伸ばしているのと同時に足枷になっている部分もあると感じてしまったところ。


この作品におけるハンターという職業は、いわばなんでも屋でありながら試験には非常に高い基礎身体能力が要求されていることがわかる。そもそもこの作品がバトルものであるし、何をするにしてもそれくらいの能力は持って然るべき、というのはもちろん納得できる。

しかし最序盤では念という能力はその性質ゆえに悪用されないためといった理由から世間から秘匿された概念であることが明かされている。少なくとも非常に低い合格率のハンター試験をパスした者でさえ、その存在を欠片も知らない程度には、世間から隠匿されている模様。

しかしヨークシン編以降、ハンターでもないモブキャラが平然と念能力を認知し習得していたり、そういった一般人の前で「念による攻撃だ!ドン!」みたいな演出が入ったり、もっと言えば一般観客の見ている前で念能力ばんばん使っていたりと、その秘匿性については疑問視するところが多い。


個人的に感じたのは、特別性というものを保つために用意した世界観の背景が物語の展開に対して足を引っ張っているんじゃないかという点。ハンター試験とは別に念の習得場面を用意するのではなく、ハンター試験の中で念という概念を学んでいく方が展開の矛盾や、いわゆるやられ役の念能力者が多数いることについても違和感なく説明できていたように思える。

いやだってね、あれだけ過酷な試験を越えてようやくハンターになった人が数ヶ月から年単位で訓練してようやくそこそこ扱えるようになる念という能力を、主役陣に遠く及ばない実力のモブキャラでさえ物語が進むほどあたりまえに習得しているんですよ。


ケチをつけたいわけじゃないけど、思わず作品の連載が始まる前から出す予定だった能力ではなくて、後出しで決まった設定なのかなって思ってしまうやつ。

能力自体はものすごく面白いけど、その概念を登場させたタイミングと、その設定の下地かな。


・ヒソカというキャラクター性

この作品を語る上で外せないであろう魅力的なキャラクターのひとり。実際読むほどにこのキャラがとにかく良い意味で濃いと感じた。

最初はただの快楽殺人者で悪役ポジションみたいな感じだったのが、どちらかというとアンチヒーローや場合によって中立キャラとなり、更には敵側組織をとにかく荒らす道化師に。

奇術師とはよく言うけど、道化としての荒らし役がとにかく強い。これだけ癖の強いキャラをブレずにあちこち陣営を移動させ、その上で人間性を最大限引き出しているのは見事としか言いようがない。


特に面白いと思ったのはヒソカの念能力で、作中でも本人が明言しているとおりやたらめったらに汎用性が高い。能力自体は派手でもなければ初見で壊れとは感じないのに、実際に作中での活躍を見るととにかく無双している。

ガムとゴムの性質を持っている念のあまりにも多様性ある戦術は間違いなく他の能力ものには真似出来ないし、これは念という能力の性質を最大限に利用している。ヒソカの能力を活かすために念の設定を決めたといっても納得できるレベル。

加えてまやかしのテクスチャを貼り付けるもうひとつの能力が嘘つきキャラと相まって戦闘においても心理戦で相手を出し抜く見事な塩梅に仕上がっている。それぞれの応用性もさることながら、二つの能力が組み合わさった時の爆発力がとんでもない。いやはや能力としてここまで凡に感じる能力でありながら、これほどまでに強さを見せつけられるのはとにかく作者のずば抜けたセンスと言わざるを得ない。脱帽。


グリードアイランド編における味方ポジションへの入り方も絶妙で、味方になった時の圧倒的な安心感よ。主人公の顔をしっかりと立てつつ、全力で存在感をアピールしていくその癖の強さ。素晴らしい。

作中では突然入った団長VSヒソカのバトルも、能力ものとしては最大クラスの心理戦を見せつけてくれて、最後までヒソカに勝ち目があるのではないかと感じさせる演出が随所にあった。

抜身のナイフみたいな初出からは想像もつかないくらい、蓋を開けてみたらただの愛されキャラだった。関係ないけど髪下ろした方がイケメンだから絶対普段から下ろしてた方がいいと思う。

ところでこれは完全に余談なんだけど、ヒソカってやっぱりえっちなことするときは自前で避妊できるのかな…………めっちゃ気になっちゃったよ。


・傑作キメラ=アント編

これが本題。実際、ハンターハンターが面白かったと断定できるようになったのは、ここからだった。

そこまでのストーリーは確かによく出来ているし、魅力的なシーンもいっぱいあった。でもどこか自分には合わないジャンルだな、というどこか遠いところから見ているような、そんな気持ちがあった。

そんなボクに衝撃が走ったのがまさにこのパート。とんでもない速度で進化を遂げる昆虫生物の襲撃と、偶然そこに居合わせた主人公たち。そこで待ち受けていたのはこれまでのストーリーからは想像を絶する怒涛の展開だった。

これまでの戦いでだいぶ経験を積んだはずの主人公たちが苦戦するモブ敵の群れと、ひさしぶりに再会できた師匠ポジションキャラが一方的に惨殺され、手も足も出ないレベルの強キャラの登場。

これまでも犠牲者や死人はいたものの、それはあくまでも派閥抗争といった中で発生した敗北者や犠牲者たち。それがこのパートでは何の罪もない一般人たちがそこで暮らしていたからという理由だけで平気で殺され、餌にされていく。

さらには久しぶりに登場した初期のキャラたちでさえも、あっという間に死んでいくほどの過酷な展開。そして物語は人と虫による、種の生存をかけた戦いにまで発展していく。


これほどまでにシリアスな展開になるとは思っておらず、ここまでしんどい展開が突然始まるとも思っていなかったので、割と初見びっくりしすぎて心臓が痛かった。

呪術廻戦でいう渋谷事変レベルだよね。本当に顔キャラたちがぽんぽん死んでいってびっくりした。しかも敵側があまりにも強すぎる。それなのに覇権された味方側の人数はあまりにも少なくて、劣勢とかいうレベルを越えている。

かなりしんどい展開を覚悟して最後まで読んでみて、しかし最後にボクを待ち受けていたのはしんどさではなく、あっけなさだった。


近衛の三人や王というあまりにもパワーインフレが過ぎるキャラたちが敵側で圧倒的な存在感を放っていく中で、それぞれがそれぞれの理由で人間という種を、心というものを理解していく描写が、しかしそれはそれとして戦いという避けられない運命が、何度も交差していった。

人が虫側への理解を示すこともあれば、逆に虫が人側を理解もした。もしかしたら、王たちとは和解する道が残るのではないかという、そんな気持ちを抱いてしまうほどに、敵としてあまりにも魅力的過ぎた。

特にメルエムとコムギの軍儀シーンは、まさにそんなふたつの種へのアンサーとしてあまりにも見事で、美しく、儚い名シーンだったと言える。最後のラストシーンに至っては、この漫画を読んで唯一涙をぼろぼろ流してしまったシーンだった。

誰もが、手を取り合える道があったはずで。しかしすれ違いの果てに、キメラ=アントの王たちは人間が生み出した兵器によって命を落とした。能力バトルものという作品において、決定打となったのが人間の科学兵器というのは、あまりにも酷で、冷たくて、悪意を表現するのにこれ以上ない幕切れだったと思う。

師匠を手にかけられた復讐心に燃えるゴンとネフェルピトーの最後もまた、しんどい上にただひたすらに虚無だけが残るシーンだった。結局、この戦いにおいて明確な勝者はおらず、憎しみによる負の連鎖が延々と続いた。


能力バトルものによる大規模な戦闘でありながら、その有り様は現実における戦争のそれに近いものがあったと思う。こんなにもあっけない終わり方をして、たくさんの人がたくさんのものを失って、それでも前に進まなければならないという物語。

そして、そこにあった手を取り合える未来という可能性。選挙編が終わったあと、最後に差し込まれていたメルエムとコムギの手に、ボクは静かに涙を流した。

魅力的過ぎたが故に、ここで退場してしまった王たちが非常に残念でならない。ネテロというおそらく作中最強クラスのキャラの、怒涛の名言ラッシュが人々の心に刺さりミーム化するのも当然といえる。


この物語はキメラ=アント編をもって、非常にメッセージ性の強い作品へと変わった。おそらくこのパートがなければ、ボクはこんな記事を書くことさえなかったと思う。

感動、というよりは衝撃だった。こんな展開が待っていたことに対する衝撃。やっぱり世の中にはまだまだ触れていないものすごいものがたくさんあって、だからこそボクはこれからもいろんな作品に触れていきたいと思っている。

その中でひとつだけはっきりと言えるのは、触れるタイミングに遅すぎるなんてことは決してないということ。もちろん早く触れたり、盛り上がっている瞬間をリアルタイムを味わうことは非常に魅力的だ。

だが、たとえ遅くなってしまったとしても、その魅力が失われることはない。本当に面白い作品は何年経ったとしても、そこにずっと在り続ける。大事なのは、その作品と出会えるかどうかだ。


いろいろと書いたけど、結局この作品は最後まで完結するか心配だなあ。みんなが続き書け!って言ってる気持ちが理解できるようになっちゃって、これからの作品の展開にドキドキしちゃうね。

でもやっぱり作者さんには無理はしないで欲しい。でも続きはちゃんと書いて欲しい。ああ、この二律背反。

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