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ももこの幼稚園生活 ③

ももこが年少の時は、毎日シール貼りのお仕事をするか、きゅうりやニンジンを切るお仕事をしていた。

幼少のときに腕を動かす動作をするのが良いらしく、包丁を使う、コーヒーミルを回す、アイロンを使うなど、なかなか家庭ではさせない事を幼稚園では経験させてもらえた。

包丁は子ども用包丁を使い、実際に野菜を切ったりしていたが、コーヒーミルは空っぽのままゴリゴリと回したり、アイロンもコンセントをささずに布の上でアイロンを動かす等、二の腕を動かす訓練になる「お仕事」もあった。

ももこは、園庭で育てたきゅうりを毎日切っては持ち帰り、浅漬けにして美味しく頂いた。人参を切った時はカレーやシチュー、形は大小さまざまなところが何とも微笑ましかった。

ももこ自身は二の腕を動かす訓練などしているつもりはないだろうが、家のいたるところにその痕跡はある。リビングのテーブルに乗り、クレヨンでテーブルいっぱいに色とりどりのぐるぐるを描いたり、障子のレールをクレヨンで塗りつぶすなど、大胆にクレヨンを使ってくれた。

クレヨンは蜜蝋クレヨンを渡していたので、落とせないという事はなかったが、完全に落としきれなかった「ももこの成長の跡」が今でもテーブルに残っている。

そんな平和な幼稚園生活を送っていた年少さんから年中さんになり、後半に差し掛かってくると、小学校受験を視野に入れているご家庭と我が家のように公立小学校を考えている家庭との間に微妙な溝が生まれ始めていた。

ももこが通っていた幼稚園は、受験を視野に入れたモンテッソーリ教育ではなかった。全ては子ども主体であり、算数教具を楽しく扱う子もいれば、ももこのように、織機やシール貼りが好きな子がいても良いはずだった。でも、この位の年齢ではこういう教具に興味を示す、という雰囲気が園や保護者の間にも漂い、一向に金ビーズにも漢字にも興味を示さないももこは、他の子からは違った存在に見られていたようだ。

3月生まれのももこは、何をやらせても同学年の子ども達より一歩遅れる。年長さんになって日が浅いある日のこと、同じ年長さんの女の子Mちゃんから、私は突然このような事を言われた。「ももちゃんのお母さん、ももちゃんはまだ漢字が書けないのね。漢字が書けないと困るんじゃないの?」

我が家では幼稚園にいる間に漢字を覚えさせようなどと考えた事はなかった。Mちゃんは小学校受験のために塾に行き、一生懸命勉強しているので、何もしていないももこが不思議だったのだろう。Mちゃんのその問いに対して私は、「Mちゃん、漢字はね、小学校に行けば誰でも覚えなければならないんだよ。今できなくても、学校でちゃんと勉強すれば覚えられるようになるから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」と言った。

ももこにはももこのペースがある。無理に漢字を覚えさせたりすると、ももこの幼稚園生活は楽しくなくなるだろう。ただただ、ももこには楽しい幼稚園生活を送って欲しい。何件も幼稚園巡りをして「ここは嫌!」と言い続けたももこが唯一気に入った幼稚園だから、楽しいが一番。夫と私はそれだけを願っていた。

この後、その時は意外だと思ったけれど、後にももこの基盤となる出来事が2つ出てきます。次回でそのお話をさせていただきます。




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