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玉虫を持ってくるおばちゃんの話

あれはいつだったか、近所のおばちゃんが急に訪ねてきた。

「息子さん、好きかなあと思って。いっつも学校行くときに虫を見ながら行っているから」

そう言って渡してくれたのは、玉虫。
プラ容器に入れて、わざわさ家まで持ってきてくれたのだ。

息子はとても喜んで眺めたり触ったりと存分に堪能していた。あっちょっと、もうちょっと、優しく・・と焦るくらいに。

誰かが我が子を喜ばせようとしてくれた事が嬉しい、というシチュエーションはけっこうある。近所のおばちゃんだけじゃなく、両親や叔母さんなどのパターンも。

そんな時、私はもう少しその嬉しさを楽しむ。この場合は、家に来る前のおばちゃんに思いをはせよう。

庭で玉虫を見つけたおばちゃん、しばしそれを眺めていて、あっと思いつく。

通学路で虫に夢中だったあの男の子、見せたら喜ぶかも・・。その時どんな目をしているかも想像する。

そうしてプラ容器に入れた玉虫を大事に持って歩きはじめる。2分くらいの距離だろうか、あの子は家にいるかな、喜ぶかな、どんな反応するかな。

ふふふと笑いながら、多分少しワクワクしながら歩くおばちゃんの心は想像してみると本当に尊かった。私は今でも時々それを思い浮かべたりする。

こういうのをどうにか仕舞っておいて、見たいときに取り出せたらいいのに、と結構本気で考えた。

もしかしたら芸術家は絵を描いたり曲をつくったりするのはこういう時なのかも、とも思った。





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