贅沢なひと時

私の記憶が正しければ、小学4年生のころ。

天気の良い、初夏のある日曜日。
今のように楽しいゲームも動画コンテンツもない、昭和の時代。
両親は共働きで、どこかへ出かける予定もなく友達と遊ぶ約束もない。
ヒマだな~と思いながら、なんとなく庭に出る。

足元に、アリの巣を発見した。
巣穴から出たり入ったり、何かを探すように触角を動かしたり
とにかくせわしなく動くアリをしばらく眺めていた。

隙間だらけの家なので、うっかりすると部屋から外まで
アリの行列ができることがよくあった。
彼らのターゲットは、部屋のごみ箱にある食べ終わったアイスの棒。

「行列ができるのを見てみたい」

そう思い立ち、台所へ行って砂糖を一つまみ拝借。

巣の入り口から少し離して、砂糖を置いた。
私にとっては小さな砂糖の山。
アリにとっては大きなごちそうの山。

暑かったのでおじいちゃんの大きな黒い雨傘をさして観察開始。

最初の一匹がお宝を発見するまでに、そう時間はかからなかった。
そのあとは、教科書で読んだ通りの手順で行列ができた。感動。

砂糖の結晶を一粒持ち上げて、巣に運ぶ。
たくさんのアリが同じ動作で巣に運ぶ。
ああ、これは何日分のごはんになるのかな?と考えたり
いったいどれだけ時間がかかるのかな?と観察を始めてしまった
ことをちょっと後悔しながらも、最後まで見届けた。
小さな山でよかった。

時々、この時のことが頭をよぎる。
だた眺めることに費やしたこの出来事がとても贅沢な時間だったなと思う。

ただ眺める。
目の前のことをただ観察する。
一つのことに集中する。

せっかちな性格も災いしてなのか、これらをすごく難しく感じてしまう。

マルチタスクを良しとして、いかに効率よく回せるか?
どれだけ生産性を上げるか、たくさんの「ねばならない」をどうこなすか・・・
これは大人になったから仕方ないことなのかもしれないけれど。
長年やってきてしまった癖だろうなとも思う。

忙しない一日のうち少しの隙間時間でいいから
スピードを落として
あの子供のころの贅沢な時間を味わいたいな。







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