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スロヴェニア共和国国歌「祝杯」

「アコーディオンの音色は人を幸せにする」非公式スロヴェニア親善大使の安西はぢめです。スロヴェニア共和国国歌「祝杯」をご存知ですか?各国の国歌はそれぞれに負うものが重く、また内容も様々ですが、主に愛国心を鼓舞する重厚或いは勇壮な曲が多いように思います。このスロヴェニアの国家や重厚でありながら優美なメロディと平和な内容が(敢えて申し上げて)ユニークなので、ご紹介してたいと思います。

まずは僭越ながら私の演奏でお聴きください。

さて、まずはこの曲の詞についてお話ししましょう。作者はスロヴェニアのみならず広くロマン派の詩人として有名なFrence Prešeren(フランツェ・プレシェレン)です。歌詞はプレシェレンが1844年11月に詠んだ8連からなる詩 "Zdravljica"(祝杯)の第7連からとられています。この国民詩人は1849年2月8日に没し、今ではその忌日を「プレシェレンの日」としていわば「文化の日」という扱いで、詩を朗読したりします。私も過去に数回、南青山にある駐日スロヴェニア大使館の「文化の日」イベントにご招待頂き、民族衣装で国歌を独奏したり、大使館の方と一緒に詩の朗読に挑戦したり、楽しい時間を過ごさせて頂きました。そのくらいこの曲の詞に採用された詩人の言葉には、スロヴェニア人の気持ちが映されているのだと思います。

【首都リュブリャナの中心にあるプレシェレン広場。今もスロヴェニアの人々に深く愛されています・2019年6月安西はぢめ撮影】

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【スロヴェニア語・英語・ドイツ語によるプレシェレンのアーカイブ】

一方の作曲者については、もう少し時代がくだってからの人でStanko Premrl(スタンコ・プレムル 1880-1965)と言います。カトリックの司祭ですが、ウィーンで音楽の専門教育を受けた人でリュブリャナに戻ってからは教会に奉職しつつ音楽活動を続け、後にオルガン学校の校長も務めています。そして、その生涯にオルガン曲や合唱曲などを2000曲以上遺しています。

現在国歌として愛唱されている「祝杯」は1905年に作曲され、プレシェレンの詩に合わせて8番まで歌われていたようですが、没後に7番を抜き出して国歌にしている訳ですね。

【原詩(第7連のみ)】

Živé naj vsi naródi,
ki hrepené dočakat dan,
da, koder sonce hodi,
prepir iz svéta bo pregnan,
da rojak'
prost bo vsak,
ne vrag, le sosed bo mejak!

God's blessing on all nations, Who long and work for that bright day,  When o'er earth's habitationsNo war, no strife shall hold its sway;Who long to seeThat all men free,No more shall foes, but neighbours be.

神は、この世に輝かしい日々を実現せんと務めし者たちの働きで、この世に住う全ての人々の間に諍いと戦いがなくなり、あらゆる者が自由になり敵ではなく隣人となる時に、その祝福を与え賜う(日本語大意拙訳)

この国歌の面白いところは、スロベニアの人々が公式行事の時などに敬意を込めて歌う「以外」に、この歌を実に愛していて、もちろん愛国心と曲の平和的な内容を充分に踏まえた上での話しですが、気心知れた親しい間柄の人たちが集ったお酒の席では杯を掲げ歌ったのちに乾杯して、中身を飲み干すようなことも行われます(主に深夜のノリ)日本人が君が代を「乾杯の歌」にするってのはちょっと見たことも聞いたこともないので、なかなか面白い話しだなと気に入っています。

さらに!先ほど挙げた原詞に戻ってみてください。改行が繰り返されて全体を良く見るとワイングラスのような足がついているタイプの「杯」の形になっていることにお気付きになると思います。プレシェレンの茶目っ気が伝わって来るこの仕掛け。そう、この曲であればこそ乾杯しても大丈夫。首尾一貫しているのです。

Na zdravije! ナ・ズドラヴィエ(乾杯)!

【夕立に遭ったプレシェレン像・2019年6月安西撮影】

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皆さんも美しき国スロヴェニアにご縁があった時にはこの国歌の話を思い出して、友人と乾杯を重ねてください。きっと友情が深まると思います。

ボタンアコーディオン安西はぢめ

参考【Wikipediaによる国歌「祝杯」についての概説】

何分にも出典がWikipediaだけでは到底資料として十分とは言えないので、新たな出典が示せる時にはまた随時追加改訂して閲覧に供して行きたいと思います。

【詞の作者、国民詩人「フランツェ・プレシェレン」】

【作曲者Stanko Premrlについて(英語)】


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