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読んだ本【23.04】

13歳からの地政学

 田中孝幸 (東洋経済新報社)

 全人類読んだほうがいい。中学生の時にこういう話を聞きたかった。でもいま読めたのは幸運なことなんだ。世界には文字が読めない人だって大勢いる。日本人は日本語が読めて日本語の本が出版されて容易に手に取れることを大いに感謝しなければならないし誇りに思わないといけないと思った。それと同時にそうではない国のことを考えなければならない。自分はたまたま恵まれた環境や時代に生まれ育っただけだとあらためて自覚する。中学生のときに聞きたかったのなら、中学生に勧めて読ませるべきなのだ。それが読者にできる恩返しになる。
 わかったつもりで何もわかっていない世の中のことは、誰かに教えてもらわないとわからない。でもそのきっかけがわからない。そういう不安を本書は解消してくれる。そしてこれは入口にすぎない。本書を読んで少しだけ世界を、現代社会をわかった気になる。そこから更に深く世の中を知っていくために必要なのは自分の興味や好奇心なのだ。将来も不安でどうすればいいかわからない、あるいは考えたこともない少年少女に、世界を知る勇気を与え、背中を押す素晴らしい本だった。世界を知って視野を広げることはとても大切なことで、本書はその足がかりになりうるであろう。

地図鉄のすすめ

 今尾恵介 (昭文社)

 地図や鉄道に対する愛がすごすぎる。古い地図と見比べて、そんな細かい違いに気づかないよっていうところを掘り下げて解説してくれるある種の奇書かもしれない。
 やっぱりは地図は魅力的だなぁ。

ウィザーズ・ブレイン Ⅸ破滅の星〈上〉

 三枝零一 (電撃文庫)

 8年4ヶ月ぶりに新刊が出るので再読。指輪強すぎ物語。14年12月刊
 紙の本は実家なので、再度購入して読もうと思ったら中古価格が高騰していた。ので、Kindleで読んだ。新刊発売と同時に増刷はしたみたいだけど。

ウィザーズ・ブレイン Ⅸ破滅の星〈中〉

 三枝零一 (電撃文庫)

 待ちに待った完結するまで死ねないシリーズ。ウィザーズ・ブレイン読んでない人は人生損している。おもしろすぎる。過酷な運命と戦うのが熱い。下巻では錬が紅蓮を相続して雲を切っていくのかな(?)

遠い他国でひょんと死ぬるや

 宮内悠介 (祥伝社文庫)

 ヤングジャンプで連載してそう。――以前も彼の小説を読んで、アフタヌーンで連載してそうとか思ったけれど、そういう漫画的要素を感じてしまう。現実の延長のような舞台でありながらも物語はフィクション的な展開をする。テンポもいいし、そうはならんやろという展開をご都合主義的と思う反面、それが自然な展開にも思う。そしてキャラクタがみんな立っている点も漫画的だと感じてしまうのだろう。
 フィリピンが舞台で、戦争の歴史と、現地の人間と、現代日本で暮らす自分と、現在の現地の情勢と、一見重たいテーマなのにどこかさわやかだった。
 遠い他国で戦ったのは自分たちの親の世代、あるいはその親の世代であるにもかかわらず、どこか罪悪感というか後ろめたさを感じていて、戦争を歴史にして忘れてしまっていいのかと自問する主人公。そんな主人公に対して、現地の人間には現代の問題があっていまを生きているのが対照的でよかった。でも、過去に縛られることができるのは、日本の本土が戦場にならずに、戦後も経済的に発展して日本人としては心に余裕があるからなのかもしれない。かつて戦場になったフィリピンの人々は、反日感情を抱く人もいるだろうが、キリスト教とイスラムとの対立や財閥が世の中を動かしている現状のほうが問題で、過去に縛られている場合ではない。それがいいことなのか悪いことなのかはわからないけれど。

会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション

 三木那由多 (光文社新書)

 なるほど。何気ない会話を分析するという行為は面白いけれど、疲れそうと思った。そして、マニピュレーションがうまくいかない鈍感な相手が世の中にはたまにいてそれも疲れるよねと思う。個人的には言葉で相手を誘導したりしてしまうことがあるタイプなので、行動を見透かされているようでドキドキした。

たったひとつの冴えたやりかた

 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/浅倉久志 訳 (ハヤカワ文庫)

 表題作がとてもよい。いろんなエイリアンが認知されている世界観で、コブラの絵柄で脳内再生された。特に2作目は内容もコブラ感あった。でもコブラの場合だと美女も守れずに死なせてしまうけど、そこは違う展開で良かった(?)。3作目は視点が入り混じって混乱した。にぎやかな宇宙だった。SFというかファンタジーなのかもしれない。

生物を分けると世界が分かる

 岡西政典 (講談社ブルーバックス)

 興味深い。全然知らない領域の話を知ることは面白い。一筋縄ではいかない大変な世界だと認識できてよかった。でも自分が命名したものが修正されたら、それだけその分野の研究が進んでいるということだから喜ばしいことだという感覚は素敵なものだと思った。

夢魔の牢獄

 西澤保彦 (講談社文庫)

 終盤になるにつれてゾクゾクするのは気温が下がっているだけではないはずだ。特殊設定と性的にドロドロな人間関係と後味の悪いラストと推理が真相なのか不明という西澤保彦の魅力が全部あった。やば。

ホリプロ鉄道オタクマネージャーの鉄ちゃん

 南田裕介 (ゴマブックス)

 当時付き合っていた彼女の話とかするの意外だった。

分解する

 リディア・デイヴィス/岸本佐知子 訳 (白水Uブックス)

 リディア・デイヴィスのデビュー短編集。
 34編もある。短いものはもちろん数行しかない。そこには様々なスタイルで描かれる様々な話がある。不思議な話の中に、ふと日常を感じる動作や感情があって物語はそこらじゅうにあるのだと思った。 

大きな森の小さな密室

 小林泰三 (創元推理文庫)

 やはり真面目なのかふざけてるのかわからないのがいいすね。8割ぐらいはふざけているんだけど、ロジックとかはちゃんとミステリしてるのがよい。わざとふざけたテンションでユーモラスに描けるのすごいよね。惜しい才能をなくしたよね。
 ひとつの短編に出てきたモチーフをまた別の短編に出すので、奇妙な構造ができあがっている。不思議な感覚を覚える。味をしめたように前向性健忘を何度も出すの面白い。
 そして、読書メーターを確認したら2020年に僕は本書を読了していて、でも全くその記憶がない。……これが前向性健忘か。

ひとこと

 本棚がたりない。

もっと本が読みたい。