振り子の等時性の破れの破れ
前提
振り子の運動方程式は次式のようになる。
振れ幅が十分に小さいとき、θ は常に十分に小さく、 sin θ を θ で近似することができるから、これは単振動の式と同等になり、周期 T は下記式から計算され振れ幅によらず一定となる(振り子の等時性)。
振れ幅がそれなりに大きいとき、θ がそれなりに大きくなってしまうので、sin θ を θ で近似することが正当化されない。すなわち、周期は振れ幅の影響を受ける(振り子の等時性の破れ)。
小学校教育における振り子の等時性
文部科学省の「小学校学習指導要領(平成29年告示)」には、下記内容が記載されている。振れ幅に対する振り子の等時性に関しては特に言及されていない。
振り子が1往復する時間は,おもりの重さなどによっては変わら
ないが,振り子の長さによって変わること。
文部科学省の「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説」には、下記注釈がある。振り子の等時性の破れを念頭においた記載のようにみえる。
その際,振れ幅が極端に大きくならないように適切な振れ幅で実験を行うようにする。
文部科学省の「小学校理科の観察,実験の手引き」には、以下の画期的な指導方法が明記されている。まず、振れ幅を±15度、±30度、±45度に変えた場合の、振り子の等時性の破れ(周期はそれぞれ+0.4%、+1.5%、+4.0%だけ伸びる)は黙殺する。そして、振り子の等時性の破れを見いだした賢明な生徒は、実験データを恣意的に処理した悪者として断罪すべきと結論づけている。
ここでは,糸におもりをつるして,おもりの1往復する時間を,おもりの重さ,糸の長さ,振れ幅を変えながら測定し,糸につるしたおもりの1往復する時間はおもりの重さや振れ幅によっては変わらないが,糸の長さによって変わることをとらえるようにする。(中略)おもりの重さや振れ幅が,おもりの1往復する時間に関係すると予想や仮説をもった児童の中には,実験の誤差をおもりの1往復する時間が変化したととらえる児童がいる。これは,自分の予想や仮説に合うようにデータを処理しているからである。
中学校入試における振り子の等時性
麻布中学校 2016年 理科
ブランコの話。振れ幅が大きいときを扱っている。振り子の等時性に関連した言及はみられない。
桜蔭中学校 2017年 理科
「ひもの長さがが60cmならば、振れ幅が±10度でも±20度でも周期は1.55秒」という設定。実際に計算すると振れ幅が±10度なら周期は1.56秒、±20度なら周期は1.57秒になるはずだが、さすがに誤差の範囲か。
女子学院中学校 2022年 理科
「1mのひもの先に 60g の鉄球を付けました。鉄球を 1 個つけて±20度の振れ幅にしたものと、鉄球を 2 個つけて±10度の振れ幅にしたものでは、どちらの方が周期長いでしょう」という超難問。鉄の比重が 7.85 であることを考えると、鉄球の半径は 1.22 cm くらいであることが分かる。楕円積分を用いて計算すると、重心までの長さが 1.0122 m で振れ幅±20度なら周期 2.0341秒、重心までの長さが 1.0244 m で振れ幅±10度なら周期 2.0346秒。有効数字を念頭において同着扱いにすべきか悩んだ受験生も多かったのではないかと推察される。
まとめ
振れ幅が小さいときに成立する「振り子の等時性」は、振れ幅が大きくなると破られる。小学校教育においては、振り子の等時性の破れを見いだす賢明な生徒こそ唾棄すべきものと考えられている。中学校入試では、振り子の等時性を扱うのはそれが近似的に成立するとき(振れ幅が小さいとき)に限られる……かと思ったらそうでもない。楕円積分まで要求する中学校もある。
参考ウェブサイト
振り子の等時性? - https://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/stat/pendulum.html
振り子の周期 - https://keisan.casio.jp/exec/system/1166754115
インターエデュ・ドットコム - https://www.inter-edu.com
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