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名作を訪ねる(8)

第8回

第8回はヘルプメイトを取り上げます。これも大変な名作です。

Michel Caillaud, 1st Prize Olympic Tourney, Thessaloniki, 1985

H#2 (2 sols.)

作者のMichel Caillaud(1957-)はGM for compositionで、チェスプロブレム愛好家の間では伝説の作家として知られています。ほぼすべてのジャンルにわたりきわめて高いクオリティの作品を発表し続けており、その創作意欲は今なおとどまるところを知りません。

さて、本作はH#2の2解です。きわめて作品を作りやすいジャンルではありますが(あるいはそれゆえに)、2020年代の今日においては、H#2はなかなか新機軸を打ち出すことが難しいジャンルです。

本作を詳細に見ていきましょう。一見して簡単に黒Kをメイトできそうです。事実、1. (黒、Qの効きをd4から外す) (白、パス) 2. Sd5 Sd4#、あるいは1. (黒、Rの効きをf4から外す) (白、パス) 2. Sf5 Sf4#という形でメイトにできます。その手順を実現するため、例えば最初の手順で1.Qa3としてみましょう。
すると、白には局面を変えずにパスをする(つまり、手待ちをする)手がないことに気づきます。たとえば白Kがf1にいれば、1.Qa3 Kf2のような手順も可能ですが、ここではそれもできません。

それではどうするか。これには、極めて独特な解決策があります。1.Qxe8!とビショップを取ってしまい、白が1…fxe8=Bともう一度ビショップを作り直すのです。
これにより、当初の目的であった「黒のQの効きをd4から外す」「白の1手パス」がともに成立していることに気づくでしょうか。あとは2.Sd5 Sd4#とすればメイトです。(1…fxe8=Q?では2.Sd5ができないことに注意。)
さて、この作品は2解の作品でした。もう1解も、1.Rxg8+ fxg8=S 2.Sf5 Sf4#と全く同様の手順を成立させることができます。

まとめると、解は以下です。
1.Qxe8 fxe8=B 2. Sd5 Sd4#
1.Rxg8+ fxg8=S 2.Sf5 Sf4#

なお、専門的な話をすると、「一度取られた駒がポーンのプロモーションによって再度復活する」という手順をPhoenixといいます。ここでは白が手順内でパスをする必要があるためにPhoenixを利用しています。

現代的なヘルプメイトでは、複数の解手順において、手の意味付けがそれぞれ共通している作品が良い作品であるとみなされます。本作はその意味において、大変模範的な作品であるといえます。

次回予定

次回はセルフメイトの予定です。


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